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データの摘み食いは説得性に欠ける〜FOEIのISAAA対抗レポート

宗谷 敏

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 例年から一月余り遅れで、 ISAAA(国際アグリバイオ事業団)の世界のバイテク農作物商業栽培状況2007年調査結果が2月13日に公表された。和訳もあるプレスリリースとサマリーが、ホームページから参照できる。一方、ISAAAにぶつける形で FOEI(Friends of the Earth International)が3年前から開始した「GM農作物から利益を得るのは誰か?」シリーズも、対抗心剥き出しの反撃レポートを同日発表した。

 ISAAAは、世界のバイテク農作物商業栽培面積は、1億1400万ヘクタール(2億8575万エーカー)に達し、昨06年の1億200万ヘクタール(2億5千200万エーカー)から1230万ヘクタール(3075万エーカー)、12%増加した。商業化以来12年連続して二桁台の伸びを維持し、直近5年間では2番目の伸び率を示したと報告する。

 主生産地の北米が飽和状態に近くヨーロッパは足踏みだが、途上国のバイテク農作物栽培が成長を支えたと読める。今やデファクトスタンダードのISAAA報告は、内外各紙も広く取り上げているし、東京ではバイテク情報普及会による報告セミナーも予定されており、詳細はホームページを参照頂くとして、メディアの注目度では後塵を拝したFOEIの主張を取り上げ、筆者なりの疑問点をあげてみたい。

 FOEI自身によるキーメッセージは3つある。最初は、「除草剤耐性(主にダイズ)で、除草剤使用量は減らずむしろ増加している」。二番目は「GM作物は飢えや貧困の解決に役立っていない」。最後に「GM作物は従来の品種に比べて決して反収は良くない」というものだ。

 先ず、最初の主張はラウンドアップレディダイズに対する「各論」である。USDA(米国農務省)のデータを引用し、1994年から05年までで、主要農産物(ダイズだけではない)グリホサートの使用量は15倍以上増加したという。データ自体はおそらく正しいのだろうが、ダイズの栽培面積拡大と、他除草剤からグリホサートへのリプレースを勘案しなければ感情論に過ぎないだろう。94年から06年まで、ダイズのエーカー当たりのグリホサート使用量は150%以上増えたという主張も、94年当時はまだラウンドアップレディダイズが商業栽培されていなかった事実を完全に無視している。論点によって、年間データの期間を変えていることも、なにかうさんくさい。

 また、グリホサートの増加が他の農薬を減らしていないという根拠に2、4-Dを上げているが、2、4-Dはグリホサート耐性雑草抑止に使用されるから増えても当たり前。他除草剤総量と比較しなければ意味をなさない。もちろんグリホサート耐性雑草は問題とするに足りるトピックだが、農薬と耐性のイタチごっこは、なにもグリホサートに固有の問題ではない。そして、モニタリングが厳しく行われ、対策も準備されつつあることも併記すべきだ。

 二番目は「総論」である。商業化された殆どのGM農作物は動物飼料で、食品のためではないから、飢えや貧困を救いはしないし、途上国の農家への援助を提供してはいないという批判だ。この前段はその通りなのだが、主要作物のコメやムギ、ソルガムにさえGM化を反対しているハズのFOEIはむしろ喜ぶべきで、批判すべき立場にはないのではないか。後段については、南アフリカ共和国の小規模農家数減少を例示しているが、土地所有権問題などの政治的要素を無視して、原因をBtワタ栽培だけに帰するのは無理がある。

 三番目は「総論」を装った「各論」である。先ず、ラウンドアップレディダイズの反収が在来種より低いという主張は、筆者がたびたび主張しているようにこの商品のコンセプトは反収向上ではない。農家の手間暇や労働時間節約が主目的であり、その約束が果たされているから、農家に強く支持され栽培面積が増えてきた。仮に、反収が低くても、種子代が高くても、農家の総収益という点で認められているのだ。さらに、反収も上がるというコンセプトの第二世代ラウンドアップレディダイズは、「カナボウ、オニにカナボウ」なのである。

 また、「インドと中国を除く」Btコットン採用国(米国、アルゼンチン、コロンビアとオーストラリア)でコットン生産量が変わっていないから、反収は上がっていないという理論も、おかしい。つまり、生産が伸びているインドと中国については、天候と他の生産要因が理由で、GM技術とは関係ないと述べる一方、他の4カ国で生産量があまり変わらない理由をGMの反収が上がっていないからだという一点で説明するのは不公平だろう。

 筆者は、昨年ISAAA報告の論調は謙虚さに欠けると指摘し、「完全無欠のベネフィットも、100%のリスクもないから、総論と各論を交通整理し、失敗と成功を双方が認め合い、等身大のGM像を抽出し、そこから議論を再構築しない限りGM論争はいつまでも不毛でありおそらく進化もしない」と書いた。今年は、データを摘み食いして、各論を総論化する強引さと不公正さがFOEI側に目立つ。分かり易く言えば、ギョーザだけで中国食品全部ダメに通じる幼稚な論法だ。技術は進歩しても、感情論に根ざした論争は相変わらず深化も進化もしていない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)