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食品衛生レビュー

鶏肉は加熱提供がカンピロバクター食中毒対策の第一歩

笈川 和男

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 盛夏を迎え、ノロウイルス食中毒が減少し、カンピロバクター食中毒が目立つようになってきました。カンピロバクター食中毒といえば、鶏刺し、鶏レバ刺しのような鶏肉の生食による食中毒が目立ちますが、ほかにも多くの発生原因があります。今回は、特に鶏肉による食中毒発生の事例を見ながら、予防策について考えます。

 カンピロバクター食中毒の発生原因は、大きく分けて次の4つに分類されます。(1)鶏刺し、鶏わさ(軽く湯通ししたもの)、鶏たたきなどの生肉の摂食(鶏わさは湯通ししたものなので安心と考えられますが、筋切りをした場合そこまで熱が通らない場合もあって、カンピロバクター食中毒を経験したことがあります)
(2)野外バーベキュー、焼き肉店、焼き鳥店での加熱不足
(3)使用器具などの洗浄不足による二次汚染
(4)使用水(井戸水)の消毒不徹底

 鶏肉中のカンピロバクタ−対策に関して、今年6月25日に食品安全委員会委員長から厚生労働大臣及び農林水産大臣宛てに、食品健康影響評価の結果として「微生物・ウイルス評価書」が通知されました。その中で対策が生産(農場)、流通(処理、販売)、調理・喫食に分類されて述べられていますが、生食対策が大きく取り上げられています。

 私自身、生産、流通の現状を考えると、鶏肉によるカンピロバクター食中毒発生対策とには上記(1)の生肉(鶏刺し、鶏わさ、鶏たたき)は「出すな、食べるな」しかないと考えます。(2)については、焼き鳥は提供する店舗で十分に焼けばよいのですが、バーベキュー、バイキングはお客によく焼いてから食べてもらうように注意喚起が必要となります。(3)は、調理器具・手指の洗浄が重要です。(4)は、日常の給水設備の点検、特に遊離残留塩素濃度の確認が重要です。

 食中毒が発生した場合、お客による加熱不十分で発生しても、飲食店が原因施設となる場合があります。お客に加熱処理を任せるバーベキュー、焼き肉店で、鶏肉によるカンピロバクター食中毒が発生しています。鶏肉の加熱不足による食中毒事故のほか、同じくらい、あるいはそれ以上に野菜が原因となる事故が発生しているかもしれません。鶏肉は十分に加熱しますが、一緒に盛り付けられている野菜類、バーベキューのキャベツ、タマネギなどは、生でも食べられるものと思っている場合があって、肉汁(眼に見にくいしずく)が付いたまま、生あるいは生焼けで食べることがあると考えられます。

 バーベキューにおけるカンピロバクター食中毒は、中高校生の春秋の遠足や夏のキャンプでしばしば発生しています。今年の6月にも、遠足などでのバーベキューで次の3件発生しています。

 1件目は6月2日に発生。横浜市から群馬県へ遠足に行っていた中学生が、バーベキュー(豚肉、牛肉、鶏肉、フランクフルト、マイタケ、タマネギ、キャベツ、ニラ、モヤシ、焼そば)と推定されるものでカンピロバクター食中毒が発生(旅館が原因施設)。2件目は6月6日に発生。福井県内の中学生が県内で校外学習のバーベキューを実習。鶏肉、牛肉、野菜、焼きそばを食べてカンピロバクター食中毒が発生。3件目は、6月22日に発生。滋賀県内の高校において、校庭で開かれた運動部の壮行会のバーベキュー(鶏肉、豚肉、キャベツ、タマネギなど)で、生徒、教師、保護者のうち生徒のみがカンピロバクター食中毒で発症した。

 私が経験した事例として、食品衛生協会の役員をして、模範的な食品衛生管理をしているフィールドアスレチック併設のバーベキューガーデンで、遠足にきた中学生がカンピロバクター食中毒を発症しました。前日の夕方、1人前ずつプラスチック容器に鶏肉、キャベツ、シイタケ、ナスなどを入れて冷蔵庫で保存し、翌日昼食に提供したのです。鶏肉の加熱不足も考えられましたが、どうも生焼けの野菜、特にキャベツが原因食品とも考えられました。鶏肉に付いていたカンピロバクターが、前日のパック詰めの際にキャベツに付着したものと考えられ、中学生はキャベツは生で食べられると思ったようでした。

 以前、東京のあるちゃんこ鍋店で、修学旅行生がカンピロバクターによると考えられる症状を呈したという苦情があったそうです。原因食品は鶏肉を使用したつくねだと考えられ、中心まで十分に熱が通らないうちに食べたことが原因と考えられました。美味しを犠牲にして鶏肉を加熱してからつくねを作り提供したところ、苦情は無くなったとのことでした。

 先のフィールドアスレチックの事例では、中学生は腹ぺこ状態で、じっくり火が通るのが待ちきれなかったようでした。ちゃんこ鍋店の事例も同様で、修学旅行生がつくねに火が通るまで待ちきれなったものと考えられます。そこで、中高校生の遠足・キャンプでのバーベキューで食肉、特に鶏肉を提供する場合には、食中毒事故防止のために、事前に加熱したものを用意することが必要なのかもしれません。

 焼き肉店では、彩をよく見せるため、食肉の上にピーマンやネギなどを載せていることがあります。通常は生で食べられる野菜でも、加熱不足のためにカンピロバクターだけでなく、サルモネラ、O157食中毒が発生する可能性が考えられますので、野菜類は分けて提供したほうがよいかもしれません。

 また、お祭りで冷凍の焼き鳥用の串に刺さった食肉を使う場合にも、冷凍ですと中心部までなかなか火が通らなくて串が燃えてしまい、加熱不足で提供する場合がありますので、いったんボイルしたものを使うようにしたほうがよいでしょう。以前、市民祭りで、飲食店組合のブースで焼き鳥を食べたのですが、中心部が冷たかったことがありました。焼き鳥のプロもいましたが、組合の出店ですので冷凍品を使っていたためでした。ほかのブースでは、市民が見ている前で、あまりきれいとは言えないポリバケツで解凍しているところもあり、「中止してください」と指導したこともありました。やはり事前のボイルが必要です。

 まとめとして、バーベキューや焼き肉の場合には、鶏肉と野菜を分けて提供すること。そして、中高校生の遠足などの場合には、事前に加熱処理をしたものを提供することを念頭に入れておくべきでしょう。また、イベントで冷凍の焼き鳥用串刺し肉を使う場合には、事前に解凍すべきであり、ボイルしておくことも1つの対策として有効です。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)