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斎藤くんの残留農薬分析

農取法違反、一皮むけば無罪?

斎藤 勲

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 最近、農薬取締法違反、食品衛生法違反で農産物が回収・廃棄される報道が散見される。三重県でシュンギクに有機リン系殺虫剤ジクロルボス(DDVP)とEPNが基準超過と適用外使用で回収廃棄された。熊本県では種子消毒に農薬取締法上違反(1回使用を2回使用した)があり、その種を使って大きくなったアンデスメロンを35ha分廃棄するという。庶民感情からすれば、前者は「仕方ないねえ」であり、後者は「もったいないなあ」である。

 DDVPは揮発性が高いので速効性があるが、残効性は少ない殺虫剤である。昔は魚屋さんなどで天井からぶら下げた粘着性のリボン状をしたハエ取り紙にも使われていた(今では知らない人が多いかも)。ゴキブリなど衛生害虫防除には古くから使用されており、スミチオンなど性質の違う薬剤とうまく組み合わせたものも使用されている。検疫所の検査ではキノコやコーヒー豆(焙煎していない)から検出され違反となる事例が散見される。

 EPNは50年以上使われている殺虫剤で数少ない毒物(分類上急性毒性が強いため)でもある。今回の暫定基準設定の中で多くの農薬が使用状況との整合性をとるために基準値の設定拡大がなされたが、EPNはほったらかしであった。しかし、残留基準そのものが削除、追加され、適用作物との整合性はとられている。ホウレンソウの基準も削除された、変な話だが、今は検出されても食品衛生法上は違反ではない。EPNの残留違反の濃度は結構高いし、枝豆やインゲンなどにも適用はないが残留事例があり、要するにあまり法律をきちんと守れない農家の方が使用する農薬の代表例なのだろう。

 以前から、食品中残留農薬について話をすることが多い。その中でいつも言うのは、「検査は基本的に農産物(に近い)の形で行います。でも皆さんが食べられるのは外葉を取ったり、皮をむいたり、精米したり、煮たり茹でたりするものも多いですね。大部分の農薬は外側に残っていますから、そういったものでは結構農薬がとれる場合があります。それぞれの食品の状況を考え、問題がある・気になる食品についてどうしたらいいかを皆で考えましょう」と言う。

 基本的に皮をむいて食べる果物、精米・コメとぎするコメなどは日常的に気にしなくて良いと思っている。キャベツもリーフレタスみたいなものが最後に結球するわけではないので大半の農薬残留は外葉にあるから、気になるなら外葉を2枚くらい取れば残留量はぐんと減る。こういった情報を集めていくと、自ずと消費者の努力では無理だという作物名が分かるから、農薬散布をきちんとして残留を減らしてもらう食品は浮かび上がってくる。

 今回のポジティブリスト制度、それに先立つ農薬取締法の改正により、生産農家は相当プレッシャーを受けながらも、きちんと散布履歴が取れ、違反のない作物を作る方向に進むので消費者としては少しは安心できるかなと思っている。

 もうひとつ、今後みんなで真面目に考えねばならないことがある。冒頭で述べたアンデスメロンや無登録問題の時のリンゴやナシの廃棄の問題である。処分は法律上整合性が取れてすっきりした話だ。しかし、それだけで済む話ではないだろう。

 飽食の時代にありカロリーベースで食料自給率約40%、かつ食品流通や外食を含め廃棄している食材の如何に多いことか。食品の衛生管理の徹底から時間による廃棄は日常であり、豊富なメニューの中での食費は食べ残し(廃棄)も当然多くなる。それに加えて、豊作時の廃棄ももったいない話だ。農産物の廃棄問題について違反の処分は当然だが農産物そのものの処分は別の次元で考える知恵はないものだろうか。

 無登録農薬を使ったということから違反処分で回収・没収された数千tのリンゴ、ナシなどの皮をむいて(農薬はなくなる)実の部分だけ有効利用する方策はないものか。今回のメロンなどはそのままでも良いだろう。いつか日本の国力が落ちて、外国からいろんなものが買えなくなるような逼迫した状況になって初めて、みんなが真面目に考えてくれることなのだろうか。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)