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食品衛生レビュー|笈川 和男

なぜ続く? 無資格者のフグ調理で食中毒発生

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2009年3月9日

 長年、保健所の衛生監視員として働き、さまざまな食中毒事件を扱ってきました。振り返ればこの37年間、衛生管理の目覚しい進化により激減した事件もありますが、変わらず毎年起こる事件もあります。繰り返し起こる事件については、なぜ教訓が生かされないのか、もどかしい気持ちでいっぱいです。こうした経験から、最新の食中毒事件をレビューすることで、食関連事業に携わる読者の皆さんにお役に立てるかもしれないと思い、今日からこの連載を引き受けることにしました。初回の今回は、素人調理によって毎年死亡事件が起こるフグ毒による食中毒事件についてです。

 食中毒で死亡する原因のほとんどが、キノコとフグの素人料理です。表1にあるように、フグによる死亡者の多くが個人的なレジャーの釣りが関係しています。今年になって、死亡事故には至りませんでしたが、営業施設が原因となるフグ食中毒が相次いで発生しました。山形県鶴岡市の飲食店が提供したフグ料理と、大分県由布市のスーパー内の鮮魚店で販売されたフグの切り身により発生した事件です。共に解体調理者は、両県で定められた資格を持っていませんでした。

 山形県鶴岡市の事件は1月26日、市内の居酒屋でフグ料理を食べた8人中7人が口の周りと手足がしびれるなどフグ食中毒特有の症状を呈し、一時は3人が意識不明に陥りました。居酒屋の経営者は、「ヒガンフグの白子には毒は無いと思い提供した」と話していましたが、警察の調査では、嘔吐物から猛毒の卵巣(白子も有毒)が見つかりました。この経営者は、鮮魚店から2匹のヒガンフグ(オス、メスの各1匹と考えられる)を買っていましたが、フグの解体調理は初めで、オスとメスの区別がつかなかったのかも知れません。

 大分県由布市の事件は、2月6日にスーパー内の鮮魚店が販売したマフグの卵(マコ)を、男性が2人それぞれの自宅で煮付け、7日に食べたところ、呼吸困難、体のしびれなどのフグ食中毒特有の症状を呈しました。

 フグは死ぬこともある猛毒(テトドロトキシン)を持っていることは、国民の多くが知っているだと思っています。各都道府県は、フグの解体調理について条例あるいは指導要綱で資格及び調理施設などの規定を定めています。ところが、2事例とも資格を持たない者が解体調理をして、施設の届出もしていませんでした。作業者はヒガンフグ、マフグの卵巣が猛毒であること知らなかったものと考えられます。

 フグ料理が好きでたまらないという人の中には、「少し痺れるのがよい」とまで言っているようです。過去の飲食店での事故では、お客の要望で猛毒の肝臓の料理を店側がしぶしぶ提供した結果、お客が死亡した事例もあります。お客の要望により提供しても、事故が発生すれば、食品衛生法第6条第2号(有毒、有害物質が含まれる食品の販売、調理等の禁止)違反及び刑法の業務上過失傷害(過失致死)で調理者、営業者の責任が問われるのです。発症者が死亡しなくても、各自治体は再発防止のために公表します。たとえ、営業停止(禁止)処分が1週間であっても、営業上の影響は大きく、信用を取り戻すには長期間(数カ月あるいは数年)かかることを認識するべきでしょう。

 フグ料理は利益が上がると考えられますが、営業者はフグが死に至る猛毒を持っていることを再認識してください。業務上過失傷害(過失致死)の責任を問われれば、営業どころではありません。そうした事態を防ぐためには、都道府県のフグ解体調理に関する条例などを確認し、資格を取得し、施設の許可(届出の場合もある)を取るのが大前提です。

 そもそも、資格がなければフグを、解体調理することもできないはずですが、山形の居酒屋も大分の鮮魚店もフグを解体調理し、提供されて食べたお客が被害にあったわけです。昨年1月、茨城県那珂湊の漁港に直結した大型鮮魚店で丸フグ(切り身ではなく、丸々1尾のフグ)を買い、自宅で調理し、食べた女性が死亡する事件が起こり、当該鮮魚店は資格のないお客に販売したことが問われました。

 自治体によっては条例や要綱で、販売者に対して丸フグの販売を規制しているか、地域の魚介類販売業者が丸フグの販売業者に、「お客がフグ調理の専門資格を持っていることを確認する」「素人には売らない」と、指導しているようです。自治体によって規制の内容は多少変わるものの、鮮魚店が丸フグを販売する場合には、お客が条例や要綱に沿って、フグを安全に解体調理できるのかを確認するのは、必須事項です。

 フグの流通に関しては、上述した規制によって各所で安全弁が働く仕組みにはなっていますが、関係事業者の認識が徹底していないために、事故が起こります。また、フグの種類によって、部位や毒性が異なりますが、表2の通り、食用とされる多くのフグの卵巣、肝臓が猛毒であることも、関係事業者として最低限認識しておくべきでしょう。

 ただし、フグによる中毒死に至る多くの原因が、関係事業者ではなく、素人調理です。今年1月24日、新潟県佐渡市において自分で釣ったフグ(種類不明)を調理し卵巣を食べた男性が足のふらつき、嘔吐などのフグ食中毒症状を呈する事故が発生しました。こうした素人調理の防止に対しても、関係事業者が啓発活動を展開するなどの取り組みが必要なのではないでしょうか。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)

表1 食中毒による死亡者とフグ事故に関する死亡者数

H15 H16 H17 H18 H19 H20*
全死亡者 6 5 7 6 7 2
内 フグによる死亡者
(釣りが関係する死亡者)
3
(1)
2
(0)
2
(2)
1
(1)
3
(3)
2
(1)

*H20は測定値(未確定)

表2 谷の日本産フグの毒力表から(谷巌博士)

科名 種類 卵巣 精巣 肝臓 血液
マフグ クサフグ
コモンフグ
ヒガンフグ × ×
ショウサイフグ ×
マフグ × ×
メフグ × ×
アカメフグ × × ×
トラフグ × × × ×
シマフグ × × ×
ゴマフグ × × ×
カナフグ × × × × ×
サバフグ × × × × × ×
カワフグ × × × × × ×
キタマクラ × × ×

● 猛毒 10g以下で致死的
◎ 強毒 10g以下では致死的ではない
○ 弱毒 100g以下では致死的ではない
× 無毒 1000g以下では致死的でない

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