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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

残留基準の差から安全性を論じないほうがよい

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2007年4月5日

 4月1日インターネットのmsnニュースなどに茨城県JAしおさいのピーマンの自主検査でホスチアゼート(商品名:ネマトリンエースなど)が0.26ppmと基準0.1ppm超過のため自主回収すると報道された。しおさい農協からのコメントに「(体重50kgのヒトが)毎日5個づつ一生食べても人体の健康に影響を及ぼすことはありません」と書いてある。いつもいつも新聞などの報道を見ていると、「基準超過の食品衛生法違反で回収廃棄します」という発表の後に、「行政は、今回検出された量を含む○○を食べたとしても、直ちに健康への影響はないと話している」というコメントがつく。必ずといっていい程、これはつく。だったら1回くらい少量なら食べても良いんじゃないのという庶民感覚にもなる。また、作物による残留基準の差がいつもいつも問題となる。基準ていったい何なんだろう?

 先日栃木のイチゴで問題となったホスチアゼートで見てみよう。ホスチアゼートの基準は、登録保留基準を基本に残留基準(単位ppm)が設定されている。マメ類0.02、イモ類0.03、アブラナ科・キク科・セリ科・ナス科は0.1か0.2、ウリ科は0.2か0.5、モモは0.5だがアンズ、スモモ、ウメは0.05、イチゴ類、ブドウは0.05、キウイフルーツ0.5などとなっている。

 今回イチゴで基準超過だったホスチアゼートは0.44ppm、基準の約9倍!の超過。しかし、直ちに健康への影響はないとのコメント。確かに、スイカ・メロン・ビワ・キウイフルーツならセーフだ。基準値はばらばらだから仕方がない。作物による基準の違いの問題の時、よく話題になるクロルプルファムはバレイショで50ppm、ほかは0.05ppm実に1000倍も違う。基準と安全性とは直接関係がなさそうだということがわかる。

 残留基準は、基本的には作物に農薬を適切に使用した状態での残留値を基本に計算されてきているので、当然農薬の使用方法、使用時期、作物の形状などが異なれば残留基準は変わってくるのは想定できる。それぞれの農薬が適正に使用されたかどうかを見る観点(それが安全性を担保された食品生産の第一歩)から残留基準値は組み立てられていることを理解してもらう必要がある。作物ごとの基準の差をあまり取り上げても安全性とは別の観点から組み立ててきているのでかえって混乱する。

 ただし、先ほどのクロルプロファムのようにポストハーベスト(収穫後)使用による残留値が入ってくるとその感覚が狂ってくる。コムギのフェニトロチオン10ppm、マラチオン8ppmも同様だ。玄米の0.1ppm、0.2ppmと比べると良く分かる。米ぬかのカルバリルの基準値170ppmまで行くと圧巻である(玄米は1.0ppm)。しかし、それぞれの農薬でADI(1日摂取許容量)は決まっており、その範囲内で作物類に割り当てられるのはその8割であるから、そのしわ寄せでほかの作物の残留値が小さくなることもある。

 こうして決まっている食品衛生法の残留基準は、どの作物でも適切な使用方法で散布された場合はその作物の残留値に充分収まるはずであり、散布濃度、散布量、収穫前日数により大きく異なるのであり、それをあの作物では基準が10倍高いと言っても所詮無いことである。要は、農薬の適正な使用をされなかった食品、基準に合わなかった食品を公衆衛生の見地からどう考えるかということである。

 食品衛生法第6条は、腐敗・変敗したもの、有毒・有害な物質、病原微生物汚染、不潔・異物混入食品など、直接人の健康に影響を与えそうな食品は、「販売又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない」と規定している。

 カビや細菌による腐敗、変敗では食べられないし、何が産生されているかわからない。カビ毒アフラトキシンなどは基準が0.010ppmで昔からピーナッツ、ピスタチオなどで厳しく規制されている。青酸化合物も同様である。これらの基準超過に対する廃棄は当然であり多くの支持が得られる。

 肝がんなどのリスクのあるアフラトキシンが0.010ppmの基準で規制されているのに、第11条3項(基準の設定していない作物からの検出は健康を損なわない量として0.01ppmを適用。たとえADIが設定されていても)も同様の基準というのはくどい様だが釈然としない。

 食品衛生法の残留基準というものは、各食品の平均的な摂取量を加味して、大きな果物類、小さな果物類、球になった野菜、開いた野菜、根菜、穀類、ハーブとか大きく分けてADIを割り振った数値内で、代表的作物での残留値を採用するコンパクトな基準設定で良いのではないか。そうあるべきだと常々ずっと思っている。出ないと無駄が多すぎる。

 基準値の運用に当たっては、2003年スウェーデンで問題となったキプロス産ブドウから検出されたモノクロトホスのようにばらつきはあるが高い残留値の場合は急性指針値ARfDからみて、体重10kg程度の子供はやばいと思えば(ARfDの1倍程度なら良いが、10倍くらいになると)緊急なアナウンスで回収すればよい。もう1つ大事なのは、継続した各種食品からの摂取量調査(トータルダイエットスタディTDS)であり、これをやり続けて長期に残留推移をチェックしていくことがモニタリングとしてとても重要である(これこそ公的機関がやってほしい)。

 だから、「シュンギクから基準の20倍の農薬が検出!」という記事を読んでみると、基準がないので一律基準適用(0.01ppm)。だから0.2ppm出ると20倍。うーん。確かにそうだが、消費者は普通の生活をしており、忙しいのである。伝えるべきことは、「どうして使わないはずの農薬が残留するのか、その原因は何か、解決方法は何か、である。人心を惑わすようなことにエネルギーを使うのではなく、「残留値はそのまま単純に健康に影響するものではない」というまともなことを、うまく説明してほしい。国の基準の複雑な成り立ちを含めて。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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