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忠ならんと欲すれば-欧州委員会Dimas環境委員の反乱、他

宗谷 敏

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 2007年11月21日、International Herald Tribune紙は、欧州委員会Stavros Dimas環境担当委員(ギリシャ)が生態系に対する影響懸念を理由に、欧州栽培承認作業途上にあったGMトウモロコシ2品種の承認申請を拒否して種子販売の禁止令を提案したと報道した。07年10月29日付本稿でも若干触れた通りだが、ブリュッセルには緊張が走っている。

参照記事1
TITLE: Proposed Ban on Genetically Modified Corn in Europe
SOURCE: The New York Times, by James Kanter
DATE: Nov. 23, 2007

 対象となったGMトウモロコシは、いずれもチョウ目害虫抵抗性および除草剤グルホシネート耐性を併せ持つ。Btたんぱく質としてはCry1Abを導入したスイスSyngenta社のBt11同じくCry1Fを導入した米DuPont社の子会社米Pioneer Hi-Bred社および米Dow Agrosciences社の1507系統である。EFSA(欧州食品安全機関)GMOパネルは、Bt11に対し05年4月20日に、1507系統に対し05年6月9日に各々の栽培について安全性に問題なしとの判断を与えている。

 Dimas委員(の報道官)の主張は、「環境上に不可逆的な損害をもたらす可能性から、予防原則を適用する」というものであり、EFSA栽培承認後の新しい知見の例として、GMトウモロコシに曝露した君主蝶(オオカバマダラ)の幼虫が他と異なった挙動を示したという今年の研究(筆者はこの研究について知らない)と例の水中生態系への影響可能性を上げている。

 欧州委員会内でDimas提案がどれだけの支持を集めるかは不透明だが、正式な承認手続きを踏まえたEFSAに前代未聞の不服従を唱えるには、例示された根拠や、WTOでもあまり支持されなかった予防原則を大儀とした点がやや薄弱である。Peter Mandelson通商担当委員(英国)やMariann Fischer Boel農業・農村開発担当委員(デンマーク)らは対立する立場を取るだろうから、全体的合意に到達するのは難しいと見るのが妥当だろう。

 もしDimas提案が通れば、EUの農民にとって不利となり、食品産業も負け組になるだろうとSyngenta社の広報担当者も懸念を表明(07.11.22. AFX)する。しかし、Dimas委員の外野応援席は盛り上がっている。EU外の反GM環境保護グループは快哉を叫んでいるし、ロンドンの意向を無視して、英国スコットランド州政府はDimas委員支持を表明(07.11.25.Sunday Herald)している。

 穿った見方としては、米国のFDA Week Vol.13, No.47(07.11.23.)が、Dimas委員は09年の任期終了後の政治的立場から自らの手によりGMO栽培認可を与える役割を避けたがっているという開発メーカー筋の推測を紹介している。いわば死刑実施にサインしたがらない法務大臣のようなものだ。

 域内各国の中でも特に反GMO色が強い世論が形成されているギリシャの国会議員であり、貿易、農業、産業・エネルギー・技術大臣を歴任というDimas委員の前歴を考えれば、これは案外当たっているかもしれない。少なくともDimas委員としては「ちゃんと抵抗しましたぞ」というポーズは、余生に必要な履歴なのだろう。であるならどこかで妥協は用意済みだろうが、マッチポンプから予期せぬ大火や、支点の狂いが思わぬ大きな反作用を産むリスクもある。不安定なEU情勢からは目が離せない。

 ところで、EUのGMOを巡っては、先週末にWTO裁定に関するもう1本の短信が流れた。EU規則に違反し、EU承認済みGMOの禁止を継続していた6カ国(ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、イタリアおよびルクセンブルグ)に対し、06年9月29日付WTO紛争処理パネルの最終報告におけるこれらを解除させる期限は、07年11月21日に設定されていた。これが、関係国合意により08年1月11日まで延長されたというのだ。

参照記事2
TITLE: WTO gives EU until January to overturn GM maize ban
SOURCE: AFX
DATE: Nov. 23, 2007

 これは、EUに課せられるWTOからの懲戒処分にも2カ月間の猶予が与えられたことを意味する。07年10月30日開催の環境閣僚会議で、オーストリアのGMトウモロコシ禁止解除を求めた3回目の試みも失敗に終わった欧州委員会にとっては干天の慈雨だろうが、クリスマスを挟んでGMO問題では依然厳しい運営が続く。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)