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GMOワールド|宗谷 敏

インドのBtナス商業化大論争の報道を検証する

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2010年2月1日

 年末年始のGMOワールドで、最も報道量が多かったはインドだ。この国のメディアは毎日10〜30本の記事を量産し続け、Btナス商業栽培承認を巡る全国的騒動を逐次伝えた。州毎の事態を伝える結果として報道量が増えているのも事実だが、この科学者、政治家、宗教家、農家、環境NGO、公衆を巻き込んだ大論争は、(途上国における)純食用GM作物導入に対する難しさのケーススタディとして捉えることも可能なので、報道の流れを整理しておくことには意味があるかもしれない。

 ちょうど2010年1月30日付のIANSが、Btナス商業化大論争に関する中間取り纏め的記事をアップしたので、これをベースに他のソーズからも適宜補足しつつ推移を検証していく。
http://www.thaindian.com/newsportal/sci-tech/explained-the-ruckus-over-bt-brinjal_100312268.html

TITLE: Explained: The ruckus over Bt Brinjal
SOURCE: IANS
DATE: Jan.30, 2010

 商品知識:Btナス(Brinjal)は、穿孔害虫(borer)に対する抵抗性を持たせるため、土壌細菌 Bacillus thuringiensis (Bt)からCry1Ac遺伝子を導入した。開発者は米Monsanto社とインドの子会社 Mahycoである。

 科学者の頷き:09年10月14日、政府のリスク評価機関であるGEAC(遺伝子工学承認委員会)は、Btナスがヒトの消費のために安全であり、農家の殺虫剤使用を削減し高反収を可能にするだろうという理由から、その商業栽培を承認し09年12月31日までパブリックコメントを求めた。なお、実際にリスク評価を行ったのは、Arjula R. Reddy教授が率いるEC (専門委員会)2の16名だった。

 このGEACの見解は、Prithviraj Chavan科学技術大臣、科学工業研究委員会(Council of Scientific & Industrial Research:CSIR)Samir Brahmachari総裁、バイオ工学省K. Bhan 長官などから支持された。

 閣内不一致:Sharad Pawar 農業大臣も、GEAC が承認を与えたからには、もはや政府が果たすべき役割を持たないと述べる。しかし、Jairam Ramesh 環境大臣が、制度上、最終認可が環境省によって与えられなければならないと指摘し、10年1〜2月に科学者、農業専門家、農民組織、消費者団体とNGOとの一連の協議を各地で行なうと発表する。

 反対運動の開始と拡大:Btナス商業栽培承認の知らせは、国際環境保護団体Greenpeaceなどの関心を呼び、NGOなどが一斉に反対の声を上げる。この時点での反対は、主にインドにはGM食品表示制度がないという商業化を前提とした懸念からスタートした。

 しかし、反対運動の火に油を注ぐようなネガティブな情報がメディアにより次々提供され、反対運動の旗印は、(1)非組み換えナスとの交雑への懸念(環境リスク)と(2) ヒトに対する長期健康影響が不明(ヘルス・リスク)へと集約されていく。

 ネガティブ情報の主なものは、GEAC 承認が満場一致ではなく、最高裁判所から任命されたPushpa Bhargava委員(EC2には属さない)が、その承認に必要なすべての必要なテストが行われていないと主張し、09年10月14日の当初から不満を表明していたというものだ。GEAC は、開発企業がビジネス上の機密保持を理由に全てのテスト結果の公開に同意しなかったと回答した。

 スキャンダルまみれて:しかし、分子生物学の権威でもあるBhargava博士は、矛先を納めず09年11月1日に国際大企業のインド農業支配を懸念する趣旨の意見(科学的というより政治・経済的色彩が濃い反対論)を公表し、さらにManmohan Singh首相官邸(PMO)からBtナス承認へ向けて強大な圧力があった(Ramesh 環境大臣は直ちに否定)などと、物議を醸す発言を繰り返す。

 さらには、背後に米国国際開発局(USADE)の関与を臭わせる報道などが続き、導入されたBtワタの(経済的成功とは裏腹に)環境影響懸念(土壌微生物への悪影響など)を主張してきた一部科学者がここぞと騒ぎ立て、論争はスキャンダルにまみれていく。

 騒然とした雰囲気の中、10年1月13日のコルカタを皮切りとして、Ramesh 環境大臣が約束した公共ミーティングが各都市においてスタートする。しかし、予想通りというべきか、雰囲気はBtナス導入反対派の激しいパフォーマンス会場と化していく。

 10年1月30日は、インドの国父Mahatma Gandhiが48年に暗殺(享年78歳)されてから62回目のMartyrs Day(殉教者の日)であったが、イベントはBtナス反対運動一色に塗りつぶされた。10年2月1日には、各地でハンガーストライキも組織化されつつある。

 同10年1月30日には、インド緑の革命の父として尊敬を集める著名な農業科学者M. S. Swaminathan氏も「GM作物を含めて、すべての技術が利益とリスクを併せ持つから、長期と短期の利益を分析し、導入前に徹底的に研究する必要がある。Btナス導入を政府は急ぐべきではない」と述べたと伝えられた。

 平時であれば、リーズナブルでニュートラルな発言内容なのだが、現在は否定的材料として報道されてしまう。もちろん科学者からの安全性に問題はないという肯定的発言も時折目にするが、単発射撃に終始し、傾いたメディアの姿勢を復元させるだけのインパクトはない。

 地方政府と農家の反乱:この間、ナスのほとんどを生産している西ベンガル、オリッサ、チャッティスガル、マディヤプラデシュ、カルナーカタ、ケララ、ビハールおよびアンドラ・プラデシュの8州の州政府が、Btナスの商業栽培を許さないであろうと述べる。この騒動でなにより特徴的なのは、通常は支持に回る農家がむしろ否定的というところが、政府には致命的とも言えよう。

 これらの厳しいリアクションに遭遇したRamesh 環境大臣は、Btナスの商業栽培に向けて、国内のコンセンサス確立と州政府に対する懐柔策に追われているが、先行きは今のところ全く不透明としか言いようがない。

 GM食用作物栽培への抵抗:インドは、広域にわたるBtワタの栽培面積で、GM農産物栽培では世界第6位に位置する。Btワタの栽培については、是非を巡りこれまで入り交じったレビューがなされてきた。しかし、中国と同様に多くの人口を抱えるインドには、一部のEU諸国をはじめ他の国々のようにGM食用作物栽培を禁止している余裕はない。

 Btナスの後には、25品種のイネ、23品種のトマト、多くの品種のピーナッツ、キマメ、ジャガイモ、マスタード、サトウキビ、ダイズとオクラなど多くのGM食用作物が、 GEAC の承認を待ち受けている。

 GM食用作物栽培の一番手となるはずのBtナスに対する抵抗はあまりに激しい。メディアは煽り続けるが、反対運動が真の民意かどうかの判断も難しいところだ。一方、食糧増産の必要性に迫られ、その実現には選択権を振り回している余裕もない政府が、どのような決断を下すのかは注目される。

 追い込まれたRamesh 環境大臣は、10年2月10日までに最終決断を下すと明言しているが、一方でGEACの改称と新たにシングルデスクのGM管理政策政府機関の設置を希望する言動も目立つ。
取り敢えず決定は先送りし、この組織の新設を待って決定を委ねるという逃げ道に走るシナリオもありだろうし、その場合には前述の実力者M. S. Swaminathan氏のコメントが有力な援護射撃になるのだろう、というのが筆者の今の観測だ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)

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