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斎藤くんの残留農薬分析

函館のカボチャから予想外の農薬ヘプタクロルが検出された

斎藤 勲

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 カボチャからヘプタクロルと聞いて意外であった。確かに国内でも農薬として使用され1957年から75年まで農薬登録されており、北海道ではビート(砂糖大根)などに使われたという。以降30年近く使用されていない。ウーン?考え込んでしまう。

 考えられるのはカボチャもウリ科だしディルドリンと同じように土の中に残留するヘプタクロル(基準はヘプタクロルエポキシドを含むで、検出されたのはヘプタクロルエポキシド)を吸収蓄積したのかなあ、といったくらいである。だったら今まででも残留事例があったのではないだろうか。

 ヘプタ=7、クロル=塩素の意味で塩素が7つ結合した持続性のある殺虫剤(裏を返せば残留性がある)であり、8個(オクタ)塩素が付くとオクタクロル、9個(ノナ)付くとノナクロルとなる。オクタクロルは一般的にはクロルデンと呼ばれ、住宅のシロアリ防除剤として広く使用されたが、魚類などの環境汚染が明らかになり、毒性問題もからみ86年特定化学物質に指定され使えなくなった。クロルデンの中には、今回のヘプタクロルもノナクロルも成分のひとつとして含まれていた。

 長年分析を担当している者の感覚としては、ヘプタクロルは環境汚染調査の極微量の分析なら検出されるが、食品からは出ない農薬という感覚がある。ヘプタクロルは代謝されてヘプタクロルエポキシドになり農産物や畜産物に残留する場合があるが基準はなかった。唯一輸入食肉(脂肪)に0.2ppmの暫定基準を設けていた。

 今回のポジティブリスト制度の残留基準の改定でヘプタクロル(ヘプタクロルエポキシド含む)にもほとんどの食品に基準が設定された。今回のカボチャはEUの基準0.01ppmとオーストラリアの基準0.05ppmを勘案して0.03ppmが設定され、今回の基準違反となった。5月29日のポジティブリスト制度施行前なら検出されていてもおとがめできない部分である。従来のヘプタクロルエポキシドの残留は検出されても微量であり、今回のような0.05、0.07ppmという高い値ではなかった。

 生産者は使っていないという。原因は構造に似ているドリン剤のディルドリンのキュウリやカボチャの汚染と同じ土壌残留が原因なのだろうか。

 有機塩素系農薬ディルドリンというとキュウリでの残留とすぐ連想されるくらい因縁のある作物である。75年登録失効となったディルドリンなどが、30年近くたった今でも、ディルドリンなどを吸収蓄積しやすいキュウリなどから検出される事例が報告される。

 02年の東京都の調査でも、814カ所の土壌を分析して約1割からディルドリンの残留が確認された。その内の95%は0.5ppm以下であるが、中には2.6ppmも残留している例があった。そういった土壌でディルドリンに相性の良い(?)キュウリを育てると、330サンプル中12サンプル(3.6%)が0.02ppmの基準超過となったという。キュウリのディルドリン問題は厄介である。

 従来から農業をやっている人なら、ディルドリンが残留している土壌でウリ科の作物を植えるのは危ないことは分かっていたと思うが、持ち主が変わったり、使用履歴がなくなったり、削減されている普及指導員からの指導がなくなると、近郊農業としては商売になるトマト、ナス、キュウリの3点セットで栽培するようになり、結果としてキュウリにはディルドリン基準超過という事態を引き起こすこととなる。

 この事件の前に最近気になる報道が2つあった。千葉県で30年以上前に埋設したコンクリート容器から有機塩素系農薬が漏れ出し、周辺井戸の使用が制限された。秋田県でも30年以上前に埋設した有機塩素系農薬がコンクリート槽から一部流出していたというものである。4半世紀前のこととなると、人も変わり、資料もなくなる(特に最近は整理整頓が進み、捨てられる)。

 きちんと次に伝えられていかないことが多くなるであろう。もう一度埋設した有機塩素系農薬の管理は状況をきちんと把握しておく時期に来たのだろう。むやみやたらと埋め込むのではなく、化学的処理で処分することも前向きに考える必要があるだろう。そういう面では、この埋設した農薬の漏れ出しと今回のカボチャのヘプタクロルはどこかでつながっている感じがする。

 寺田寅彦先生が言われたという「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉がある。今回の事件は天災よりももっと予想できることであり、人災に近いかもしれないが、その時代時代の責任でちゃんと始末していくべきことなのだろうと思う。後から嘆くことは誰でも出来るのである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)