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食品衛生レビュー|笈川 和男

美味しいソフトクリームで気まずい食中毒

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2010年3月19日

 ソフトクリームは、四季を問わず多くの子供、女性に人気がある食品です。そのソフトクリームが原因食と疑われる食中毒事件が1月中旬、宮城県のファミリーレストランにおいて発生しました。新聞報道、レストラン本部の社告などによると、食中毒の概要は次の通りです。

 1月14日と15日、ファミリーレストランを利用しソフトクリーム(9種類)を食べた85人(宮城県の食中毒発生状況速報では摂食者数1591人)が嘔吐、下痢、腹痛などの食中毒症状を呈し、4人が入院しました。病因物質は黄色ブドウ球菌でした。2月15日のファミリーレストラン本部の社告では「保健所からソフトクリーム製造機の故障が原因で、殺菌工程に充分な殺菌温度が得られず、黄色ブドウ球菌が増殖したため、同機により製造された商品を食べたお客様の中から食中毒が発生したとの判断を受けました。細菌の混入経路については特定することはできませんでした。故障を見落としたことが重なって商品をご提供したことが原因と認識いたしております」と記述されています。

 この食中毒ではいくつかの問題点が考えられますが、問題点を挙げる前に、まず発生日と利用者を考えましょう。発生日は14日(木)、15日(金)とウイークデーで、通常は混雑する日ではない(15日の夕方以降は混雑すると思いますが)と思われます。摂食者数が1591人となっているのは、子供にソフトクリームを注文すれば、親も食べるであろうと考えて、全利用者を計上したものでしょう。同店の店舗規模は不明ですが、大変繁盛している飲食店のようです。なお、殺菌装置付きなので、製造機内の洗浄は週に1回ないし2回と考えられます。

問題点1:1月14日、15日の2日間に渡って食中毒が発生していること。
 病因物質が黄色ブドウ球菌ということであれば、潜伏時間は30分から4時間ですので、飲食している間に発症しているお客のいたのではないかと思われます。そこで、なぜ従業員が気がつかなかったのかが問題となります。気がつけば、ソフトクリームの販売を中止できたからです。

問題点2:なぜソフトクリーム製造機が故障したのが分らなかったこと。
 ソフトクリーム製造機は絶対故障しないと過信していたのではないでしょうか。午前の開店前(24時間営業なら、自動殺菌が終わった後)に従業員が試食する必要があったと思われますが、そのマニュアルはなかったものと考えられます。あったとしても、実施していなかったことになります。試食していれば、同様に症状が出ていて、14日の何人かでソフトクリームの販売を中止できたと思います

問題点3:どこで黄色ブドウ球菌が入ったか。
 私の経験から、飲食店内でソフトクリーム原材料を製造、混合しているとは考えられず、製品化された液体ミックスを使用していたと考えられます。そして、この液体ミックスは乳製品製造業の施設で製造され、黄色ブドウ球菌、あるいは黄色ブドウ球菌毒素(2000年の雪印乳業食中毒では黄色ブドウ球菌毒素)に汚染されていなかったと考えられます。汚染されていれば、全国に約300店舗を展開するレストランチェーンですので、他店でも発生する可能性があるからです。そこで、一番可能性が高いのは、機械洗浄の際に従業員の手指から汚染したと考えられます。また、可能性としては低いですが、原材料のミックスを製造機内のタンクに注ぐ際に、汚染したことも考えられます。

問題点4:どこで黄色ブドウ球菌が増殖したか。
 黄色ブドウ球菌食中毒は毒素型であり、どこかで増殖して毒素を産生したことになります。製造機内の加熱殺菌工程以外はミックスから抽出部分まで低温状態であるので、その過程において通常黄色ブドウ球菌が増殖する可能性は低いです。推定ですが、週1回ないし2回の洗浄の際に汚れが残り、製造機の故障による中途半端な加熱殺菌で増殖に適当な温度が長く続き、黄色ブドウ球菌が増殖したことが考えられます。可能性は極めて低いですが、抽出部分は自動殺菌はできないと考えられますので、毎日の洗浄の際に洗浄が徹底されてなく、汚れが残っていたことも考えられます。

 美味しいソフトクリームで食中毒が発生し、それも2日間発生しました。従業員は気がついたのかも知れませんが、ソフトクリーム製造機は絶対故障しないという過信が招いた事例だと思います。そして、洗浄の際に汚染し、洗浄不良の従業員の不注意があったものと考えられます。開店前に試食していたなら、防げた事故かもしれません。

 私自身の経験では、消費者からソフトクリームの味が変だとのクレームがあって調査したことはありますが、食中毒のような健康被害の調査をしたことはありません。そしてこれまでに、全国でソフトクリームによる黄色ブドウ球菌の食中毒事件は発生したとは聞いておりません。アイスクリーム類による食中毒は自家製で鶏卵を使用していて、原材料を製造する際の加熱不足によるサルモネラ食中毒がほとんどでしょう。ソフトクリームの収去(抜き取り)検査を何回も実施しましたが、黄色ブドウ球菌による汚染は想定しておらず、検査項目に入れたことはてなかったと思います。

 1970年前後に、東京都がソフトクリームの一斉検査を実施したところ、多くのソフトクリームから大腸菌群が検出されました。この発表により、新聞に「ソフトクリームは大腸菌ウヨウヨ」というような記事が掲載され、一時は「汚い食品」の1つに挙げられました。私が食品衛生監視員として就職したのはこの発表の直後です。1年に数回ソフトクリームを販売している飲食店に収去(抜き取り)検査で伺ったものです。

 担当していた管内の人口は約25万人でしたが、ソフトクリームを販売していたのはたったの10店舗程度で、各店の店長さんは、講習会などで顔見知りでした。大腸菌群検出などで違反になると一週間程度はソフトクリームの販売ができなくなるので、収去検査で1店に伺うと、系列は異なりますが全店舗に電話連絡が入っていました。

 今回のソフトクリーム食中毒と同様に、飲食店においての従業員による食品製造機の洗浄不良による事故が08年4月に京都府のハンバーガー店で発生しています。朝、女性がアイスコーヒーを購入し、その場で2口ほど飲んだところ、消毒薬のようなにおいがして吐き気を訴え、一時入院しました。このコーヒーは販売する約4時間前に店で作られましたが、その直前、従業員がコーヒーサーバーを洗浄していました。同社は、マニュアルに反した方法で洗ったため洗浄液がサーバーに残り、コーヒーに混入したと判断しました。全国に3000店を超すチェーンで、本部は全店に適正な洗浄を改めて指示したのは言うまでもありません。

 ソフトクリームによる事故は、製造機の故障とされていますが、アイスコーヒーと同様に、従業員の不注意(故障に気がつかないのも不注意)によるものだと思います。いくら良いマニュアルを作っても、そのマニュアルがどうしてこうなっているのかが分かるように従業員教育をしなければ、「猫に小判」となって事故はなくならないと思います。なお、大きい事故になりませんでしたけれど、神奈川県内において07年、08年各1件づつコーヒーサーバー洗浄不良によるコーヒーへの洗浄剤混入事故が発生しています。

 飲食店の皆様、美味しいソフトクリーム、ひと息を入れるためのコーヒーで、まさかの食中毒、健康被害が起きないよう、日頃から十分に注意してください。(食品衛生コンサルタント 笈川和男)

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