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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

やっぱりニュージーランドのホルムアルデヒド事件は問題なし

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2007年11月1日

 FoodScienceによく引用される「食品安全情報blog」の10月18日の記事に、ニュージーランド消費者局の調査で、衣類など99検体中97検体からはホルムアルデヒドは検出せず、2検体からは100ppmの許容できる濃度で洗えば落ちる濃度であり、安全性の懸念はないとの報道が紹介された。オーストラリア競争・消費者委員会の調査においても、どの製品からも検出限界以下だったことが書かれている。このblogの責任者である国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子さんが、最後に小さくコメントで「要するにテレビ局の誤報だったと。さて、日本のマスコミはちゃんと訂正報道するかな?」と皮肉っている。

 化学物質問題に関する報道は、発信する側がそれなりの知識(ないならそれ相応なところに聞く)をもって、きちんとした情報をベースに展開しないと、往々にして誤解や不安を招くと実感させられることが多い。

 9月6日付けの「ハザード報道ではなくリスク報道を(3)」で衣類のホルムアルデヒドの事件報道をお伝えした。自分のお子さんの衣服で圧倒的に中国製が多いことにショックを受けた新人ママさんのブログで、中国製の衣類を袋に入れて保管したり、マイベイビーの触れるタオルやガーゼで、中国製はゴミ箱へポイっと捨てるといったわが子を危険から守ろうとする彼女たちにどう陳謝していくのだろうか。

 ホルムアルデヒドに対して日常的に気をつけるとすれば、シックハウス症候群や化学物質化敏症だろう。原因はよく分かっていないが、過敏な体質の人が増えてきたことにより、慎重な対応が必要な時代となってきている。そんな中で10月29日、毎日新聞が医学部に在籍し解剖実習で使用するホルマリンにより化学物質過敏症になり医師の道を立たれたとして、元医学生の女性が東海大と山口大(2大学の医学部に在籍)に損害賠償を求めた訴訟で東京地裁は請求を棄却したと報じた。判決ではホルマリンが化学物質過敏症の原因と認めたが、大学の責任は国の改善指示前、または対策を始めていたなど注意義務違反はないと判断している。

 この事例については、04年7月衆議院での井上和雄議員の質問に対して内閣からの答弁書があり、調査の結果健康被害が原因で退学した事例として報告されている。国の認識としては「当該事案については、化学物質過敏症の診断を受けたとされる医学部の学生に対し、大学において、学習形態を考慮したり、系統解剖実習時にマスク、手袋を用意するなどの対策を説明したが、その学生は修学を継続し難いとし、退学に至ったとのことである」であり、「この者に対し、現時点では国として対策を講じることは考えていない」と回答した。今回の地裁の判断は、その線に沿っている。

 この回答書の中に、98年から03年までの医学部、歯学部の解剖実習についての調査によれば、アレルギー既往症の悪化、気分不良、呼吸困難、鼻水、眼またはのどの痛みなど、ホルマリン暴露によると思われる症状が発生している。医学部歯学部合わせて、98年に130件だったのが、03年には217件にも上った。気になるのは毎年訴えの数が10人から20人ずつ増加していることである。この通りなら、早急な対応が求められる。

 従来であれば解剖実習にホルマリンは付き物で、防腐処理液には10%くらいは含有されていた。ほかの成分は、グリセリン10%、フェノール6%、アルコール45%などからなっている。

 08年3月には、ホルマリンが特定化学物質等障害予防規則(特化則)の第3類物質から第2類物質へ変更されるという。局所排気装置を設け(程度の差はあれ、今でもやっているが)、作業環境気中濃度を一定基準以下に抑制し慢性的傷害を防止すべき物質と相成る。作業中の許容濃度も0.5ppmから0.1ppmに(日本産業衛生学会許容濃度勧告値)厳しくなると、その濃度を超える状況は想定されるので根本的な変更も余儀なくされる場合もあるだろう。

 最近、では劇物のフェノールを除いた処理液を使用したり、消臭・殺菌に二酸化塩素を使用するところもあるというが、現在ではホルマリンに代わる有効な手段がないので使用量の削減を目指す方向が検討課題という。また、ホルマリン固定後の遺体をアルコール槽でアルコール置換を行うと、実習中刺激臭がほとんどなくなるというデータも示されている。

 現状では日本の医学、歯学教育で献体(医学・歯学教育研究のために役立てたいと大学に提供いただいた御遺体)を用いた解剖実習が必須ならば、夢多き学生たちが少しでも身体的苦痛を感じないで実習に専念できる環境を作ってほしいものである。

 新人ママさんの子供服の話から解剖実習の話へ大きく振れてしまったが、こういった論議ならば大いにやって欲しい。ホルマリン(ホルムアルデヒド)を社会生活の中で有効に使用しようとするなら、当然それなりの縛りをきちんと守ることが求められる。そうすることで楽しい豊かな社会を作りましょうというのが、本当のコンプライアンスの問題なのだろう。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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