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GMOワールド|宗谷 敏

欧州農業閣僚理事会秋の大芝居?-未承認GMOが招く畜産業界存亡の危機

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2007年12月10日

 2007年晩秋のEUは、GMOを巡り様々な動きがあった。07年10月のフランス、07年11月の 欧州委員会Stavros Dimas環境担当委員などについては既に触れたが、07年11月26日の農業閣僚理事会でも興味深いニュースが伝えられた。クリスマスを控えてもう大きな変動はないと思うので、これに対しやや穿ち過ぎかもしれない分析を試みる。

参照記事1
TITLE:Germany in push against GM plants
SOURCE:AFP
DATE:Nov.26,2007

 ドイツのHorst Seehofer農相が、欧州食品安全機関(EFSA)の安全性確認に始まり、欧州委員会のデフォルト認可に必ず帰着する現行のGMO承認システムに対し疑義を唱え、安全性チェックが万全であることを再確認するまでGMOの輸入と栽培の承認を一時的に凍結するよう提案したという。この提案はフランスとイタリアから若干の支持を得たと伝えられる。まず、これらを伝える記事がSeehofer農相自身からのメディアへのリークであることを記憶しておいて、次に進もう。

参照記事2
TITLE:European Official Faults Ban on Genetically Altered Feed
SOURCE:The New York Times,by James Kanter
DATE:Nov.27,2007

 このSeehofer農相発言の前に大きく立ちはだかったのは、欧州委員会Mariann Fischer Boel農業担当委員だ。いかなる理由による承認の遅れも、域内家畜・家禽飼料の高騰を招く結果、EUの畜産業界に深刻な脅威を与えると彼女は警告した。EUが未承認GMO輸入にゼロトレランスを課しているため、分別コストがばく大なものになるだろうという理屈である。現在でさえ米国のGMO承認手続きが平均15カ月なのに対し、EUは2年半を要している。

 Boel女史の主張の裏付けには、彼女が率いる欧州委員会の農業委員会(DG AGRI)が、07年7月23日に公表した一つの報告書がある。「ECONOMIC IMPACT OF UNAPPROVED GMOS ON EU FEED IMPORTS AND LIVESTOCK PRODUCTION」というタイトルからでも、統計数値に裏打ちされた経済分析という内容を推測することは十分に可能だろう。そして、もう一つ記憶しておいて頂きたいのは、この報告書は発表された今年の夏の時点では、一般メディアの注目をほとんど引かなかったことだ。

 トウモロコシ需給についてはこの報告書にも詳述されているので、ダイズのアウトラインを描くと、EUの原料ダイズの年間輸入量は1400万トン(ブラジルからが1000万トン)、ダイズカス域内生産量が1000万トン、製品としてのダイズカス輸入量が2400万トン(2000万トン弱がアルゼンチンとブラジルから)で、ダイズカス消費量は3400万トンに達する。09年から販売が予定されている米Monsanto社のRoundup Ready2YieldのEU承認が仮に遅れた場合引き起こされる事態は、欧州委員会と畜産業界の心胆を寒からしめるに充分だろう。

 次に見て頂きたいのは時間が前後するが、07年11月26日の農業閣僚理事会開催前である07年11月22日にEUの飼料製造業界連盟であるThe European Feed Manufacturers’ Federation (FEFAC)が出したリリースだ。「It’s already one minute past midnight」というタイトルの通り、農業閣僚理事会はDG AGRI報告書に対し行動を起こせ、もう時間がないぞ! と強く訴えている。

 上述の米国の11月27日付New York Timesでは、記事の力点はBoel農業担当委員の畜産業界が危ないという指摘にあり、Seehofer農相発言は軽く触れられているに過ぎない。これは米国のメディアだからこう書かれるのは当然とお考えの方は、最後にReutersのベテランJeremy Smith記者が満を持して書いた12月7日付記事を参照願いたい。

参照記事3
TITLE: EU caught in quandary over GMO animal feed imports
SOURCE: Reuters,by Jeremy Smith
DATE: Dec.7,2007

 ヒロインはもはやBoel女史一人であり、Seehofer農相は舞台から完全に退場している。代わってFriends of the Earthが登場し「畜産危機説は飼料業界とバイテク産業が仕組んだパニックだ」と両論併記的に反論を述べているだけだ。Smith記者は、Codexの未承認GMOの微量混入ガイドラインやBoel女史のブログまでさすがに目配りが行き届いている。

 さて、ここまでの流れを追ってきての筆者の感想は、「DG AGRIも分裂か? EUのGM政策は変わり目に!」といった読み方は少し浅いのではないかということだ。Seehofer農相のメディアへの発言は、今まであまり注目されなかった未承認GMOが飼料業界に与える衝撃を分析したDG AGRIの報告書に改めて強く光を当て、むしろBoel農業担当委員の主張を世に喧伝させる呼び水として働いている。

 さらにオマケにもう1本、07年12月6日付のReutersが、ドイツはMON810 トウモロコシに対する一時的販売禁止措置を撤廃したと伝えている。去る07年5月9日にMonsanto社に対し農家に種子を販売する場合に厳しいモニタリング計画を要求し、実質的禁止と言われていた例の措置だ。ブリュッセルから戻り、ヒール(悪役)のマスクを脱ぎ捨てたSeehofer農相の苦笑が、どうしても筆者には見えてしまうのだが。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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