ホーム >  FoodScience過去記事 > 斎藤くんの残留農薬分析 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

1枚のグラフが悲劇のBSE問題を救えるか?

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2008年1月24日

 内容がコラムのタイトルと合わないかもしれないが、消費者への行政の対応事例として紹介する。ここに1枚のグラフがある。「日本のBSE陽性牛の生年月日と確認年月日」というタイトルがついている。これは食品安全委員会プリオン専門調査会の先生方が、昨年秋から各地で開催されている「食品に関するリスクコミュニケーション—我が国における牛海綿状脳症(BSE)の国内対策を考える—」で使用されるスライド「『わが国の牛海綿状脳症採択』のリスク評価(2005年実施、一部改変)」の5枚目のスライドである。

 意見交換会に出られた方はご存知と思うが、それ以外ではあまり知られていない。しかし、個人的にはすごいグラフだと思っている。食品安全委員会のホームページのトップや新聞で全面広告しても良いグラフである。ひょっとしたらBSE問題解決の切り札になるのではと期待している。

 BSE牛発生の本場(?)、英国では1992年頃は、年間3万頭を越える牛にBSEが発生していた。01年頃でも1000頭を越える発生である。ものすごい数である。現在までに英国では、牛の危険部位を食べて発生したと思われる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で166人 がなくなっている。

 その頃農林水産省は、日本ではBSEの発生はないと言ってきた。しかし、01年9月10日に、北海道生まれ、千葉県育ちの5歳の乳牛に、日本で初めてBSEの疑いがあると発表された。ないと言っていたのに実はあったのは、HIVなどの血液製剤での感染事例の時と同じ国の対応である。日本中がてんやわんやとなり、その対応として国は、その年の10月から世界でも例を見ないBSEの全頭検査を開始した。

 その結果、11月に1頭、12月に1頭(共に5歳)、翌年5月と8月に1頭(7歳)と、昨年末までに合計34頭が確認されている。これらはほとんど4、5歳以上の牛(3例を除いて乳牛)であったが、04年に検出された2例は21カ月、23カ月という若齢であった。この月齢が05年8月より国が20カ月齢以下のBSE検査を取りやめることになった理由である(その後、地方自治体がBSE検査を継続し、国が検査費用を補助しているが、その補助は08年7月末で打ち切られる)。

 年間100万頭を超える検査(延べ750万件くらい)を行い、06年は8例、07年は3例が確認された。これらの集大成がこのグラフである。BSE発生の特徴は、多くが96年組と2000年組(前後の99年、01年を含む)の2グループに分かれており、その年に何らかのBSEに感染する原因があったと推測されるのである。発生事例が少なくかつ全頭検査をしてきた日本が、世界に誇れるデータである。

 07年12月14日の農林水産省の発表では、96年組は牛に飲ませた粉ミルク(代用乳)が有力、その後に生まれた牛の場合は、輸入した肉骨粉の可能性があると報告している。そういった推測も可能となってくるきれいなデータである。ということは、対処の方法が明らかになってくるということだ。

 01年以降、と畜場での頭部、脊髄、回腸遠位部の除去、焼却と全頭検査による確認が6年間以上続けられてきている。異常プリオンの汚染リスクが少しはあるとされるピッシング(スタンガンで失神させた後、頭部からワイヤ状の器具で脊髄神経組織を破壊する作業。解体作業中に牛の脚で職員が怪我をすることを防ぐのが目的)も、現場ではいろいろと抵抗もあるだろうが、今回のグラフを紹介したリスクコミュニケーションの場で厚生労働省の担当官は、08年度末にはほかの方法に代わり、すべてのと場で中止される予定だと話した。

 食品安全委員会は、飼料の規制、危険部位SRMの除去、ピッシングの廃止などと場での作業評価、全頭検査結果、ELISA検査結果などを総合すると、生体牛への異常プリオンの蓄積度は、「非常に低いリスク」から「低いリスク」という評価であり、現時点では20カ月齢以下の牛の検査をやめても、全頭検査の実施とほとんど同じリスクであると判断している。

 だからこそ、あとは消費者が納得できる道をどう進めるのかが問題となってくる。でも、失敗が続いた。最初は農水省が日本にはないといって失敗し、全頭検査を始めたこと。次の失敗が、米国の輸入解禁要求の受け入れである。米国の要求も科学的には一理あるが、押し切られて決まるようなやり方は、信義のような部分で不信に陥っている日本の消費者には通じない。

 08年度末で本当にピッシングが中止になり、すべての工程管理で満足のいく結果が確認されれば、そして20カ月齢以下の牛の検査はグラフから見ても汚染リスクはほとんど考えられないのでやめましょうかという提案ならば、6年余の全頭検査の努力を少しは理解してもらい、折り合うことも出来るかもしれない。その時点では、米国の軟骨の骨化の進行状況からA40基準を用いて年齢を測定する方法でも、21カ月齢未満の米国産牛肉もきちんと管理すればいいですよという可能性も出てくる。また、厚生労働省の「20カ月齢の検査補助はもう要らないのでは」という提案も、すべてリスクを減らした工程管理が出来ているのならば、じっくり説明すれば納得してもらえる場面が開けてくる。

 最初のボタンのかけ違いをやったのは国の方なのだから、最後まで丁寧にボタンをはめ直したり、はずしたり、粘り強くやってほしい。消費者が主体的に、自主的に判断できる環境をつくる—-これが消費者対応行政の基本である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

⇒ 斎藤くんの残留農薬分析記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】