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GMOワールド|宗谷 敏

昆虫ワールドは奥が深い-Btトウモロコシの水生昆虫への影響

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2007年10月15日

 Indiana大学などの研究者たちが、Btトウモロコシは水中生態系に対して影響及ぼす可能性があるかもしれないという論文を、2007年10月8日付のPNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)オンライン版に発表した。米国科学財団(The National Science Foundation)は、この研究に対し資金提供している政府機関だ。

参照記事1
TITLE: Genetically Engineered Corn May Harm Stream Ecosystems
SOURCE: The National Science Foundation
DATE: Oct.9, 2007

 FoodScienceでは、既に07年10月12日に速報されており、論文の概要についてはこちらを参照していただくこととし重複を避けるが、ポイントは次の3点である。

 (1)Btトウモロコシの花粉、葉、穂軸などは畑付近の河川に流入している実態が確認され、トウモロコシの花粉を水生昆虫のトビケラが餌にしていることも判明した。

 (2)実験室内で、トビケラにBtトウモロコシの葉を摂食させたところ成長率が下がり、自然界で見つかるより濃度を上げた(ここは議論を呼びそうだが)花粉を与えた異なる種類のトビケラでは死亡率が増加した。

 (3)トビケラは水中の上位高等生物の餌であるから、Btトウモロコシが水中生態系に悪影響を及ぼしている可能性がある。

 この実験結果については、Btトウモロコシ由来のBtたんぱく質毒素が、トビゲラ(毛翅)目昆虫に対しなぜ殺虫活性などの影響を示したのかという素朴な疑問が湧く。Btトウモロコシに導入されているBt菌が産出するたんぱく質毒素であるCry1は鱗翅目昆虫(コーンボーラー)をターゲットとし、同じくCry3は鞘翅目昆虫(コーンルートワーム)をターゲットにしているからだ。

 Cry1は鱗翅目昆虫に、Cry2は鱗翅目・双翅目昆虫双方に、Cry3は鞘翅目昆虫に、Cry4は双翅目昆虫に、Cry5は線虫に対し各々特異的に有効というのが、従来からの定説である。例えば、日本Monsanto社が自社の害虫抵抗性作物について紹介しているホームページなどは、これらの理解に役立つ。

 一方、昆虫の分類をたどると、コーンボーラー(アワノメイガ)は昆虫綱→双関節丘亜綱→有翅下綱→新翅節→内翅上目→チョウ目(鱗翅目・蝶目・蛾目)に属し、コーンルートワーム(根切り虫)は最後の分類がコウチュウ目(鞘翅目)となる。トビケラも最終分類でトビゲラ目(毛翅目)となるから、研究者たちが主張するようにこれらが「近縁関係にある」とは言えなくもないが。

 ただし、トビゲラ目だけで、世界では46科、1万2000種以上の存在が認められているというから、昆虫ワールドは気が遠くなるほど奥が深い。因みに、中国などでBtワタに平気で被害を及ぼすカメムシは、一つ上の内翅上目レベルで外翅上目に別れ、直下のカメムシ目に属する。

 本件について、GM作物の環境安全性、特に非標的昆虫への影響の研究を専門とする(独法)農業環境技術研究所主任研究官白井洋一氏にご意見を伺ってみた。同氏からのコメントは以下の通り。

 (1)トビケラ類に室内試験でなぜCry1Abにより影響がでるのか疑問であり、Bt毒素をターゲット別に区別して論じていないことも引っかかる。

 (2)しかし、今まで見過ごされてきた水域生物への影響を指摘したのは意義があるかもしれないし、環境保護庁(EPA)のBt作物の環境影響評価は、ミジンコ(環境影響評価の標準生物ではあるが)だけではなく、野外でより重要な水生昆虫も使うべきという論文筆者らの主張は正論だろう。

 (3)この論文の室内試験の結果が実際に野外でも起こるのか、ステップを追った検証がさらに必要でありおそらく続報が出るだろうし、EPAもなにか反応するかもしれない。

 なお、白井氏は、日本応用動物昆虫学会誌第51巻 第3号:165-186(2007)に「害虫抵抗性遺伝子組換え作物による非標的生物への影響−現在までの研究事例と今後の課題」という瞠目に値する論文を発表されており、12月1日からは上記学会ホームページからダウンロードできるそうだ。

 併せて、同氏は所属する農環研のホームページ収載の「情報:農業と環境」に、「GMO情報」というコラムを連載されており、とかく正確な物言いが少ないGM環境リスクを中心に興味深いトピックと解説を発信されている。

 この研究結果に対しては、米国でも07年10月14日に、Southern Illinois大学の研究者から疑義が提出された。もっと慎重に扱うべきだという主張は正論だし、すでにトウモロコシ栽培の75%を占めるBtトウモロコシを、仮に禁止でもすれば農業経済的ダメージは重大なものだという農業関係者からのリスクアンドベネフィットに基づくコメントも掲載されている。

 さて、このPNASレポートで誰もが思い起こすのが、米Cornell大学の研究者らが1999年5月20日のNature誌に発表して大騒動になったBtトウモロコシのオオカバマダラチョウに対する有害可能性を論じた室内試験の先例だ。その後の検証により、野外の自然界においては問題となるような悪影響は存在しないという結論になった。米国で国民的人気があったオオカバマダラとトビケラではそのスター性、人気度が野球と水球くらい違うだろうから、あれほどの騒ぎにはならないと思われる。メディアの方にも、それなりに学習済みの雰囲気が伺える。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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