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科学に優先する政治〜欧州委員会、泣いてEFSAを斬る

宗谷 敏

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 2008年5月7日、欧州委員会は、GMOに関するオリエンテーション討議を行った。もし認められれば1998年以来の承認となるため、もっとも注目を集めた3つのGMOのEU域内栽培認可は結論が先送りされ、認可を期待していた推進派、禁止を望んだ反対派には共にフラストレーションを残す結果となった。

TITLE: Commission hesitant to approve more GM crops
SOURCE: EurActiv
DATE: May 9, 2008

 栽培認可が討議されたのは、スイスSyngenta社 の害虫抵抗性(Bt Cry1Ab)・除草剤グリホシネート耐性を持つBt11と米国Pioneer Hi-Bred International社(同DuPont社の子会社)と同Mycogen Seeds社(同Dow AgroSciences社)の害虫抵抗性(BtCry1F)・除草剤グリホシネート耐性を持つ1507系統の2つのGMトウモロコシ及びドイツBASF社の工業用にアミロースをなくし、アミロペクチンのみのスターチが得られるよう成分改変されたAmflora(EH92-527-1)ジャガイモである。

 欧州委員会は、Bt11 と1507系統について、新しい科学的情報をレビューし安全性を再確認することを求めた。皮肉なことだが、これで欧州ベースの企業を差し置いて、既に栽培認可を得ている米国Monsanto社のMON810系統(Bt Cry1Ab)の一人天下が、いろいろ抵抗を受けながらもしばらくは継続する結果となった。経済上もさることながら、環境影響被害を本当に懸念するならこのモノカルチャー化は決して好ましい事態とは言えないだろう。

 抗生物質耐性マーカー遺伝子を含むAmfloraに対しては、さらなる科学的証拠を分析することを求めて、これらの3つのGMOの安全性評価を行い問題なしとしていたEFSA(欧州食品安全機関)に差し戻した。これらがクリアされれば承認することはやぶさかではないと欧州委員会は言うものの、再評価にどの程度時間を要するかは、欧州委員会もEFSAも明らかにしていない。

 昨年晩秋に触れた Stavros Dimas環境担当委員(ギリシャ)の主張が通った形だが、欧州委員会内部にはトレードオフがあったとの見方が強い。それは、Monsanto社の害虫抵抗性トウモロコシMON 810とドイツBayer CropScience社除草剤グリホシネート耐性トウモロコシT25への輸入禁止を唯一継続しているオーストリアに対し、その撤廃を要請することの見返りに3つの栽培承認を見送ったというものだ。

 オーストリアに対する解除要請履行は過去3回検討されたが、環境閣僚会議などで意見の一致をみずに非常に手こずってきた。WTOでも押し込まれている(承認済みGMOの)輸入禁止撤廃は、域内問題である栽培承認に比べ、欧州委員会にとってたしかにより緊急性が高い政治的アジェンダだろう。

 それに、現欧州委員会の5年の任期は09年10月までであり、仮に火中の栗を拾って新たに栽培を承認したとしても、現在セーフガード条項を楯にGMO国内栽培禁止を標榜しているフランス、オーストリア、ポーランド、ハンガリー及びギリシャなどの抵抗勢力を増やすことは得策ではない。

 ここは一つ我慢して凌いでくれねーかとばかり親分から顔に泥をベッタリ塗られた形のEFSAこそいい迷惑 だろうが、欧州のGMO政策では殆どの場合、政治が科学に優先する。

 そして、欧州委員会が討議の結果EFSAに要求したのは、これだけではない。Monsanto社の3つの除草剤耐性と害虫抵抗性との掛け合わせトウモロコシMON863xMON810 、 MON863xNK603及びMON863xMON810xNK603は、Amfloraと同様抗生物質耐性マーカー遺伝子を理由に、さらなる科学的証拠の分析を求めた。

 これらは輸入承認だから、欧州委員会はおそらくやりたくはなかったろうが、Amfloraだけを差別する訳にもいかず道連れにされた。もっともEFSAは抗生物質耐性マーカー使用については、04年4月にしっかりしたポジションペーパー をまとめており、この問題についての答申にはそれほど時間を要しないだろうという読みがあったかもしれない。

 さらに、06年11月に米国で03年からの混入が発覚したBayer CropScience社の除草剤抵抗性GMコメである LL62 の安全性に対する科学的証拠が完全であることを確認するよう要求した。繰り返すが、これらはすべてEFSAが過去に安全と評価を下した農産物である。

 もう一つ注目されるのは、未承認GMOの食品や飼料への微量混入問題に対する技術的解決案を夏までに出すよう欧州委員会が諮問したことだ。内部分裂に苦しみながらも、大統領選で米国からの圧力が小休止しているうちに、WTOやCodexのような国際貿易上の懸案事項関連を先に進めておこうとする欧州委員会からのサインはかなり明確に思える。

 その他EUにおける動きとしては、08年5月13日、フランス下院が、僅か1票差でGMO国内栽培法案(欧州委員会により共存政策実施のため域内各国に制定が義務づけられており、上院は可決している)を否決した。就任1年で人気と支持率が急落したNicolas Sarkozy大統領からの提案が、与党も含めGM推進・反対両派からの各々異なる理由による反対に遭った結果だ。

また、5月12日から30日までドイツのボンで連続して開催されているカルタヘナ議定書第4回締約国会議と生物多様性条約(CBD)第9回締約国会議の成り行きなども注目される。なお、カルタヘナ議定書第5回締約国会議とCBD第10回締約国会議は、2010年10月に名古屋で開催される予定である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)