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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

農薬君もホンネは“枕を高くして眠りたい”

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2007年1月25日

 1月9日付けの私の地元である中日新聞の報道によれば、「環境省は散布された農薬を吸い込むことで人の健康に悪影響が出るのを防ぐための対策を講じることを決め、空気中の農薬濃度の基準値作りなどの検討を始めた」とある。試験は07年度から09年度で、市街地でよく使用される農薬について、動物(ラット)を使った90日間の反復吸入毒性試験を行い、健康影響評価するという。住環境やそれに近い場所での農薬暴露は、食品中の残留農薬問題などよりも実際には農薬のイメージに大きく影響している。それに関心が持たれたことは歓迎すべきことだ。問題もあるが、大いに期待したい。

 日本産業衛生学会(働く人の健康を考える学会の1つ)が、作業環境での有害物質の濃度を決めている。通常の仕事や短期的にはここまで許されるといった基準である。農薬の許容濃度としては、有機リン剤ダイアジノンが100μg/m3、スミチオンが1000μg/m3などに基準が設定されている。

 しかし、これは普通の人が職場で働くことを想定して健康影響評価をして決めたものであり、濃度的にはかなり厳しいものもあり、住環境付近での農薬暴露とはだいぶ濃度が違う。シックハウス症候群への対策として室内濃度指針値が設定されており、シロアリ防除関連の農薬クロルピリホスは1μg/m3、ダイアジノンは0.29μg/m3とホルマリン100、トルエン260μg/m3と比較しても厳しい基準となっている。生活空間だから当然かもしれない。

 最近、公園や街路樹散布、空中散布での暴露による健康影響の新聞報道などが目に付く。その多くが子供であったり、お年寄りであったりして、健常人の基準や感覚をそのまま適用することはできない。何でもそうなのだが、全体や多くの人ではなく一部の弱い部分にしわ寄せが来るのである。それを皆でどうするのかという話である。

 先に述べた90日間の吸入毒性試験で無毒性量と暴露量の比を指標として評価がなされ、ヒトの健康に影響が出ない濃度で指針値を定める。これから許容できる濃度が分かれば、散布時の立ち入り禁止区域の設定や適正な作業方法の指導に役立つという。おそらく作業環境の濃度と室内濃度との間の数値になってくるであろうが、その数値の設定や具体的な対応に期待したい。しかし、これで住環境付近での暴露の問題、健康影響問題が解決するわけではない。

 シックハウス症候群や化学物質化化敏症の方々は、健康に影響が出ない量を指針値として定めても、その濃度でもおそらく症状が悪くなる可能性は否定できない。いったんそういった症状が発現してしまうと重篤な方は、いろいろなものに過敏に反応してしまう状況に陥ってしまう。そのひとつの物質が農薬、有機リン剤にすぎないのである。

 ところが、1月13日の群馬県で開催されたシンポジウムで、昨年の群馬県での農薬の空中散布の自粛により従来のシックハウス症候群の中毒と思われる患者が減ったとの報告があったという。症状が改善されたということは喜ばしいことであるが、そんなに単純な因果関係なのだろうか。

 以前から本コラムでも述べていることだが、農薬を散布するという行為とその結果として頭痛、情緒不安、自律神経失調症的な症状を訴える住民の方がいる。農薬を使う側は適切に慎重に使っているといい、住民の側はこんなに症状が出ているのにと訴える。これを繰り返してきた結果の1つの解決の方向が、今回の90日間反復吸入毒性試験なのだが、実際の暴露状況、症状と散布の時系列での解析、分布などいろいろな場所での暴露状況などを地道に調べることがまず第一歩であると思う。

 指針値が出なくても、農薬が散布されたときの暴露状況(住民付近の気中濃度、個々人の吸入量、衣服の付着状況、尿中代謝物測定など)の把握は可能である。そういった科学的なデータ(一般の人の比較データも必要)と症状との関連などは、今からでもみんなで広く議論しやっておくべきことであり、それがなければ一般的な指針値を設定しても、現在のお互いに不信に満ちた関係を改善する手立てはないし、そもそもが科学的ではない。

 この問題がうまく解決しないことには、一生懸命働いている“農薬君”は浮かばれないというか、“枕を高くして寝られない”のである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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