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GMOワールド|宗谷 敏

箸休め企画-俊足ウサギの遺伝子をポプラに導入したら……

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2007年10月22日

 先週紹介したBtコーンの水生生態系への影響可能性を論じた論文の初出は、The Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)の2007年10月8日付早刷りオンライン版であった。同10月16日版には、ファイトレメディエーション関連の2論文が発表された。それらは、米国Washington大学と英国York大学の研究者たちによる論文で、Washington大学の研究を中心に多くの米国メディアによってカバーされ、注目を浴びている。食の問題からは離れるが、今週はこれらを取り上げてみたい。

 微生物などによる環境汚染物質の浄化を総称するバイオレメディエーションのうち、汚染物質を蓄積し分解する植物の能力を利用する方法をファイトレメディエーションと呼ぶ。我が国を含め、世界各国でさまざまな研究が行われている。理論上経済性に非常に優れた環境浄化システムなのだが、実用化の壁となってきたのは時間などの効率性だ。Washington大学チームが提示したのは、そこのブレークスルーである点が注目される。

参照記事1
TITLE: Genetically modified plants vacuum up toxins
SOURCE: Reuters
DATE: Oct. 16, 2007

参照記事2
TITLE: Gene-Altered Plant, Tree Can Suck Up Toxins
SOURCE: National Geographic
DATE: Oct. 15, 2007

 米国においては、1980年制定された通称スーパーファンド法により、米環境保護庁(EPA)主導で全国の汚染地域を対象とする浄化プログラムが進行中だ。しかし、現在でもスーパーファンドサイトと呼ばれる1万2000の地区と50万以上の商用不動産が、浄化に要する経費の問題から手つかずの状態にある。汚染の種類は、有機塩素系化合物、芳香族有機化合物、重金属などさまざまであり、これらからの発がん性は特に問題視されている。

 Washington大学チームは、ポプラのDNAにウサギの肝臓由来の遺伝子を導入した。この丈の低いGMポプラは、一時期洗浄溶剤として多用された結果、スーパーファンドサイトでは最もポピュラーな地下水汚染物質であるトリクロロエチレン(発がん性ありとされている)の91%を液体から除去するのに成功した。はるかに背の高い天然ポプラも本来この能力のある酵素を持つが、除去はわずか3%にすぎない。GMポプラは、キー酵素をより多く生成し、通常のポプラより100倍も速く働くという。

 さらにこのGMポプラの優れた点は、密封容器内の大気汚染浄化実験でトリクロロエチレンと自動車用ガソリンで問題とされるベンゼンを除去するのにも優れていた。これは、GM植物が大気汚染対策にも有効であること示した最初のケースだと研究者は主張している。

 一方、York大学グループが対象とした土壌汚染源は、通称RDX(Research Department Explosive)化学名シクロトリメチレントリニトロアミン(発がん性ありとされている)である。RDXはプラステック爆弾などの原料となる高性能爆薬として知られ、軍事用から工業用まで幅広く用いられる。その結果、爆発後にその有毒成分が土壌中に残留し、軍用地などでは大きな問題となってきた。

 グループは、RDXに汚染された土壌中からRDXを分解する性質を持つバクテリアをつきとめ、その遺伝子をシロイヌナズナに組み込みRDX分解酵素を持たせることに成功した。この酵素が起こすnontoxic metabolites(無毒化代謝作用)により、シロイヌナズナは有毒なRDXを取り込んで無害な窒素源として利用できるようになる。

 RDX汚染培地での実験でGMシロイヌナズナは、通常の植物と比較しはるかに早くRDXを除去したという。グループは、今後ポプラやシバで効果を研究する予定だ。York大学とWashington大学の研究者たちは、これら一連のファイトレメディエーション研究においては協力関係にあり、その分早い実験の進捗や実用化が期待される。

 ところで、Washington大学のGMポプラといえば、筆者は2001年5月に起きた不幸な事件を思い出さない訳にはいかない。GM研究に反対するエコテロリストにより研究施設が放火され、幸い人命に被害はなかったものの、研究サンプルなどの貴重な資料が多数失われた。

 浄化効率を上げた成長の早いGMポプラを用い受粉期以前に伐採してしまう気配りをしても、GM植物によるファイトレメディエーションは生態系などへの最少の環境リスクとのトレードオフでもある一面を、研究者たちは否定しない。環境保護主義者たちにとっては、たしかにこれはジレンマだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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