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GMOワールド|宗谷 敏

GMコムギ開発の必然性〜迫り来る世界の足音

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2008年7月14日

 「バイオテクノロジーにより開発された種子の品種による貢献に関するものを含め、科学的なリスク分析を促進し、」などと慎ましく述べられたG8洞爺湖サミットを挟んで、EUと英国の動きは依然面白いのだが、今回は少し引いた視点からGMコムギの情勢を眺めてみたい。供給力強化の方法として米国のコムギ業界からGMコムギを見直す動きが出ていることに触れた2008年4月21日付New York Timesは、本稿でも紹介済みだし、オーストラリアの干ばつ耐性GMコムギ試験栽培の成功は、最近海外メディアを賑わした。

TITLE: Due to Rising Food Needs, Transgenic Wheat Could Be on The Rise Worldwide
SOURCE: GrainNet
DATE: July 9, 2008

 上記は、米国の農業関係業界紙で、あまり深くはないがGMコムギの現状を網羅的に扱っている。「世界的なコムギ在庫の歴史的減少により、GMへの長期にわたった反対者たちもGMの適用無しには世界の農民が人々に食べさせるのに安全で、健康にも良い食料を作ることができないという認識を抱きつつある。非営利の農家利益団体であるGrowers for Biotechnologyによれば、ヨーロッパの政府による最近のコメントは、世論が曲がり角に来ているサインだ。」

 ここで、「既に議論進行中だ」として記事に引用されている英国Phil Woolas環境大臣とスイスNestlé社のPeter Brabeck会長の発言は、前回書いたので、ここでは詳しく繰り返さない。

 前者の発言は、食糧危機に接してEUのGMへの抵抗はもはや続かないと英国が思い始めたと認識され、後者の発言にある「EUのGM忌避がアフリカ諸国の輸出への懸念を生み、GMO栽培を遅らせている」から、「現在南アフリカ共和国でしかGMトウモロコシ、ワタとダイズが商業栽培されていない。」と記事は続く。

 「バイオテクノロジーがコムギ農家にもたらす利益は、除草剤抵抗性、菌性の病気への耐性または干ばつ耐性の可能性である。」として、オーストラリアビクトリア州での干ばつ耐性GMコムギの試験栽培が、まず例示される。

 「トウモロコシ、コケ及びイーストからの遺伝子を導入されたGMコムギは、干ばつストレスの条件下の試験栽培で、非GMコムギに対し最大20%の重要な反収増を示した。干ばつ耐性コムギは将来の農業生産を支えるために重要であり、今後5〜10年で世界的規模における商業化が可能となるだろう。」というものだ。

 なお、本件については、同州一次産業省バイオサイエンス研究局のGerman Spangenberg氏が来日し、去る08年7月3日バイテク情報普及会(CBIJ)主催で、このGMコムギやGM牧草などの開発状況についてのセミナーが東京で開催された。

 さらに記事では、民間バイオテクノロジー企業の関連する動きが紹介されている。「需要増による穀物価格上昇から、米国DuPont社は高反収のコムギとイネの開発を計画している。農家と販売業者は、トウモロコシのように高反収が持続するコムギ品種の開発を同社に依頼してきた。同じくスイスSyngenta社も、耐病性GMコムギを開発中だ。」

 「この増加する勢いにもかかわらず、日本や他のアジア諸国はNon-GMコムギを買うと公言し、プレミアムを支払うか、自国の農家のコムギ生産に頼る。Growers for Biotechnologyによれば、食糧生産の必要性はここ数年で急速に増大するだろうから、農家は需要増に追いつく新技術へのアクセスを持っているべきだ。農家は昔からこれを知っていたが、困難な戦いを強いられてきた。しかしながら、今や我々は勝利を得られそうに思える。」と記事は結ばれている。

 先のNew York Timesと上記GrainNetが、主に需給関係に基づく経済性という切り口なのに対し、英国のNew Scientist誌が、気候変動を絡めた科学的論考からのGMコムギ必然説を展開しており、こちらもなかなか興味深い。ただし、このCO2とコムギのグルテン産出量との相関関係はまだ例証に乏しく、確立された理論ではないようだ。

http://www.newscientist.com/blog/environment/2008/07/why-global-warming-is-bad-for-bread.html?DCMP=ILC-hmts&nsref=specrt11_bar
TITLE: Why global warming is bad for bread
SOURCE: New Scientist
DATE: July 10, 2008

 「ドイツ連邦政府農村地域林業・漁業研究所(vTI)の研究者が、大気中の高レベルのCO2は、コムギのタンパク質成分グルテンを減らすことを論証した。研究者たちによれば、CO2 が植物の窒素摂取を混乱させる結果、タンパク質の欠乏症を引き起こし、予想されるCO2レベルは、2050年までにパン生地の発酵を現在より20%以上少なくするかもしれないと研究者は指摘している。

 影響は世界的規模で、穀物や他の主食作物にも及ぶかもしれない。CO2の植物成長に及ぼす混乱は(同じNew Scientist誌 07年5月17日号で)はっきりと論文化 されており、世界的なコメの欠乏も高レベルのCO2の影響が要因ではないかと考えられている。

 ヨーロッパに関する限り、可能な解決策は2つしかない。もっとも簡単な解決は、農家が投与する窒素肥料の量を2倍にすることだろうが、当然これは地域の環境に有害である。窒素の水路への流入は、例えば水棲生態系に損害を与える藻の大量発生を招き、近代農業にとって、もっとも破壊的な様相を現出させる。

 恐らくもっとも現実的な第2の解決は、農家が通常以上に高いグルテンを産出できるように遺伝子組み換えされたコムギの品種を採用することだろう。しかし、遺伝子組み換え作物に対する抵抗に従うとするなら、ヨーロッパの人々はおいしい(ふっくらした)パンを失うことになるかもしれない。」(記事抄訳終わり)

 食糧高騰や食糧危機論の思わぬ余波として、ダイズ、トウモロコシ(製品)そしてコムギ(製品)と、今までNon-GMビジネスを展開してきた我が国の食品業界・企業は、いくらまでコスト増に耐えうるのか、あるいは、どこで、どのようにGMを軟着陸させるのか、頭の痛い問題を抱え込んでしまった。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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