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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

あの「一律基準」実施まで、あと7カ月

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2005年11月10日

 2003年5月に施行された「食品衛生法の一部を改正する法律」に基づき、05年10月、食品に残留する農薬などに対するポジティブリスト制度の導入が告示され、06年5月末に施行予定となっている。1980年頃のポストハーベスト農薬の残留問題や02年の輸入冷凍ホウレンソウ問題など紆余曲折を経て、晴れて食品中残留農薬規制の公平な法律が実現しようとしているのだ。大筋では誰もが納得するし支持されるであろう。しかし、周辺部分では議論沸騰である。

 例えばその対象として加工食品が加えられたこと。従来は小麦粉など一部を除き、加工食品は対象となっていなかったが、輸入冷凍ホウレンソウ問題のように対象外の食品が問題を起こしたことで、規制対象に入れられた。
 厚生労働省はリンゴ果汁が入ったジュースやウドンなどを例にして加工食品と原材料の関係での違反の蓋然性(=可能性)の説明を行っているが、原材料が多種類混在していた場合はどうするのかとか、加工度の高いものは対象になるのかなど細かい質問が出ると、「適切な原材料を使用して加工食品を作っていただければそういった問題は起こらないでしょう」というような返答をすることが多く、食品関係者はイライラを募らせている。食品関係者にしてみれば周辺部分での法解釈がどうなるかによって準備の度合い・被害の度合いが大きく変わるので重大な関心事であり、より実態に即した回答が欲しいのである。一方、厚生労働省にしてみれば、今回は基本的な法整備をしたのであり、細かい具体的な事例については実施してみなければ分からないというのが正直なところなのだろう。
 そんな中、業界内で最も大きな関心事となっているのが、農薬の残留が認められない作物に適用される「一律基準」だ。一律基準値は基本的には0.01ppm(10ppb)であり、イメージ的には畳3枚分の簡易プールに水を1m3ためて、そこに目薬1滴分を溶かしたぐらいの濃度である。
 当面の問題は一律基準が適用された場合の農業生産現場での問題である。ドリフト(隣の畑で散布された農薬がかかってしまった)や、前作で使用した農薬が土壌に残留していた場合など、実際起こりうることである。これについては農林水産省も認識しており、今年9月に都道府県や関係機関の担当者を集め、ドリフト問題について対策協議会を開催した。しかし、当事者となるべき生産現場の関心は意外に低いように見受けられる。確かにまだまだ現実感のある話ではないのであろうが、何かあったときに直接、被害をこうむるのは生産者なのだから一律基準への対応について、もっと関心を持ってほしいと思う。
 私のような検査担当者にとってもポジティブリスト制度への対応はいろいろ頭の痛い問題がある。最大の問題は、一律基準の0.01ppmが機械の性能上、担保できないものがある。標準品では何とかピークを確認できるが、サンプルの抽出液だとピークが見られないなど、悩み多き問題があるうえ、従来の検査項目を拡大しようとすると検査方法全体を大きく変更する必要があったり、今までうまく測定できていた農薬の回収率が悪くなったり、妨害物質が増えたりして従来のような分析精度が確保できないなど、問題が山積みだ。しかしそれでも“やるっきゃない”のである。
 このように未解決の問題を残したままではあるが、ポジティブリスト制施行後は、一律基準が適用される作物(農薬の使用を想定していないので)から農薬が0.01ppmを超えて検出されれば、食品衛生法11条の3項で、その食品の流通が禁止されることになる。この条項を杓子定規に適用するとかなりの混乱が予想される。
 冷静に考えてみよう。本来なら使用していないはずの農薬が検出されるという異常な事態である。高濃度に残留する場合は別だが、ごく微量の場合は慎重に捉え、原因分析まで踏み込んで行うべきだ。まずはその検出された原因を生産現場に戻って調査しなければならない。そのためにも国内産のものはトレーサビリティーの取れるシステムを構築しておくべきだ。なぜなら、どうしてそういう事態が発生したかをきちんと解明し、次回以降、日常的に流通する食品にその過ちが繰り返されないように図るのが本来の法律の目的だからだ。さらにその原因が隣の畑からのドリフトと判断された場合は、あと2点くらい別のところからの検体を分析し、その結果から総合的に一律基準超過の評価を行う必要がある。畑の周辺部と中心部、反対側ではサンプルのばらつきが相当、大きいはずだからだ。
 モニタリング検査による残留農薬検出は不連続なものが多い。たまたま検出された貴重な検出事例については詳細に分析し、関係者が協力して問題解決、次の安全な生産に活かしていくべきと私は考える。従来法では規制の対象にならなかった残留農薬の摘発ではなく、摘発を契機に原因分析により一層の力を注ぎ、自然の恵みを無駄にしない体制へとつなげていくこと。それがポジティブリスト制導入の有るべき姿のような感じがする。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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