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GMOワールド|宗谷 敏

穀物貿易が止まる日〜EU・JRC報告書がもたらす衝撃

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2009年12月14日

 GMOワールドの関係者の間で、いま話題になっている1冊の報告書 がある。「世界の新規GM作物パイプライン−非同期承認が国際貿易に与える影響」(The global pipeline of new GM crops-implications of asynchronous approval for international trade)と題されたこの報告書は、EUの共同研究センター(Joint Research Center、JRC)予測技術研究所(Institute for Prospective Technology Studies、IPTS)が、2008年11月に開催したワークショップとその後の調査結果をまとめて、09年9月3日に公表した衝撃的な力作だ。

 この報告書は100ページを超える大部なものだが、バイテク情報普及会:CBIJ (メール・アドレスはsecretariat@cbijapan.com)がサマリー部分の仮訳(未完成・準備中)をしていたので、これを参考にさせていただきながら抄訳を試みる(内容に誤りなどがあれば、全て筆者個人の責任です)。なお、CBIJには、データベースの部分の翻訳も加えたサマリー完訳を、特に行政の規制担当者をはじめ、食品業界関係者に是非広く読まれるよう努力して頂きたい。

 新規GM(遺伝子組み換え)作物に対する国毎の承認の「非同期承認(asynchronous approval、AA)」、開発国のみでの使用を目的とした「隔離的海外承認(isolated foreign approval、IFA)」、研究目的GM作物の「微量混入(low-level presence、LLP)」などは、ゼロ・トレランス政策を持つ未承認国において輸入拒否につながるため、国際貿易に与えうる経済的影響に関する懸念が増大している。

 EUでは、すでに輸入農作物への未承認GM作物の微量混入が、貿易の障害や経済問題の原因となっており、飼料・畜産分野はこの影響を蒙っている。未承認GM作物のLLPがEUの農産食品産業に与える影響を予測するには、今後数年間にどのようなGM作物が、どの国で開発されるのか、また、これらの新規作物がEUの貿易相手国でいつ承認されるのかを知っておく必要がある。

 このために、JRC・IPTSは、「世界の新規GM作物商品化パイプライン」と題したワークショップを08年11月12〜13日に開催した。この報告書は、EU貿易関係国のGMO承認の現状を概説し、すでに開発パイプラインにある7種類の主要作物(ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、テンサイ、ジャガイモ、イネ)について、短期(08年から2〜3年後)・中期(7〜8年後)に世界市場に出回る可能性のあるGM作物のデータベースを提供する。

 このデータベースでは、市場化に近い順にGM作物を5つのカテゴリーに分類した。
(1)商品作物:商品化されたGMイベント=系統(現在、少なくとも1カ国で市場導入済み)
(2)商品化パイプライン:少なくとも1カ国で販売承認済みだが、未商品化のGMイベント(商品化は開発者の意向による)
(3)規制パイプライン:少なくとも1カ国で、販売承認目的の規制手続き中のGMイベント
(4)後期研究開発パイプライン:まだ規制手続きに入ってはいないが、開発の最終段階にあるGMイベント
(5)その他の作物:少なくとも1カ国で承認はされているが、未商品化、あるいは一旦商品化されたがその後、ビジネス・規制の理由で廃止されたGMイベント

 ワークショップとその後の調査から、商業化GMイベントの数は、現在の約30から、15年までに120を超え、世界的に大幅に増加すると予測さる。ダイズは現在の1種類から17種類に、トウモロコシは9種類から24種類へ、ナタネは4種類から8種類へ、ワタは12種類から27種類へ各々増加すると予想される。

 現在、商業栽培されていないイネは、15年までに15種類のGMイベントが栽培される可能性があり、ジャガイモも、現在の栽培なしから8種類へ、その他の副次的作物も15年までに現在の7種類から23種類へ増えると予想されている。LLPの問題はすでに発生しており、現在の30種類から120種類に増えれば、これらが拡大することは必至である。

 個々のGMイベントは、交雑育種法で複数の特徴を持つGMOを作り出せる。こうした(承認済み)イベントの「スタッキング(掛け合わせ)」は、トウモロコシとワタではもう一般的である。スタッキングに対しても規制手続きを要する国(EUと日本)では、膨大な数の新規GMOが出現し、規制制度にかかる負荷は増大する結果、承認の非同期性も高まることになるだろう。

 現在の商業化GM作物のほとんどは、米国か欧州の(民間)技術プロバイダーが開発し、北米・南米でまず栽培された。これら開発企業群は、主要な輸出先市場(特に欧州と日本)で広く承認を求めるのが普通であった。しかし、商業化GM作物は、15年までにその約半数が、アジア(および南米)の国内技術プロバイダーが国内農業市場向けに開発したものになる。
 これらの全てが、欧州に承認申請するとは考えにくいから、IFAになる。したがって、これら諸国からの農作物や加工食品の輸入に、今後LLP問題が発生する可能性は非常に高い。さらに、多くの国々が、現行の規制条項を担保するためには有効な検方法が必要とされることも、問題を複雑化する。

 イネなどの新規GM作物に加えて、現在大勢を占める害虫抵抗性および除草剤耐性、それらのスタック、ウイルス抵抗性に留まらず、成分改変および非生物的ストレス耐性(おもに脂肪酸組成・デンプン含有量の調整、栄養成分の改善、干ばつ耐性)などの新しい形質も15年までには商品化されると予想される。

 EUは輸入ダイズに大きく依存しているが、今後2〜3年以内にAAの可能性が生じる新しいダイズイベントが5種類ある。長期的にも、今は後期研究開発パイプラインにある9イベントから生じるAA 事例も多くなるだろう。さらに、中国が国内規制手続き中のGMダイズから、IFAによるLLP発生問題も無視しえない。

 トウモロコシについては、短期的にAA問題が懸念される4種類のパイプラインにあり、スタッキングによる問題もより深刻になる。長期的には、さらに7種類が市場導入され、AA状況に影響を及ぼす。さらに、IFA問題を起こしうるGMトウモロコシが3種類、中国の規制パイプライン上にある。

 GMナタネは、短期的にLLP問題を生じそうなのは1種類だけだが、より長期的に見ると、後期研究開発パイプラインにある5種類のマークが必要である。また、GMワタについては、EUの製品(油や粕)輸入量は少量なので、LLP問題はあまり深刻ではないだろう。しかし、EUの国内栽培用ワタ種子は輸入依存である。また、世界で栽培されている12種類のGMワタのうちEUへの輸入未承認が8種類(承認申請中は1種類のみ)もあるので要注意であり、特にIFAによるLLPの問題は無視できない。
 世界で商品化・規制パイプラインにある5種類のGMイネは全てEU未承認であり、うち4種類は承認申請も提出されていない。したがって、アジア諸国で後期研究開発パイプラインにある種類が市場導入されれば、コメ輸入において特にIFAによるLLP問題が発生する可能性が高い。

 世界では、GMジャガイモの3種類がすでに規制パイプラインにある。1種類はEUだけで審査中だが、残りの2種類はアルゼンチンで審査中だ。EUのジャガイモ輸入は、小規模で、植物検疫上の理由から厳しく規制される。したがって、ジャガイモのLLP問題は、短中期的には考えにくいだろう。

 その他のGM作物については、EUの輸入許可を得ているのはGMテンサイだけであり、その他のGM作物はEUの輸入許可申請さえ提出されていないため、将来のLLP問題は、たとえ発生したとしてもIFAによるもので特に加工食品に関するものになるであろう。

 世界の食品・飼料流通や貿易に携わる者にとって、EU域境で輸入拒否に遭う経済的なリスクは、LLPに関する大問題である。この問題のひとつに、未承認GM物質の微量混入についての検査が着地の港だけで行なわれ、シップバックが不可能であり、目的地変更にもコストがかかるというような「着地リスク」がある。

 作物のIPハンドリングは原則的に可能ではあっても、穀物の一般的な国際貿易の大量流通を考えると、輸出入業者も未承認LLPに対するゼロ・トレランス政策遵守の可能性を疑問視している。その結果、輸出業者は、LLPの懸念は根拠がないと考える国や、問題を起こす可能性が低い輸入業者など「好ましい買い手」を選んで穀物を売る可能性が指摘されている(つまり、厳しい国には「買い負け」が発生する)。

 さらに、穀物価格は質と量をベースとしつつ、穀物取引所の「入・落札(bid and offer)」制に基づく需給関係を通じて決定される。ここには、価格と規格とリスクの間に強い相関関係がある。輸入穀物がLLP規則に準拠しているかどうかが不明だと、リスクが高まるため価格は上昇する傾向がある(当然リスクが測定・管理できない場合は、取引は行われない)。

 このような状況では、予測可能性と法的確実性の欠如がより一般的な問題となる。輸出入業者にとっての問題以外にも、LLPによる将来のEU域内の価格上昇と安定的な供給の停滞は、低価格の農産物に依存する畜産などのEUの産業に域外への撤退を引き起こす危険性をはらんでいる。

 ワークショップの参加者は、LLPのリスクを軽減するためには、2つ問題に対応すべきであると考える。最初は、ゼロ・トレランス政策を見直し、低レベルの許容基準に置き換えるべきである。コストへの悪影響を減らし、貿易障害を防ぐために基準は、技術的検知レベルよりも高く設定する必要がある。

 2つ目は、「着地リスク」に対処するために、積み地における公的な検査を積み荷に実施することが提案された。その他の解決策としては、規制制度の合理化、新規GM作物のリスク評価の相互承認、コーデックスガイドラインの柔軟な運用なども提案された。(抄訳終わり)

 筆者は、実はこの報告書サマリーを身につまされながら読んだ。09年9月に警戒を促したEUにおけるカナダ産未承認GMアマニの問題カナダ産未承認GMアマニの問題 が、11月になって我が国にも飛び火 してしまったからだ。

 職業的立場がもたらす帰結的状況として、筆者はこの問題に対し部分的にではあるが、浅からずコミットすることになった。これは明白にヘルス・リスクの問題ではないのだが、行政の規制陣は「踊る大捜査線」ザ・リアルを張り巡らした。優秀な官僚の皆様は終電を逃し、土日も出勤という非常事態だった。

 「それはビジネス上の問題なのに、どうしてそこまでやらなくてはならないのか?」と細かい輸入者毎のデータを要求する所轄省庁に問えば「お願いベースです」という殺し文句を返される。未承認GMOという刺激的言葉に、過剰反応としているとしか思えないのだが、ちょっと打診してみても彼らにとって規制緩和などはとんでもない社会・政治的環境らしい。

 現行のGMO規制制度は駐車違反程度でも殺人犯と同じ扱いを課す。これは、残留農薬の一律基準値に対しても日頃から抱く疑問だ。ヘルス・リスクはほとんどないと行政自らが認めながらも、法違反は違反だからと業界は泣く泣く廃棄・積み戻しを課せられる。飢えが現実問題として突きつけられている世界で、こんなムダがいつまで許されるのか。

 「リスクに応じた管理」を許さない法制度は異様であり、GMOのリスク評価や管理に大小の課題が山積していることに、現場はとっくに気がついている。これは、おそらくEUも日本も同じなのだが、より海外に対する食品(原料)依存度が高いはずの日本で、JRC報告書のような効果的な警鐘を鳴らす成果物は、残念ながら登場していない。

 このGMアマニ騒動の渦中に身を置きながら、筆者が強く感じたのは「これはミニ・ヨーロッパであり、JRC報告書が訴える危機の指摘をほぼ全て含む小規模な具現はないのか?」というやや厭世的気分だった。アマニ(製品)の輸入量は少なく、プレーヤーやステークホルダーも限られる。しかし、同じことが太宗商品で起きたらどうなるか?LLPとゼロ・トレランス政策に起因する問題は「いま、そこにある危機」ではあるのだが、決して見たくない初夢でもある。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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