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食品衛生レビュー|笈川 和男

「謎の食中毒」の原因はヒラメ料理?

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2009年11月20日

 最近、「謎の食中毒」として、原因食品や原因物質が特定できず、再発防止策も立てられない困った食中毒事件が相次いでいます。食品衛生法において、食品を提供する人はすべて、安全にその食品を提供する義務があると規定している。つまり、飲食店経営者、食品の包装に従事する者などの最終的な提供者は、その責任は大きく、食中毒防止に努めなくてはなりません。食中毒事故が発生すれば処分の対象となります。しかし、病原菌や有毒物質など原因が不明ですと事故防止の対応ができません。となると、「謎の食中毒」はどのように対応すればよいのでしょうか。

 今年6月22日、読売新聞夕刊に「謎の食中毒増加中」と題した記事が載りました。記事によれば、食後短時間で一過性の嘔吐や下痢の症状を呈し、原因物質が特定できない食中毒がこの数年、首都圏や瀬戸内海沿岸、北陸地方で相次ぎ発生し、地元の保健所が「再発防止策の取りようがない」と対応に苦慮しているとのことです。関係自治体は「広範囲に発生している」として全国規模の調査を国に要請し、厚生労働省が国立機関に研究分析を依頼し、事例収集を進めているというものでした。

 厚労省などによると、原因物質が特定できないこれらの食中毒には、(1)主症状が下痢や嘔吐(2)食後、発症まで平均4、5時間と短い(3)軽症で回復が早い—-という共通点があったそうです。

 岡山県倉敷市の保健所が瀬戸内地区を除いた全国の97自治体からヒアリングした結果、回答した76自治体のうち54自治体から「原因不明の食中毒はあった」そうで、集計すると05年度40件、06年度70件、07年度89件と増加傾向を示し、08年度は112件だったそうです。地域別の3年間の合計で、多かった都道府県は東京都52件、千葉県41件、福井県33件でした。調査を担当する同保健所では「既に知られている細菌は体内に入って増殖までの時間がもう少し長いので、今回の食中毒は未知の物質が原因の可能性がある」として、調査継続の意向を示しました。

 原因物質不明の食中毒事例で、メニュー(献立)が記載されている食中毒発生資料を見ると、ヒラメ調理(刺身、造り、寿司)が多いことが分かります。このほかに「刺身」と漠然と書かれている事例、ヒラメ以外の魚類の刺身などが書かれている事例、刺身・寿司類の提供が全くない事例がありました。

 ここでは原因物質不明で、メニュー(献立)にヒラメがあった事例を紹介しましょう。

事例1●08年11月8日、ホテル(千葉県成田市)
 昼食に七五三の披露宴を行った2組57人のうち19人が、午後4時頃から下痢、嘔吐、腹痛などの食中毒症状を呈しました。献立にヒラメのにぎり寿司がありました。

事例2●09年4月8日、旅館(奈良県吉野郡)
 午後0時30分頃、地元のグループが旅館で会合をし、昼食を食べたところ、16人中10人が、午後4時頃から嘔吐、下痢、腹痛などの食中毒症状を呈しました。メニューにヒラメのお造りがありました。

事例3●09年5月10日、ホテル内日本料理店(神戸市中央区)
 日本料理のコース料理を食べた7組23人中、5組10人が下痢、嘔吐、腹痛などの食中毒症状を呈しましました。メニューにヒラメの刺身がありました。当該施設は9月27日にも食中毒が発生し、昼と夜に利用した人で、調査ができた4組12人のうち、11人が摂食数時間後から嘔気、嘔吐、下痢、発熱などの食中毒症状を呈しました。メニューにヒラメの刺身がありました。

事例4●09年10月14日、飲食店(水戸市)
 昼食を食べた3グループ9人のうち8人が、当日午後4時頃から嘔吐、下痢などの食中毒症状を呈しました。提供した料理にヒラメの刺身がありました

 ここで紹介した事例のすべてで原因食品、原因物質は不明ですが、飲食店で提供したメニューの中に「ヒラメの刺身あるいは寿司」が入っていますので、ヒラメとの関係が深いものと推定されます。今後、国立医薬品食品衛生研究所の調査研究で解明されると思いますが、細菌・ウイルスのような微生物ではなくてヒラメ体内で作られる毒と思います。

 原因物質不明なので、私たちの仲間の中では、とりあえずヒラメが関係した毒、「ヒラメトキシン(ヒラメ毒)」と呼んでいます。調査報告書を読んでいないので、はっきりしたことは言えませんが、いくつかの事例をさかのぼってみたところ、それらのヒラメは養殖ものだったと聞きました。しかし、養殖ヒラメの流通量と比較して食中毒発生の割合は極めて低いですので、養殖ヒラメと断定することはできなく、ヒラメトキシンを持っていても、その割合は極めて少ないと考えられます。

 養殖ヒラメが毒を持つと仮定した場合、原因としては(1)エサ(2)ストレス(3)海洋汚染—-が考えられます。私の個人的な推定ですが、養殖によるストレスにより、ヒラメの体内で人間に有毒な物質(ポリペプチド:アミノ酸の結合体)を生成するのではないかと思います。また、食中毒発生事例を見ますと、そのほかの養殖魚でも発生しているように見られます。

 今年9月、あるリゾートホテルの結婚式披露宴で食中毒が発生したのですが、このホテルの損害額は約7000万円と聞きました。結婚式の場合には日にちを変えることはできませんので、披露宴会場で食中毒が発生した場合には、格上の施設を斡旋する必要があって、その差額や慰謝料の支払い、時には出席者の宿泊の支払いなども加わりますので、莫大な損害額となります。なお、この食中毒の原因は黄色ブドウ球菌によるものでした。

 飲食店など、食品を扱う施設では、日頃から食中毒を起こさないよう事故防止に努めていますが、たまたま食中毒が発生すれば、上記のホテルのように大変な損害が発生します。飲食店において、調理場内の衛生・調理、仕入れ品の保管、調理品の保管、調理員の健康管理も重要ですが、事故防衛策の一つとして原材料の安全性の確保も重要です。

 ヒラメ養殖をしている方からお叱りを受けるかもしれませんが、飲食店営業者は新聞などで原因不明の食中毒においてヒラメ料理が提供されていないかを確認し、増えているようでしたら事故防止のために生食のヒラメの提供を止めることを考える必要があると思います。これはあくまで私の個人的な意見ですが、いくら見栄えが良くても、特に結婚式の披露宴などお祝いの宴では、生食のヒラメの提供は控えるべきでしょう。結婚式の良い印象がなくなるばかりでなく、残るのは悪い印象だけがだからです。

 なお、2007年12月19日の食品安全委員会第8回かび毒・自然毒等専門調査会において、長崎大学水産学部の荒川修教授から「養殖ヒラメの喫食で中毒が起きているという話がある」と話題が提供されていることも付け加えておきます。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)

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