ホーム >  FoodScience過去記事 > GMOワールド > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

GMOワールド|宗谷 敏

選挙は怖い〜GMとウランでつまずいた西オーストラリア州労働党政権

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2008年9月8日

 2008年9月6日、西オーストラリア州では総選挙が実施された。最大野党自由党のスキャンダル絡みの党首交代をチャンスとみて、現政権党の労働党が総選挙を前倒ししたのだ。投票前の予想では、資源に恵まれた同州経済の好調にも支えられ、労働党の優位は動かないものと見られていた。しかし、開票の結果は両党が共に24議席ずつを分け合うことになり、4議席の少数野党国民党が議会ではキャスティング・ボートを握るという 複雑な様相を呈するに至った。

 オーストラリアでもっとも保守的と言われている同州で、3期目の信任を狙ったAlan Carpenter首相率いる労働党の敗北(と言ってもよいだろう)には、さまざまな要因が指摘されているが、それらを網羅し、論評するのが本稿の目的ではない。形成逆転の1つの鍵となったGMモラトリアム維持の労働党と、GMに柔軟な政策を訴えた自由党の選挙戦を、この争点に絞ってたどってみたい。

 まず、簡単に背景レビューから。07年11月、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の東部2州が GMモラトリアムを解除しGMナタネの小規模ながら商業生産が開始された。これらに対し、ナタネ生産量の多い西オーストラリア州は、南オーストラリア州、タスマニア州などと共にGMモラトリアム維持の姿勢を標榜してきた。

 GMモラトリアム維持の広告塔は、Kim Chance(州)農業大臣であった。日本の一部消費者団体のGMモラトリアムを維持しろという他国の農業政策にまで介入する身勝手な陳情(自由党議員からは「日本は日本、オーストラリアはオーストラリアだ!」という怒りの声も上がったという)では、しばしば受け皿として名前が上がる方だ。

 目的のいかんにかかわらず、いかなるGM作物の栽培も州内では認めないというのが、労働党政権の基本姿勢だった。また、西オーストラリア州環境保全協会からはGMモラトリアム10年延長(労働党は4年を計画)の要請も行われた。

 このGMモラトリアム問題が今回の選挙戦で争点として大きく浮上してきたのは、8月18日である。州北部のオルド川潅漑地域において、商業栽培を前提としたGMワタとGMナタネの試験栽培の承認を、自由党が選挙公約として発表したからだ。

 オルド川流域の潅漑プロジェクトは資金不足から頓挫しており、現労働党政権としては政策的に触れられたくはなかった部分であった。慌てた労働党Carpenter首相は、直ちに翌8月19日に開発計画へのてこ入れを公表するが、資金計画がいかにもずさんとの印象を有権者に与えてしまう。

 8月21日になると、大部分の農家はナタネ栽培と販売をGMフリーにしておくことを望んでいるというChance農業大臣のメディアへの発言に証拠提出を求める メディアリリースが、西オーストラリア州農民連盟から出される。同連盟は、GMO の商業化と州政府によるGMモラトリアムが撤廃されることを支持すると宣言する。

 Chance農業大臣はGM推進を望む農家との直接対決を回避し、8月29日に次期自党政権では「店頭販売された食品のGM成分を徹底検査し、表示が守られているか調べます」などと、ポピュリズム丸出しで消費者のご機嫌取りに向かうが、受けはどうも芳しくない。

 9月2日、このままでは自陣に不利に傾いてきたと察知したCarpenter首相は、自由党のGM推進政策はリスキーだと強く訴え、西オーストラリア州をGMフリーに留めることを推進するために500万豪州ドルの補助金を出すという最後の賭けに出る。

 ところが翌9月3日、後手、後手に回っていたCarpenter首相は、思わぬ背面攻撃を受けてしまう。同じ労働党政権のTony Burke連邦政府農相が、GM作物は気候変動や食糧危機への対策の1つであることは疑いえないと、キャンベラで発言したからだ。Burke発言は、最近の先進国政治家の陳述としては珍しくもないが、選挙直前の西オーストラリア州政府とは不仲?といったメディアの捉え方を増長してしまう。

 GMと同じような流れで、もう1つ労働党に不利に働いたのは三菱商事の進出などでも注目されるキンタイア鉱山のウラン開発だろう。原油の高騰とCO2問題から原子力発電計画は世界で見直されつつあり、原料のウランも値上がりしている。自由経済圏でオーストラリアは、カナダと共にウラン資源の大量保有国である。

 労働党は、原子力発電に対し消極的立場だったが、07年の連邦選挙でウラン開発推進を公約に掲げ政策転換した結果、政権奪取に成功した。ところが、ウラン開発の直接的許認可権を握る西オーストラリア州政府は、反ウラン政策維持のままであり、鉱業セクターからのこれに対する不満も燻っていた。ちょうど連邦政府のGM推進姿勢に対する同州GMモラトリアム維持と似たようなねじれの構図が、ウラン開発を巡ってもあぶり出されるのだ。

 冒頭書いたように、資源に恵まれた西オーストラリア州は好景気を謳歌してきたが、インフラ整備などが追いつかず、そろそろ息切れしてきたことが、Carpenter政権の先行きの足下をふらつかせていた。そこへ、野党の自由党からGMモラトリアムを攻めのツールに使われた結果、僅か3週間余りで、絶対に有利からタイに持ち込まれてしまったのだ。選挙は怖い。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

⇒ GMOワールド記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】