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GMOワールド

川の流れのように〜2007年EUの動きを整理・整頓

宗谷 敏

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 来週が振替休日に当たるので、今年最後の掲載になる。皆様良い年をお迎え下さい。毎年最後は勝手なことを書いてきた(えっ、はい、毎週のことです)が、今年は少し実用的な内容で締めたい。この1年間かなり複雑に動いたEUの年間ログ作成を試みる。但し、バイオフューエル関連や開発企業のM&A、技術開発動向を全部入れるのはスペース的に無理なので、これらに興味のある方は日経BP社の「日経バイオ年鑑2008」などで補足願いたい。

<2007年1月から12月中旬までのEUにおけるGMOを巡る主な動き>

 (EU全体に係わることは日付→機関、主要国の動きは国名→日付で、時系列に並べてあります。)

 ブルガリアとルーマニア1月1日、新たに欧州連合(EU)に加盟、27カ国体制となる。
 ドイツ1月1日、フィンランドに代わりEU議長国に就任。
 英国1月15日、体細胞クローンヒツジDollyで有名なRoslin研究所が、ガン治療薬を製造するためのヒトたんぱく質を含むタマゴを産むGMニワトリを開発したと発表。
 フランス2月7日、最高裁がGM圃場破壊活動家Jose Bove氏からの控訴を棄却、禁固4カ月の実刑判決確定。
 2月20日、環境閣僚理事会、GM色変わりカーネーション輸入承認とハンガリーのMON810禁止令撤廃について合意失敗。
 英国2月27日、Friends of the Earthが求めた法令訴訟で、未承認GMコメLLRICE601の流通で食品基準庁(FSA)に一部ミスがあったと高等裁判所が裁決。
 ドイツ3月9日、消費者担当大臣、隔離距離などがより厳しいGM共存規則案を発表。
 3月13日、EuropaBio、フランスで会合しGM食品認可の遅滞問題を討議。
 フランス3月13日、CRIIGEN(環境NGO)、Monsanto社のGMトウモロコシMON863に関する同社90日間ラット摂食試験のデータを再評価した結果、成長や内臓機能に悪影響が認められると公表。
 フランス3月20日、欧州委員会が督促してきたEU指令に沿った国内GMO法案を施行。
 3月26日、欧州委員会、Bayer CropScience社のGMナタネ3品種の輸入と飼料用途を承認。
 3月29日、欧州議会、有機食品への統一新ルール欧州委員会提案を論ずるが結論出せず。
 ギリシャ4月13日、政府がハイブリッドGMトウモロコシ16品種を輸入禁止に(禁止は累計47品種に)。
 オランダ4月10日、Greenpeaceが、ロッテルダム港揚げ米国産トウモロコシからEU未承認品種(Herculex RW)を発見したと告発。5月には、食品安全当局(VWA)も、農家向け飼料用トウモロコシへのEU未承認品種混入を確認。
 4月19日、専門家会議は、GM掛け合わせトウモロコシ2系統およびGMテンサイH7-1系統の輸入承認の合意失敗。
 スエーデン4月26日、国立農業経済研究所(SLI)が、今後10〜15年以内にナタネ、トウモロコシ、ジャガイモおよびテンサイのGM4品目に国内商業栽培の可能性があるとの報告書公表。
 5月3日、欧州特許庁(EPO)、94年3月に認めたMonsanto社のGMダイズ特許(08年には期限失効予定)を新奇性に欠けるとの理由から無効にしたと発表。
 英国5月3日、環境放出に関する政府諮問委員会(ACRE)が、GM作物4年にわたる農場規模評価(FSEs)のデータを精査し、英国でのGM作物栽培に肯定的な報告書を発表。
 オランダ5月8日、Plant Research International社が、GMチコリーの生合成酵素を利用してマラリア治療薬を安価に抽出する研究を進めると発表。
 ドイツ5月9日、政府はMonsanto社のMON810種子販売にモニタリング計画提出を要求、実質栽培禁止措置に相当。
 英国5月15日、06年12月に環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が承認したBASF Plant Science社の耐病性GMジャガイモの試験栽培地2カ所のうち1カ所が、激しい反対運動に遭い代替地が発表された。
 5月30日、欧州委員会、GM色変わりカーネーションの輸入を承認。
 英国6月1日、Exeter大学チームが、コンピューターモデルを用いた風媒によるGM花粉のクロスポリネーション(異種交雑)可能性に関する研究を発表。欧州委員会や英国政府が、推奨している交雑抑止距離の不足を示唆。
 6月12日、農業閣僚理事会、有機食品の生産や表示などに関する統一新ルールを採択し、有機農産物のGMO混入率を0.9%まで認める。
 チェコ6月17日、環境省が、害虫および菌類抵抗性GMアマニの試験栽培を承認。
 6月28日、欧州食品安全機関(EFSA)GMOパネル、CRIIGENのデータ再評価手法を検討し、特に問題点を示唆するものではないと一蹴。
 ギリシャ6月26日、政府はMON810の禁止令をさらに2年間延長するとし、欧州委員会に徹底抗戦。
 ポルトガル7月1日、ドイツに代わりEU議長国に就任。
 7月16日、農業閣僚理事会は、BASF Plant Science社のGMジャガイモAmfloraの域内栽培承認に合意失敗。
 7月20日、欧州食品安全機関GMOパネル、GM飼料は畜産製品(現在表示不要)に対しなんら影響も与えないとの声明を発表。
 フランス7月20日、フランスの07年GMトウモロコシ栽培面積は、2万1000ヘクタールに達し前年から4倍増加していると、ヨーロッパトウモロコシ連合が発表。
 7月23日、欧州委員会農業委員会(DG AGRI)、GMO承認の遅れは飼料の高騰を招き、畜産業界にとって重大な脅威となるだろうと警告する報告書を公表。
 英国7月31日、英食品規格庁(FSA)が、オランダUnilever社のGM酵素で作る不凍タンパク質に暫定的承認を与え、域内各国の承認を求める手続きに入る。
 ドイツ8月8日、政府、隔離距離(一般150m、有機農産物は300m)、GM農家の損害賠償責任などを定めたGMO 栽培国内共存法案(EU承認済み)を承認。
 ポルトガル8月17日、GM反対活動家、GMトウモロコシの圃場1haを破壊。
 フランス・イタリア8月26日、両国合同チームがワイン用ブドウ品種ピノ・ノワールの全ゲノム解読に成功したとNature誌に発表した。
 英国9月10日、臓器提供用GM動物(ブタ)研究の世界的権威であるLondon大学教授が、動物権利主義者の反対と政府の過剰規制を嫌い、米国にラボを移すと発表。
 9月13日、欧州裁判所、オーストリアのGMフリーゾーン国内設置に係わる控訴を棄却。
 ドイツ9月18日、Bayer CropScience社の未承認GMナタネ種子が混入し、圃場約1500haに播種されていたのが発見される。
 9月19日、欧州委員会研究総局(Research DG)Janez Potocnik 委員長も、9月13日欧州裁判所判決に関し、EU承認済みGMの加盟国禁止令は共同体法違反であり認められないとコメント。
 イタリア10月3日、農民、消費者と環境保護NGOなど29グループがGM無期限モラトリアムを要求する署名キャンペーンを開始、11月13日には、300万人以上の署名達成。
 10月10日、専門家会議GMジャガイモAmfloraの動物飼料用途認可合意に失敗。
 フランス10月19日、Monsanto社が、犯人不特定のままGM試験圃場破壊活動を告訴。
 10月24日、欧州委員会、懸案のHerculex RWを含むGMトウモロコシ3系統およびMonsanto社の除草剤耐性GMテンサイH7-1系統の輸入を承認。
 ルーマニア10月24日、上院が食品用GMOの栽培を許す政府の緊急法令を認可。
 フランス10月24日・25日、Nicolas Sarkozy大統領は主催したGrenelle Environnementの行動計画で、新リスク評価機関の結論が出るまでGMO商業栽培を一時凍結すると発表。
 10月29日、EuropaBio、EUおける07年GM農作物の栽培面積は10万ヘクタール(約25万エーカー)を超え、前年より77%拡大したと発表。
 10月30日、環境閣僚理事会、オーストリアのGMトウモロコシ禁止解除を求めた欧州委員会提案(3回目)の合意に失敗。決定は欧州委員会に戻る。
 オランダ11月5日、Greenpeaceは、一連の米国の未承認GMコメ流通事故が産業界に与えた損失は7億4100ドルから12億ドルの間であると試算結果を発表。
 英国11月8日、GM商業栽培を09年以後と位置づけた環境・食料・農村地域省(DEFRA)の共存農業に関する報告書を政府が公表。
 11月21日、WTO紛争処理パネル最終報告(06年9月29日)に基づく、EU承認済みGMO禁止を継続する6カ国(ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、イタリアおよびルクセンブルグ)の共同体規則違反改善期限を迎えたが、08年1月まで延長される。
 11月21日、欧州委員会Stavros Dimas環境担当委員、承認作業中の害虫抵抗性GMトウモロコシBt11と1507系統の環境影響懸念を理由に申請拒否と販売禁止を提案。
 11月26日、農業閣僚理事会でドイツのHorst Seehofer農相からGMO現行承認システムのレビューが提案される。
 英国11月29日、食品基準庁(FSA) が06年8月からの未承認GMコメLLRICE601事故対応について、これらを評価する会議を開催。
 英国11月29日、David King卿が、政府最高科学顧問を退任するに当たり、増加する世界人口の食を満たすためにはGM食品を使わなくてはならないと強く主張。後任のJohn Beddington氏もKing卿の主張を支持すると表明。
 11月30日、欧州食品安全機関GMOパネル、Bayer CropScience社の除草剤耐性GMコメLLRICE62の安全性と上市に肯定的意見公表。
 フランス12月6日、政府は10月のGrenelle Environnement行動計画を実施のため、MON810商業栽培を最長08年2月9日まで正式に一時凍結(冬場なので実影響はない)、これを受け農協最大手のFNSEAは、2月までGM種子の購入を控えるよう農家に要請。
 ドイツ12月6日、Monsanto社がMON810のモニタリング計画を提出し、5月9日以来実質禁止状態にあった種子販売と栽培が再び可能に。
 フランス12月10日、GM反対活動家Jose Bove氏は、GM商業栽培の政府一時凍結は茶番で手ぬるいと、1年間の禁止を求め08年1月から無期限ハンストを実施すると発表。
 ポーランド12月23日、国内GM禁止措置を共同体法違反とする欧州委員会への回答期限を迎える。

 全てを揃え尽くせないし、2〜3行に要約した奥はどれも深いが、こうして並べただけでもなかなか壮観である。大河の流れにたとえるなら、長期戦略に立つ欧州委員会内部を中心としたGMO受容・共存に向かう、見えにくいが強い底流と、それに抵抗するグループの目立つ浅瀬や岩礁という流れの構図は2008年も継続するだろう。そして、キーカントリーが、英国、フランスおよびドイツであることも、やはり雄弁に物語られているのではないだろうか。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)