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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

今年の残留農薬問題を振り返る

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2007年12月13日

昨年は、5月29日にポジティブリスト制度が施行され、食品中残留農薬問題においては画期的な年となり、今年1年は、その制度が年間を通じて運用された初めての年であった。結果はどうであったか? 中国バッシングのもそれなりの問題として取り上げられたりしたが、如何せん、ほかの話題の方が圧倒的に多かった。不二家、納豆ダイエットなどテレビのやらせ事件、ミートホープ、赤福、船場吉兆といった老舗を含む偽装・違反など、「ウソ」をついたことへの批判が圧倒的に強く、基準を違反したことよりも、そちらに“人気”を取られてしまった1年だった。

 今年1年の農薬関連の報道を振り返ってみると、通常の農薬使用による基準違反報道よりも、公園の毒餌、飼い犬が死んだ、カラスが死んだ、鳥が死んだ、魚やコイの大量死といった事件的な報道が多かった。これらの原因物質はメソミルとエンドスルファンが横綱格であり、毎年恒例ともいえる農薬事件である。

 メソミル(ランネート)は1970年に登録された農薬で、カーバメート系殺虫剤と同様にコリンエステラーゼ阻害により昆虫を殺す薬剤であるが、急性経口毒性の半数致死濃度がラット体重1kg当り約50mgで劇物に指定されている。最近の農薬としての使用量はかなり減ってきているが、毒餌として名を馳せるのはいただけない。「毒餌!やっぱり農薬は怖いわね」というシナリオを固める手助けをするだけである。しかし、適切に使えば野菜などの殺虫剤としては有効である。

 もう“1人”のエンドスルファン(ベンゾエピン、マリックス)は、60年に登録された有機塩素系殺虫剤である(本コラムの10月4日「垣間見えるインターネット情報のもろさ」を参照)。魚毒性が強く、水質汚濁性農薬という言葉はこの農薬のためにあるのかと思われるくらい、昔から小川の魚が良く浮いた薬剤であるが、これも使用量は減少している。以前は有用生物のミツバチには通常の農薬使用条件では影響がないので、ハウスのイチゴなどにはよく使用された農薬であり、イチゴから結構検出された記憶がある。当然基準以下ではあるが…。

 珍しい事例では、8月に大阪で毒入りパンで犬が死んで、調べたらエチルチオメトンが検出された。エチルチオメトン(ダイシストン)は64年登録の古い有機リン系農薬であり、急性経口毒性の半数致死濃度がラット体重1kg当り10mg以下で毒物に指定されている。薬剤は5%以下の含有量で劇物扱いとなっており、5%粒剤の使用量は北海道をトップに6000t以上使用されるという売れ筋でもある。

 もう1つの珍しい事例は、6月に埼玉で死んだカラスから有機リン剤のパラチオンが検出されたこと。今から36年前の71年に登録抹消された有名な毒物で、ホリドール(エチル)という名前とドクロのマークが印象的であった。そんな農薬をまだ納屋の奥にしまっている農家があるのだろう。いいことは何もないので早く適切に処分しよう。

 大分脇道にそれてしまったが、今年の農薬問題の特徴は、2月に発生した栃木県のいちご「とちおとめ」のホスチアゼート問題、中国産農産物違反の取り扱い方、今年も続いた宍道湖などのシジミの農薬残留問題と、北海道のカボチャのヘプタクロルエポキシドが特徴的な事例だろう。

 栃木のいちごのホスチアゼート問題(07年2月22日本コラム参照)は、蓋を開けてみたら使用した生産者の約1割の方のイチゴが基準違反であったことだろう。調査の結果は、1人の生産者が不適切な使用(定植後の使用と液剤として使用)をした以外の原因は不明だが、似たような使い方をしたか、土壌への混ぜ方が相当不均一であったのだろうと思われる。どちらにしろ、ホスチアゼートを適切に使用するための高い勉強代だった。ちなみに国内ではチョコチョコ検出される農薬であるが、EUのモニタリングデータでは検出されていない。使われていないということか。

 中国産問題の過敏な報道(07年7月19日本コラム)は、消費者が物事を正しく判断できる環境づくりからは程遠い話であり、人を不安に陥れることが目的ではないかと疑ってしまう面もある。最近の中国状況は新聞報道よりもかなり改善は進んでおり、特に日本に輸入される商品についての品質は相当高くなったと思っている。大手の輸入業者などではその辺りの対応がほぼ出来つつあるので、検疫所のホームページの違反事例に大手商社の名前があまり載らなくなった。載ったとしても自主検査の結果であり、検疫所のモニタリング検査まで行かないものが多い。

 昨年来の宍道湖などのシジミ問題は、07年10月18日本コラムで書いたように、まずクミルロンに残留基準0.4ppmが設定された。科学的な感覚ではないが、残留実態からするともう少し低い暫定値でも良いのではとは思う。しかし、そういったさじ加減の設定方法がないから仕方がない。

 北海道のカボチャのヘプタクロルエポキシド(06年9月14日本コラム)は、今年も問題になった。分析担当者からすると、残留基準0.03ppmという数字は現実のサンプルで遭遇する可能性のある、かなりスリリングな数値であり、来年もまたチョコチョコと基準違反で回収廃棄ということは起こる可能性を秘めている。30年以上も前に使われなくなった農薬が、土壌の中に残留し現代に酸化されたエポキシドの形で出現するのは、残留分析者として一度は経験しておいたほうがよい事例である。標準品の添加回収実験ではなく、実サンプルで経験することがとても大切である。今年も色々と経験させてもらった。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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