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食品衛生レビュー|笈川 和男

有資格者の認識不足で人命にかかわる事故が起こる

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2009年12月18日

 飲食店経営者や食品販売事業者など、食品営業者には安全な食品を提供する責務(責任と義務)があります。病原菌に汚染された不衛生な食品、毒物に汚染された危険な食品は提供してはいけません。これを忘れた飲食店では、安心して食べることができないため、お客は寄りつかなく淘汰されます。最近、食品営業者が安全な食品を提供するという基本的な責務を忘れた大きな事故が見られます。今回紹介する事例はその典型例で、死亡者がでる可能性があった事例であり、「知らなかった、不注意だった」で済まない事例でした。

 11月下旬、富山県内の飲食店で小学校の同窓会の二次会を開き、フグ鍋を食べた2グループ21人のうち、12人が指先や口先のしびれや呼吸困難など、フグ食中毒に特有な症状を呈し、2人が一時意識不明の重体となりました。事故を起こした飲食店の営業者は一応、フグ料理の専門家であり、1985年に富山県が認可したフグ取扱講習会を修了し、86年にフグ取扱施設設置届出をしていました。

 富山県の調査などによりますと、前日に金沢市の市場でフグ6kg(ショウサイフグ、マフグなど数種類52匹)購入しました。しかし、飲食店の経営者はフグの種類を知らなかった模様です。最初のグループに提供した鍋に有毒部位である肝臓(約2cm×2個)が提供されていました(もう一方のグループは調査中)。そこで、飲食店に残っていたフグの肝臓を調べたところ、猛毒のテトロドトキシンが検出されたといいます。

 11月24日付けの北日本新聞では「通常は毒のある部位が除去された切り身で仕入れることが多いが、同日は切り身を買えず、魚のままで購入した40匹(本当は52匹)のうち15匹程度を同店でさばき、内臓などを取り除いた」と報じています。さらに27日付けでは、「これまでアンコウの肝を出していたが、今回はなかったので(フグの肝を)使った。過去に自分で小さいフグの肝臓を食べたが問題はなかった。小さいフグの肝臓であれば大丈夫だと思った」との経営者の話を紹介しています。同日付けの毎日新聞では、フグの肝臓が大皿に盛られて出されていたと書かれています。

 フグ調理のプロが「フグの種類を知らなかった」「小さいフグの肝臓は安全」「アンコウの肝がなかったのでフグの肝臓を提供した」と発言したのであれば、まったくもって馬鹿げているというしかありません。この事件を起こした飲食店経営者は、本当に富山県でフグを取り扱う資格を取得したのでしょうか。

 今年3月9日付けの拙稿「なぜ続く? 無資格者のフグ調理で食中毒発生」で書きましたが、フグの種類により毒素が存在する部位が異なりますが、肝臓はほとんどのフグの種類で強力な毒素が存在します。フグの大小には関係ありません。小さいフグでも毒を持っています。金沢市の市場でフグを販売した店は、フグを取り扱う資格持っている飲食店経営者に販売したので、問題ないと考えられます。
 フグ取り扱いの規定については都道府県によって異なり、富山県のような要項で定めている自治体、東京都や神奈川県のように条例で定めている自治体など、様々です。資格についても講習会修了だけで与えている自治体、資格試験の受験にフグ調理資格者のもとでの実務経験や実地試験を課している自治体などがあります。

 資格の名称も様々で、東京都は「ふぐ調理師」、神奈川県は「ふぐ包丁師」、福岡県は「ふぐ処理師」となっています。神奈川県では年に1回、9月から10月にかけてふぐ包丁師試験が行われ、学科試験の合格者が実技試験を受験できます。実技試験の内容は フグの種類の鑑別(通常使われる8種類程度)、解体、有毒部位の除去、調理(食用の部分をふぐ刺用などに分けて、ふぐ刺しは薄切りにして皿に盛り付け)です。実技試験で、まな板の汚れが目立つと大きな減点になるようです。ふぐ包丁師試験の合格率は40%程度と、容易ではありません。

 神奈川県の場合、お客に提供する場合には「ふぐ包丁師」の免許を持っていなければ行けません。福岡県の場合、「ふぐ処理師」のもとで資格の無い人も処理してもよいようです。非公式に聞いた話ですが、ある食品スーパーの魚売場で販売された「ふぐ刺」(処理した場所は福岡県か山口県だという)のパックを購入して食べた人が、ふぐ食中毒特有の症状を呈したことがあったそうです。調べてみると、トタフグの幼魚で、養殖場で間引かれたものでした。小さいと有毒部位を取り除くのが難しいようで、有毒部位が残っていたことが原因と見られます。かなりのレアケースだと思いますが、こういう事態も起こっていることを理解しておくべきでしょう。

 当たり前ですが、フグ料理を食べる人は、安全で安心できるフグ料理を望んでいます。今回のお客もおいしいものを食べようと来店したのに、一時意識不明の重体となり、営業者の責任は重大です。75年に食通と知られた有名な歌舞伎俳優、8代目板東三津五郎が「フグの肝を食べて死ぬのは本望だ」と言って、料亭でフグの肝臓を調理してもらい、その結果食べて亡くなったことはご存知の方もいるでしょう。いくら本人が「死んでもいい」と言っても、フグの肝臓を提供すれば飲食店は処分の対象となります。その料亭が食品衛生法で処分されたのは言うまでもありません。調理師は業務上過失致死罪に問われ禁固4月(執行猶予2年)の判決を受けました。

 いずれにしても、今回の富山県の事故で死亡者が出なくて本当によかったと思います。死亡者が出る可能性があった事件で、「知らなかった、不注意だった」で済まされず、食品営業者としての常識が問われる事件だったことを改めて認識すべきでしょう。食品営業者は、日頃から食中毒発生防止対策として危険がどこに潜んでいるかを把握し、お客に対して安全な食品を提供する責務(責任と義務)があります。食品営業者にあっては、忘年会開催のピーク時でもある今日、冷静にこの記事を読んでいただき、安全に1年の営業を終えていただければ幸いです。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)

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