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GMOワールド|宗谷 敏

緊急掲載:GMO厄災の週〜ドイツのMON810栽培禁止と米国USC報告書

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2009年4月20日

 2009年4月14日、ドイツのIlse Aigner食料・農業・消費者保護相は、米Monsanto社のコーンボウラー(アワノメイガ)抵抗性GMトウモロコシMON810系統の国内栽培禁止を発表 した。同日、米国ではUSC(Union of Concerned Scientists:憂慮する科学者同盟)が、米国におけるGMO採用は反収増加に対しほとんど寄与してこなかったという報告書を発表し、GMO推進派にとってはまさに厄災の週となった。

 MON810は、欧州(委員会)が98年から域内における商業栽培を承認している唯一のGMトウモロコシで、08年には全27カ国中、チェコ共和国、ルーマニア、ポルトガル、ドイツ、ポーランドおよびスロバキアの7カ国で、約11万ha(ヘクタール)が作付け(ISAAA)された。ドイツでは、05年から商業栽培が開始され、08年に3,200haに達し、 09年は3,600haが作付け予定であった。ただし、ドイツのトウモロコシの栽培面積全体180万〜200万haからすれば、0.2%以下と僅かだ。

 一方、フランス、ギリシャ、オーストリア、ハンガリーおよびルクセンブルグの5カ国は、国内環境影響懸念などからこれに反発し、予防原則、セーフガード条項などを理由に暫定的に国内栽培を禁止してきた。EFSA(欧州食品安全機関)のMON810の安全性承認に依拠し、06年9月のWTO裁定を遵守したい欧州委員会は、これら禁止令の解除に躍起となっているが、功を奏してはいない 。

 こういう状況で、09年3月のルクセンブルグに続く超有力国ドイツの造反は、欧州委員会にとって明らかに痛手だ。ドイツは欧州委員会に栽培を禁止する理由として科学的エビデンスを提出する必要があるが、Aigner農相は「環境に脅威を引き起こすと信じる正当な理由があるという結論に達したのよ!」と自信満々だ。

 標的外昆虫のテントウムシ(two spot ladybeetle)とミジンコ(aquatic organism daphnia)に対する影響に関する論文が用意されているらしいが、既発表のものか、新規研究かは、今のところ不明である。ただし、彼女の省内の専門家筋からも、欧州委員会をねじ伏せるに足る科学的証明は困難ではないのかと危ぶむ意見もあるようだ。

 ちょうど1年前のフランスのNicolas Sarkozy大統領による MON810栽培禁止が原発推進政策とのトレードオフだったという説(EFSAのみならず、AFSSA:フランス食品衛生安全庁すらMON810のリスクを証明するどのような科学的エビデンスもないとの意見書を書いている)に象徴されるように、EUのアンチGMO政策の背景に政治色はつきものだ。09年6月実施の選挙対策としての政治的動機では?というドイツ国内メディアの推測を強く否定するAigner農相だが、今回のドイツもこの疑惑を免れない。

 その背景としては、Aigner農相の所属政党が、CSU(キリスト教社会同盟)だからである。CSU は、SPD(社会民主党)との与党大連立を組むAngela Merkel首相が属するCDU(キリスト教民主同盟)と姉妹政党関係にあるが、ババリア地方(中心はバイエルン州)を唯一の支持基盤としている。

 そして、ババリア地方こそ、ドイツのGMOフリー国家化を志向する反GMOの牙城なのだ。時系列で辿ると、MON810禁止に関するAigner農相の発言はかなり揺れ動いており、(唯一の所属政党)選挙区から彼女に対し強いプレッシャーがあったことは想像に難くない。この決定はGMOすべてを否定する訳ではなく、個別的事例にすぎないと述べたのが、Aigner農相の選挙区への抵抗兼推進派への免罪符なのだろう。

 次に、リアクションを眺めてみよう。GMOの根絶やしを望むGreenpeaceなどが「歴史的快挙!」と喜ぶのは当然だろう。ドイツ国内ではCDU とCSUに分裂を起こしたと4月16日のSpiegel紙が伝えている。教育・研究相Annet Schavan博士(CDU)は、同僚であるAigner農相の決定を遺憾とし、「緑(農業)の遺伝子技術は未来に重要であり、ドイツといずれのヨーロッパ諸国もこれを却下すべきではない」とコメントし、ステークホルダーによる円卓会議を提案した。国内科学組織からは、Aigner農相を批判しSchavan研究相を支持する共同声明(4月17日付)が出される。

 さらにCDU/CSU共同副議長も、嫌GMOの風潮から独Bayer社の子会社が研究施設をドイツ国内のポツダムからベルギーへ移した先例を示し、MON810栽培禁止はドイツの産業界に害を与える可能性があると主張して、禁止措置は「CSUの無責任で安っぽい宣伝」に過ぎないと不快感をあらわにしたという。

 自社GMジャガイモAmfloraのEU承認の遅れに腹を立て、08年7月に欧州委員会告訴に踏み切った独BASF社も、研究部門の米国などへの移転をほのめかしており、産業界や科学研究部門への悪影響を懸念する声は「研究者の国外流出」問題を中心に、研究者や科学者グループからもあがっている。

 注目された欧州委員会では報道官が、「適切な科学的な情報に基づきドイツの禁止措置を分析し、最も適切なフォローアップについて結論を下すだろう」と述べた。他方、AFP紙は、欧州委員会に近い筋からの情報として、ドイツの禁止措置はヨーロッパのGMO関連法規の改正をもたらす可能性があるだろうとほのめかしている。

 最大の被害者Monsanto社は、ドイツの農民が今シーズンもMON810を栽培できるようすべての利用可能な選択肢を調べ、法的手続きをも辞さないとかなり強いメッセージを出した。MON810栽培禁止が実行され、仮に同社が勝訴した場合、ドイツ政府が同社へ支払う損害賠償金は600万〜700万ユーロ(790万〜920万米ドル)と見積もられている。

 さて、米国のUSC報告書の方だが、過去13年間米国内で栽培されてきたGMトウモロコシとダイズは、調査の結果反収増加にほとんど寄与しておらず、穀物の増収要因は在来型の栽培技術やその他営農技術の発達によるものだったという趣旨である。先ず注意すべきことは、どちらの作物にも収量を上げるための遺伝子導入は行われていない。

 米国内GM反対派のブログなどの盛り上がりは大変なものらしいが、筆者にとってUSC報告書は当たり前のことを言っているとしか思えない。しばしば指摘してきたように除草剤耐性(主にダイズ)は収量増加を商品コンセプトにしていない。農家の最大関心事は反収増であるが、それでもGM種子が農家から強い支持を受けている事実を、USC見逃している、という指摘は正しい。

 一方、害虫抵抗性作物(トウモロコシ)には害虫に食べられる分や、その結果カビ毒に犯される分のロスが減るから反収は増える。正確には、見込んだ収量が欠損なく維持される。USCも、このことは認めざるを得ないが、直近5年間のトウモロコシ反収増加約28%に占める割合は僅かなもの(3〜4%)に過ぎず、品種改良などの要素が24〜25%であったと分析している。

 実は、USCが最も主張したかったのは、(だから)GM技術は、今後の世界の食糧供給において有効な役割を果たすことはほとんどできないと考えられる、というやや牽強付会な結論なのだろう。ここにこだわる理由と、なぜ今USCがこれを発表したのかは、少し引いた大きな構図を眺めてみる必要がある。

 現在、イタリアでは初のG8農相会合が開催されている。米国政府が、この場で主導しようとしているのが、食糧危機対策としてバイオテクノロジーなどを基軸に据えた「第二緑の革命」の推進だ。

 これは、上院議員のRichard LugarとRobert Caseyが起案し、09年3月31日に上院外交委員会を通過した世界食料安全保障法案(SB 384)に依拠する。つまり、USC報告書の帰結的意味は、先行するIAASTD報告書 と共に、これらに対するアンチテーゼ、牽制球の役割を果たそうとしているという見方は、おそらく可能であろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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