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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

食品添加物の正しい認識はいかに大変か

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2007年6月21日

 参議院創設60周年を機に、記念事業として中・高校生を対象に「私たちが夢見るこれからの日本」というテーマで記念論文募集があり、26名が選ばれた。農業高校3年の伊奈真由美さんが「食で育てる健やかな未来」と題して、食品の安全の問題とそれを支える農業の大切さを論文にまとめ入賞した(www.sangiin.go.jp/japanese/san60/frameset/ s60fset_02_01.htm ,6月13日付け日本農業新聞が夢の国農業が礎として紹介)。伊奈さんは文章を書く楽しさに目覚め、現在の夢は小説家とあるが(6月15日付け5農業新聞)、文中の食品添加物特に着色料については少々認識が間違っており残念。それほど食品添加物の正しい認識は、まだまだということだろう。

 伊奈さんがこの論文を書くきっかけとなったのは、食品添加物の元トップセールスマン阿部司さんの衝撃的な話だという。よほど衝撃的であったことは、前半の文章の組み立て方が阿部さんの考えの組み立てと似ていること見れば一目瞭然である。

 前半部分の概要は、日常的に若者がよく利用するファストフードが多数の食品添加物からなっており、体に害を及ぼす場合もあるが、添加物が必要な食材もあり、私たちの暮らしを便利にしてくれているというもの。

 また、伊奈さんにとっては印象的だったのか、「多くに人がすでに知っているように合成着色料は発がん性があります、緑の天然着色料(クロロフィル:筆者注)は蚕の糞から、赤色の天然着色料(コチニール:筆者注)はサボテンに寄生する虫の死骸から作ったものです、味付けに使われる添加物が味覚を壊し、健康的な日本食を脅かし、多くの添加物使用が一括表示で分からなくしてあります」などと述べている。

 後半部分は、農業高校の学生であることもあって、農業問題、後継者問題に加えて、皆で食を支え、健康な人々を作り、健康な日本を支えていく決意が述べてある。この部分は、実家の茶畑での作業を通して、一年間の苦労があってやっと収穫に結びつく喜びなどが、しっかりとした視点で書かれていたと思う。「あなた作るヒト」「僕食べるヒト」的な自分の立場だけで考え、行動するのではなく、相手(見えない)のことを配慮し支えあっていくことが「食育」の基本であることを、訴えている。

 その半面、前半部分が少々乱暴すぎるというか、実態と乖離した部分や説明不足な面がある。3カ所ほど、コメントしてみたい。その部分、論旨の組み立て方に触れてみたい。

 (1)伊奈さんは「合成着色料は発がん性があります」という記述に、「多くの人がすでに知っているように」という修飾語を付けている。こんな修飾語を付けられたら、知らない自分が後れていると感じてしまうといえば、皮肉だととられるだろうか。しかし、「合成着色料は発がん性がある」と言い切っていることには、疑問を呈したい。もしそうならば、2004年に天然着色料のアカネ色素が発がん性の疑いで削除されたように、国はすぐに食品添加物から削除する。こうした事実誤認に加えて、伊奈さんはこのことを総論で論議しているが、それはやらない方がよい。1つひとつ論じていかないと、結論がゆがむ可能性があるからだ。

 私自身、外国で売っているあのどぎついキャンディーの色(派手な色は天然着色料では出しづらいし、加熱に弱い)は少々敬遠したいし、やみくもに使えとは決して言わないつもりだ。しかし、合成着色料は合成品であるがゆえに、国が定めたいろいろな安全性試験をパスして、現在の添加物リストに掲載されている。ただ、日本人の感性を高めるような色使いを天然であれ、合成であれ、特性を活かして使っていただきたい。蚕の糞(クロロフィルは緑色植物から直接抽出が多い)、カイガラ虫の死骸は確かにそういった原料から抽出するかもしれないが、純度高く精製されたものが使われるのであって、死骸が入っていたら「異物混入」で即クレーム品である。

 (2)伊奈さんが問題にしているコンビニ、ファストフード店の食材について。これは添加物問題というよりも、食物繊維(昔は役立たずの代表であったが)が減っていること、煮物よりも揚げ物類が多くなっていること、糖分摂取が多くなっていること、いろいろな添加物を用いて上手に味付けしているため(悪いことではないが)、同じようなものを食べ続けることでカロリー過剰となっていることなどの問題だろう。当たり前だが、食材のバランスは考えたいし、野菜はサラダ的なものだけではなく絶対量をとりたい。

 (3)伊奈さんが賞賛する日本人の健康的な日本食について。全体としては野菜や魚類を食べ、過度に肉食、油などに偏っていないバランスの取れた食生活を言っているのだろうが、日本でも以前は穀類、野菜(保存食、塩蔵品)中心の単調な食生活であり、北日本では胃がん、高血圧なども多かった。それも日本食である。日本経済の発展の中、物質的に豊かになり到達した食生活が、今良いと言われているのであるが、現在は少々カロリーオーバー、脂肪分摂取過多となっている。さらに運動不足が肥満・生活習慣病に輪をかけている。もっとも、それでも世界で一番長寿なのは日本人であり、それを感謝して健康的な生き方を考える必要がある。

 食品添加物をはじめ、なぜか今でもステレオタイプ(紋切り型)な考え方で論議が進められることが多い。伊奈さんの論文にも、その影響を受けていると感じるにつけ、教育現場における食品衛生の知識がもう少し進むことを望みたいし、食育を進める上でこういった問題に適切な判断が出来る情報提供を望みたい。90年、雑誌「暮らしの手帳」に掲載された黒木登志夫先生(現在岐阜大学長)の有名な記事がある。がんの原因は何だと思いますかとの質問に、主婦が1位添加物、2位農薬、3位たばこと答えたのに対して、がんの専門家は1位たばこ、2位普通の食事と答えたというものだ。今も、全体的にはあまり変わっていない感じがする。また、いろいろな化合物の毒性を論ずる時でも、身の回りにあるその存在量を適切に評価せず、毒性だけで説明し過ぎていると思う。

 おさらいになるが、私たちは過去いろいろな悲惨な経験をした。今でもその後遺症に悩んでいる方も多い。そういった事件、事故を経て規制も進み昔と比べれば現代は危害性のあるものは、格段に少なくなっている。こういった遺産を大切にしながら、個々に発生する事例を皆できちんと冷静に対処し、解決していくことで、伊奈さんの言う「健康な人間を安全で美味しい食で育てていける社会」を実現できたらと思う。いろいろなことを考えさせてくれた高校3年生の伊奈さんに感謝である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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