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新欧州委員会が直面するGMO承認プロセス改正提案

宗谷 敏

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 2010年2月9日、EU科学委員会は3系統のGMトウモロコシ(米DuPont社と米 Dow Chemicalの59122x1507xNK603 と 1507×59122および米Monsanto社のMON88017xMON810)の輸入承認について、いつもの通り合意に失敗した。しかし、この硬直したGMO承認プロセスを見直そうとする動きもある。この動きに対する主要国のポジションを、10年2月4日のReutersが特集しているので、今回は補足も加えつつこれらを読んでみよう。

http://www.reuters.com/article/idUSLDE6120K120100204?type=marketsNews
TITLE: FACTBOX-How EU member states approach GMOs
SOURCE: Reuters
DATE: Feb.4, 2010

 <新欧州委員会>前欧州委員会は09年10月で任期切れとなったが、リスボン条約発効の遅れから暫定的に延長されてきた。欧州議会の承認を得て、新欧州委員会が漸く発足したのは10年2月10日である(任期は14年10月末)。再任されたJosé Manuel Barroso委員長(ポルトガル)は2期目を迎え、GMO政策に関与する農業・農村開発委員はMariann Fischer Boel氏(デンマーク)からDacian Ciolos氏(ルーマニア)へ、保健・消費者政策委員はAndroulla Vassiliou氏(キプロス)からJohn Dalli氏(マルタ)へ、環境委員はStavros Dimas氏(ギリシャ)からJanez Potocnik氏(スロベニア)へと各々交代した。

 この新体制のアジェンダのトップにあるのが、加盟国政府にGM農産物を栽培する個別の権利を与える計画だ。この計画は、09年6月25日の環境閣僚理事会にオランダとオーストリアから提案され、ブルガリア、アイルランド、ギリシャ、キプロス、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランドおよびスロベニアから支持されている。Reutersは主要加盟国のこの計画に対するポジションとGMOに対するアプローチの検証を試みている。

 <オランダ>*農水省は GMOが持続可能性農業に必要であり、食糧安全保障においても一定の役割を果たすと考えており、世界で広範囲にわたりGMOが使用と耕作のために 利用できるようEUはGMOへのアクセスを改善すべきだと信じている。* オランダはEUの GMO 承認方法を修正することを望んでおり、その栽培について、加盟国個々の政府が最終決定権を持つシステムを提案している。*現在のところGMO の商業栽培は行われておらず、制限下での研究的栽培試験が実施されている。

 <オーストリア>
*一貫してGMO に対し反対の姿勢を維持し、公衆と農民が一般的に、GM栽培を支持しない。 オーストリア全州はヨーロッパにおけるGMOフリー地域連合に加入した。小規模農場が多く、それらの多くが有機栽培を行っている。
* 09年6月の環境閣僚理事会に、オーストリア政府は他の12の加盟国から支持されたオランダの提案を支持するメモを提出した。

 <英国>
* 英国政府は、自国内でGM作物栽培を全面的に禁止すべき科学的事例はないが、ケースバイケースのリスク評価が必要であると考える。
* 93年から、種々のGM作物の多くの試験圃場で研究開発のために栽培されたが、商業栽培は行われていない。
* 英国は、現行のEU承認プロセスあまりに長くかかりすぎると考え、提案の細部には検討すべき余地があるが、承認プロセスを速めることを目指すオランダのイニシアティブを歓迎する。

 <スペイン>
* スペインは害虫抵抗性GMトウモロコシを98年から栽培しており、09年にはトウモロコシの約22パーセント、7万6千ヘクタールに播種された。今年も同程度の量が栽培されると見込まれている。収穫されたすべての GMトウモロコシは家畜飼料用途に向けられる。
* GMサトウダイコンが試験栽培されているが、商業栽培は認可されていない。
* スペインの農民は GMOについて分裂している。ある者は、現行法が GMOフリー地域のコンタミを防げないと抗議する一方、他の者たちが煩雑な事務手続きが新品種の栽培を妨げ、そして非ヨーロッパの農民との競合を阻止していると不平を述べる。

 <イタリア>
* 大多数の国民が GM作物は健康に良いと思わないイタリアは、共存に関するルールが規定されていないことを理由にGMO栽培にデファクト・モラトリアムを敷き、 GMO 輸入にも抵抗している。
* 10年1月、イタリア最高控訴裁判所は、共存ルールがなくともGMトウモロコシ栽培を農場に許すよう農水省に命じた。この裁定は、90日で実行されることになっており、イタリアでのGM栽培の先例となる。
* 農水省は、もし毒性と環境面に限定されているなら、それが特に貿易とEU認可を弱めることに関して、オランダ提案への「慎重な」アプローチをとったと言います。

 <フランス>
* フランス政府は、環境影響についての懸念を引合いに、08年にMonsanto社のMON810トウモロコシの商業栽培を中止しました。
* GM作物へのフランスの用心深い政策は、不人気な世論と定期的にGM作物の試験栽培を破壊したGM対抗者の影響を反映します。
* フランスは、MON810のEU認可更新について、09年6月、EFSA(欧州食品安全機関)からの肯定的意見を不十分であると批判した。

 <ドイツ>
*ドイツの新連立政権は GMOに慎重に好意的であり、オランダの計画をサポートするであろうと言った。
* ドイツは09年4月にMON810の商業生産を禁止した。 政府は禁止令がそれに対する訴訟の完了まで残存するであろうと言った。

 以上が主要国別の状況報告であるが、Reutersはこの計画に関する分析も同10年2月4日付の姉妹記事で試みている。
http://www.forexyard.com/en/news/ANALYSIS-weighs-proposals-to-break-GMO-deadlock-2010-02-04T143943Z-EU
TITLE: ANALYSIS-EU weighs proposals to break GMO deadlock
SOURCE: Reuters
DATE: Feb.4, 2010

 1つのEUを原則とする現在のEU法では、加盟国が(認可された)GM栽培を拒否できるのは、リスクの科学的証明を伴う緊急避難条項に頼るしかない。このシステムは、いくつかの加盟国からのGM承認作業に対する根強い不満と抵抗を生んでいる。

 従って、加盟国政府にGM農産物を栽培する権利を与えるこの計画は、機能停止しているGM承認作業から障害を取り除くが、同時に域内マーケット論争に火を付けるリスクもあるだろうというのが、Reutersの分析である。

 この提案は、成功したならGM作物のより早い認可を可能とし、特に家畜飼料部門のコスト利益に依存している農民により多くの選択を与える。しかし、一方で現在保証されている域内市場におけるフリートレードを阻害し、農民に国家間の競合を起こさせ、国際貿易法に違反することにもなりかねないと危険視する人々もいる。

 GMOに対しては比較的リベラルな立場を取るオランダからの提案は、純粋に承認システムの改良を計ろうとするものだ。しかし、複雑に利害関係が絡んでくるため、加盟各国ではマルチ同床異夢の観もある。新欧州委員会が、この問題をいかに捌いていくのかは注目に値する。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)