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GMOワールド|宗谷 敏

Non-GMナタネ油ビジネスは存続可能か?-オーストラリア2州のGM解禁

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2007年12月3日

 オーストラリアのメディアが沸騰している。2007年11月27日、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の東部2州は4年に及んだGM栽培モラトリアムを解除すると発表した。当面、GMナタネの栽培がこの2州において可能となる訳だが、この背景については、以前書いたのでそちらをご参照願いたい。オーストラリア国内におけるさまざまなリアクションに関する大量の報道はいずれも「想定の範囲内」なので、少し視点をずらし対日市場への影響分析を試みる。

 ナタネはもっぱら食用油原料として使われ、副産物の油粕は肥・飼料に回る。また、昨今のバイオ燃料ブームでは、バイオディーゼル原料としても特にヨーロッパなどで注目を浴びている。ダイズに次ぐ世界で2番目の主要油糧種子だ。世界の国別生産量では中国がトップ、インドが第3位だが両国とも輸出余力はないから、主に貿易市場に乗るのは第2位のカナダと第4位のオーストラリアということになる。

 今年の予想生産量は、カナダが886万トン(昨06年900万トン)、オーストラリアが90万トン(昨06年110万トン)である。一方、日本の昨06年の輸入量は、カナダ産194万トン、オーストラリア33万トン(最盛期からは半減)となっている。

 日本にとってのオーストラリアナタネには、従来二つの役割があったと考えられる。一つは主要供給元であるカナダナタネの補完であり、もう一つがニッチな市場ながらNon-GMナタネ油と油粕の需要向けである。最初の役割は、供給先の一極集中を避ける食糧安保の背景もあり、例えば02-03年の天候要因によるカナダの不作時に機能し、日本で生産量最大の食用植物油脂であるナタネ油の供給を支えた。

 しかし、ここ数年で市場には環境変化が起きた。カナダは安定的に生産量を増やし、さらにカナダナタネ業界は、世界のバイオ燃料(バイオディーゼル)需要増とトランス脂肪酸表示などからの健康油志向を見込んで、15年までに1500万トンの生産目標を打ち出してくる。一方、2年続きの歴史的干ばつに見舞われたオーストラリアはナタネ生産量自体の大幅下落を招いた。こうなってくると、カナダを補完すべきオーストラリアの役割は失われ、もっぱらNon-GMナタネの供給に限定されてくる。

 オーストラリアのナタネ主生産地は、東部2州と西部と南部2州であり、上述の通り東部ではGMナタネ栽培が理論的に08-09年から、実際には種子生産の関係から09-10年から可能となる。07年予想生産量90万トンの振り分けは、東部2州が25万トン(ニューサウスウェールズ州4万トン+ビクトリア州21万トン)に対し西部と南部2州が65万トン(西オーストラリア州47万トン+南オーストラリア州18万トン)である。

 ここから先は仮定の話になるが、西オーストラリア州と南オーストラリア州は、現在のところGM栽培モラトリアムを維持する可能性が高い。従って、東部2州が全量GMナタネになったとしても、西部・南部2州から現在の日本の33万トンは調達可能である。

 さらにオーストラリア産=Non-GMというブランド? にこだわらなければ、実はカナダ産ナタネでもNon-GMナタネの調達は可能だ。カナダの07年GMナタネの業界推定による栽培比率は84%であり在来種は4%にすぎないが、残る12%はGMを使わず突然変異を利用して除草剤耐性を付与しているのでGM表示は不要になる。つまりIPハンドリングの手間と費用さえ厭わなければ、カナダ産Non-GMナタネ油の上市は不可能ではない。もっとも、カナダのGMナタネさえも、世界的需要増に日本は買い負けが懸念されている現実ではあるが。

 そして、これらはあくまで数合わせの話だ。オーストラリアのどこかでGMナタネ栽培が始まれば、Non-GMを証明するためにIPハンドリング証明など、コスト増がNon-GMプレミアムに当然加算されてくる。世界的に穀物・油糧種子価格が高騰している環境で、さらにこれらの追加コストをかける意味は、果たしてあるのか?

 言い換えれば、日本のNon-GM需要は、どこまでこれらのコスト増に耐えられるのか? この教訓は、米国産ダイズに学ぶべきだ。Non-GMダイズの供給は、一部の大口バイヤーを除き今や風前の灯火である。Non-GMに対し一般消費者がどこまでプレミアム転稼を負担してくれるのかは、もう値上がり分の吸収余力がない業界としてはアンノウンファクターだ。しかも、食品用ダイズとは異なりナタネは100%製油原料である。

 たびたび指摘しているが、消費者の手に渡る精製ナタネ油は、精製段階で組み換えDNAやたんぱく質が破壊・除去されてしまうから、原料がGMだろうがNon-GMだろうが最終製品に一切差異はなく、検証も困難だ。日本のGM規制が、精製植物油にGM表示を不要としているのは、この理由による。

 安全性とは無関係にGMはキライだという一部消費者にも、商品選択権は基本的に維持されるべきだと筆者は考えるが、そのためには今後かなりの割り増し製品価格を負担することを覚悟すべきである。また、偽装表示などへ消費者やメディアの目が厳しくなってきた昨今、供給側も「安心なオーストラリア産Non-GMナタネを使っています」というような、景表法違反に当たる優良誤認ギリギリのリスキーな商売は考え直すべきだろう。

 先月中旬、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンと一部単位生協関係者がオーストラリア諸州を訪れ、東部については無意味なパフォーマンスに終わったが、GMナタネを栽培しないよう要請して回ったと聞く。「GMは買わない、対日向けはIPハンドリングして欲しい」ならば要求してもいい。しかし、干ばつに喘ぐ一国の農政に係わる「GMを栽培するな」は明らかに内政干渉であり、輸入国として著しく国際センスと品格を欠く行為だったと筆者は感じる。

 しかも、消費者のためにポーズではない真の安全を願うのなら、GMより先にオーストラリアに対し彼らが訴えるべきは、「残留農薬に充分気をつけて頂きたい」ではなかったのか? 平成18年の厚労省モニタリング検査結果を見て欲しい。カナダのGMナタネが違反皆無だったのに対し、干ばつという同情すべき事情はあるにしろオーストラリアの「安心な」Non-GMナタネは、6件もの農薬残留違反事例を起こしている。

 「トゥルーフードな(オーストラリア)菜種を守ろう!」などといういかがわしいサイバーアクションを展開するGreenpeace Japanも、こういう「不都合な真実」は消費者からは徹底的に隠蔽し、オーストラリアNon-GMナタネ関係は決して攻めないが、残留農薬よりはるかに安全で違法性もないGMダイズ由来レシチンを使っているからと製菓企業を恫喝する。ダブルスタンダードとはこういうことを指す。

 でも、いらない! キャンペーンもGreenpeace Japanも安心して頂きたい。組み換えDNAやたんぱく質と同様、大部分の農薬残留は油脂の精製過程で飛んでしまい、最終製品の精製ナタネ油には残留しない。だから「Non-GMナタネ油も、GMナタネ油と同じくらい安全です」と堂々と主張できるのだ。そして、供給側も需要側も、ニッチなGMナタネ市場に視野狭窄を起こさないで欲しい。世界の農産物市場では巨大な構造変化が加速されつつあり、現在の日本の食糧供給を維持していくためには、もっとプライオリティが高い、考えるべき多くのことがあるはずだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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