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食品衛生レビュー|笈川 和男

食肉の生食の事故は続く。食肉の生食は怖い、出すな、食べるな

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2009年6月12日

 食肉の生食の習慣があるのは、世界でも東南アジアの一部、北極圏近くに住むエスキモー、それに日本人くらいです。日本人は、世界でも数少ない魚類を生で食べる習慣を代々受け継できた国民であり、1965年以降、生の獣肉(牛肉、馬肉、時には豚肉)を食べる食生活が難なく定着するようにまってきました。しかし、獣肉はカンピロバクター、腸管出血性大腸菌O157などの細菌、肝炎ウイルス、寄生虫などに汚染されていることがあり、生食は大変大きな危険を伴っていることを再認識する必要があります。今年に入って、「レバ刺し」による食中毒が相次ぎ発生しているのです。

 次に、09年の「レバ刺し」による食中毒事件の速報を示します。詳細は不明ですが、「レバ刺し」以外の獣肉(鶏肉を除く)の生食(牛刺し、ユッケ)でも発生しているようです。

・3月14日、山口県下関市、飲食店で発生、レバ刺し(推定)、カンピロバクター、摂食者数不明、患者数9人
・3月29日、札幌市、飲食店で発生、牛レバ刺し(推定)、腸管出血性大腸菌O157、摂食者数不明、患者数3人
・4月18日、宇都宮市、飲食店で発生、牛レバ刺し、カンピロバクター、摂食者数5人、患者数3人
・4月29日、宇都宮市、飲食店で発生、牛レバ刺し、カンピロバクター、接触者数7人、患者数4人

 寄生虫による事故としては、06年10月に大阪府の焼肉店で起こりました。牛レバ刺しやユッケなどを食べた4人が、5〜7日後に腹痛や水様性下痢などの症状を呈し、病因物質を調べたところ、原虫のクリプトスポリジウムでした。

 E型肝炎としては、04年8月に北海道の焼肉店で豚肉を食べた14人中6人がE型肝炎ウイルスに感染し、そのうち1人が劇症肝炎で死亡しました。数名が豚レバなどの内臓肉を食べていて、十分に加熱しないで摂食した可能性が高いとのことでした。このことが発覚したのは摂食2カ月後でした。一般に、E型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均6週間です。

 06年には神奈川県の焼肉店で、ユッケが原因食品と考えられた食中毒が発生しました。摂食日は9月21日から10月1日までで、利用者7グループの24人中16人が発症し、病因物質は腸管出血性大腸菌O157でした。原材料肉はオーストラリア産で、生食用ではありませんでした。遺伝子配列の検査から、冷蔵庫内などで継続的に汚染されていたものと考えられます。なお、当該期間の客数の合計は1000人を超えていました。

 テレビのグルメ番組で、「この店のレバーは新鮮だからレバ刺しで食べられる」と説明しているのをよく見ますが、国の衛生基準に適合した生食できる食肉(牛・豚肉)はほとんど流通していないのが現状です。私自身、保健所に勤務していた頃、飲食店に対する講習会で、生肉提供の危険を何回も話したのですが、一向に提供する飲食店は減りませんでした。

 96年に、レバーの生食による腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生、レバーなどを生食することが徐々に広がってきたこともあり、消費者が安心してこれらを食べることができるよう、厚生大臣が食品衛生調査会に対し、安全性を確保する規格基準の設定を諮問しました。その答申に基づき、生食用食肉の安全確保に向けて、「平成10年9月11日付け生衛発第1358号厚生省生活衛生局長通知『生食用食肉等の安全性確保について』」が出されました。と畜場と食肉処理場の構造設備の基準と取り扱いの基準が定められ、その食肉には「生食用(と畜場の名称、食肉処理場なども記載)」との記載が義務付けられたのです。

 07年度時点で、生食用レバーの構造設備基準に適合していると畜場は、全国で6施設あり、出荷実績は、馬レバーのみ出荷できる4施設(共に九州)で、2施設(長野県、新潟県)の出荷実績はありませんでした。生食用食肉の出荷実績のあると畜場は、全国で10施設ありますが、4施設(生食用レバーと同一施設)は馬肉のみの出荷と思われます。

 08年度の、生食用レバーや生食用食肉の出荷実績についての資料がないために不明ですが、07年度と変化はないと思われます。07年度に出荷実績のある2カ所のと畜場の牛の処理総数が約7000頭ですので、生食用牛レバーが出荷されたとしても1日20枚程度ということになります。牛肉の生食用食肉については6カ所のと畜場から出荷されますが、その量は生食用レバーと同様に極めて少ないと考えられます。このように牛肉の生食用レバーや生食用食肉の流通量は、あったとしても極めて少ないのです。豚肉についていえば、牛肉に比べ細菌やウイルスなどの感染率が高く、豚肉の生食は牛肉より危険でることも強調しておきましょう。

 飲食店は食中毒防止のために、生食肉の危険性を十分に認識し、生食用レバー、生食用食肉を提供する場合には「生食用」と表示のある食肉を使用するべきです。お客に対しても食肉の生食の危険性をきちんと伝える必要があります。加えて、免疫力の低い幼児や老人が被害にあわないよう、十分配慮すべきでしょう。かつて神奈川県内において、親が幼児を連れて焼き肉店で食事をしたところ、幼児だけがO157による食中毒になりました。幼児に焼き肉を食べさせた際、生肉のドリップが箸に付いていたものと考えられました。

 繰り返して述べたいことは、「生食肉は出すな、食べるな」ということです。生肉を提供して儲かったとしても、食中毒事件を起こせば、店の信用は一瞬にして失われ、回復できるかどうかも分かりません。関係者はぜひとも肝に銘じて欲しいと思います。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)

*参考
生食用食肉の取扱状況(07年度実績)
(1)生食用レバーの加工基準に適合していると畜場及び出荷実績
・新潟市:新潟市食肉センター
・長野県:佐久広域食肉流通センター
・福岡県:県南食肉センター※
・福岡県:うきは市と畜場 ※
・熊本県:千興ファーム食肉センター ※
・熊本市:熊本市食肉センター ※
(注)「生食用食肉等の安全性確保について」(98年9月11日付け生衛発第1358号)に基づく生食用食肉の加工基準目標のうち、肝臓の処理について適合していると畜場を指す。
(※)馬レバーのみ出荷実績あり

(2)生食用食肉の出荷実績のあると畜場
・青森県:(株)青森畜産公社津軽食肉センター
・福島県:会津食肉センター
・郡山市:(株)福島県食肉流通センター
・宇都宮市:(株)栃木県畜産公社
・山梨県:(株)山梨県食肉流通センター
・高知市:高知県広域食肉センター
・福岡県:県南食肉センター
・福岡県:うきは市と畜場
・熊本県:千興ファーム食肉センター
・熊本市:熊本市食肉センター

07年度 牛の年間実績(所轄食肉衛生検査所のホームページから)
(この数値はと畜の実績であって、生食用出荷実績ではありません)
・新潟市食肉センター(1564)
・佐久広域食肉流通センター(5174)
・(株)青森畜産公社津軽食肉センター(08年度:牛78、馬759)
・会津食肉センター(牛のと蓄はなく、馬と豚のみ)
・(株)福島県食肉流通センター(1911)
・(株)栃木県畜産公社(5586)
・(株)山梨県食肉流通センター(処理能力1日50頭)
・高知県広域食肉センター(3619)

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