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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

冷凍ギョーザとメタミドホス、ジクロルボス

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2008年2月7日

 ここに1枚のスライドがある。私が残留農薬の話をするときよく使う1枚である。通常の食品残留濃度、残留基準、健康影響の関連については多くの方が理解しづらいので、残留濃度と健康影響濃度を「エイや!」で結んでみた図である。

 この中で紹介した香港の事例は、2000年第12回カリフォルニア農薬残留ワークショップ(米国ヨセミテ)で、香港政府のKuk-Ying Chuiさん(テレサ・テンさん似の女性)が、香港における農薬残留モニタリングと題して話された内容である。最初は薄層クロマトグラフィーで高濃度の農薬を検査したとのことであった。昔は日本でも、薄層クロマトの分析方法があった。香港では、この中毒事件がきっかけで、残留農薬検査が充実し、年間4000件程度検査するとの話であった。その際、ハクサイなど野菜を0.1%洗剤で洗うと半分になる、水に1時間位浸けておくと半分になる、油で揚げると7割落ちる、茹でて揚げると9割落ちるなど、生活の知恵的なデータも紹介され、皆がヘエーという印象であった。

 このスライドの説明で、通常の農薬散布ではハクサイに100ppmを超えるような濃度が残留するとは考えられず、あるとすれば収穫後の保管・輸送段階で防疫的に使用された可能性(自分が食べるものではないから)があると私は説明していた。ただし、これは中国国内や香港などで発生する事例であって、日本では普通考えられませんとも説明した。しかし、その説明がもう出来ない状況になってしまった。すみません。

 そして、先週1月30日から日本中がパニックになってしまった。中国で生産し、日本に輸入された冷凍ギョーザを食べた3家族が、時間、場所は異なるが(12月28日千葉市2人、1月5日兵庫県高砂市3人、1月22日千葉県市川市5人)、有機リン剤メタミドホスによるいわゆる有機リン中毒の被害に遭われたのだ。これらのギョーザは、中国河北省石家荘の天洋食品が製造し、日本のJTの子会社、ジェイティフーズが輸入、兵庫県の事例はスーパーで販売され、千葉県の2例は日生協の商品として、近くの生協のお店で販売されたものだった。

 「食の安全」を訴え続けてきた生協が、事件とはいえ有機リン中毒を発症する商品を販売したことは、私も関係者の1人として申し訳ない限りである。今後の生協のあり方に重い課題を背負わされたことになったとともに、日本の食品業界が従来の原材料チェック、仕様書管理、製造工程管理を基本とした安全品質管理だけでは商品を十分保てない場合があることを露呈した。

 野菜ではなく、食品であるギョーザを食べて有機リン中毒が発生するとは、通常では考えられない。いろいろな原材料を使用する加工品は、それだけリスクが分散されているからだ。当初、メタミドホスという殺虫剤の名前は飛び交っていたが、実際の濃度は不明であった。その濃度を知りたかったが、どこからも情報発信がないまま、冷凍ギョーザによる有機リン中毒が全国で3件発症というニュースが駆け巡り、中国の天洋食品製造で大手冷凍食品などの商品が自主回収され、中には中国製品、中国産と名がつく商品も店頭から撤去されるところも出た。

 どれくらいの濃度なのか。2月1日、コープネット事業連合から、12月28日に中毒に遭われた商品の検査結果が報道された。130ppm! 最初のスライドの香港の事例と数値が合ってくる。それでは中毒が起こるはずだ。スライドを作ったものとしては、「そんなところで一致してほしくないのに」と思わざるを得ない。

 メタミドホスの急性指針値ARfD(一時的にたくさん食べたとき、神経症状等急性症状評価の目安)が、0.01mg/kg体重である(この辺りの説明は、コラム「うねやま研究室」http://biotech.nikkeibp.co.jp/fsn/kiji.jsp?kiji=1819参照)。130ppmのギョーザ(1個15g程度)を5、6個食べると、75gから90gを食べたことになる。メタミドホスの総量としては、10mgから12mg程度となる。ARfDは体重20kgの子供なら、0.2mg、体重50kgの軽い大人なら0.5mg。子供の場合は60倍、大人の場合は24倍。ARfDの2、3倍くらいならまだ何とかなるが、20倍では「ウーン…」、50倍では「ヤバイのでは」となってくる。現実にそうなってしまった。兵庫の事例では、有機リン剤中毒特徴である血中コリンエステラーゼ活性低下、縮瞳が見られている(結果論としては、この時点ですぐ殺虫剤分析がなされていればと思うが)。

 この事件は現在進行形であり、新たな情報として福島県の生協が販売した製造日が昨年6月の冷凍ギョーザから、今度はジクロルボス(DDVP、以前このコラムで一部触れたことのある殺虫剤である。http://biotech.nikkeibp.co.jp/fsn/kiji.jsp?kiji=596)が、全体で10ppm(皮110ppm、具0.42ppm)検出されたという報道があった。ちなみにメタミドホスは検出されなかったという。においが臭くて食べれなかったというクレームから返品されたものである。その時はトルエンなど溶剤(他にベンゼンも検出され、10年位前から国内の農薬の溶剤としては使用されていない)が検出されたが、健康影響を与えるほどの濃度ではないということで、十分原因が不明なまま過ぎてしまった。今回の事件で検査をしてみると、ギョーザの皮からのみ高濃度のジクロルボスが検出されたというものである。

 兵庫の包材に付着していた事例や、千葉の事例で130ppmのメタミドホスが検出された時も皮に多かったということ、福島もギョーザの皮からの検出数値が高かったことを考えると、原料の野菜類、いわゆる残留農薬汚染が原因ではないことが大筋で見えてきた。ということは、従来の農産物の原材料管理を基本とした製品の安全品質管理ではとても太刀打ちできない。というか、従来からも製品後の保管管理もチェックはしているが、原材料、工程管理ほどはしていないのだ。というのも、製品が完成してしまっているからである。

 中国は広い、いろいろな人がいる、その中で日本人が気に入る商品を継続して作ってもらうことの大変さを痛感した。これから当面必要なのは、品質管理プラス警備なのだろうか。それに合わせた完成品のきめ細かい残留農薬検査なども必要なのだろうか。農薬が検出されたとしても、従来のようなその作物の基準値と比較してという単純な話ではなくなってきた。「不検出」基準を持つ農薬、動物用医薬品以外はあまり意味を成さなくなる。それでも検査をせざるを得ない。でも、コストが相当上がる。いっそのこと、まだ人件費の安い中国、包材に入れる工程あたりから港を出港するまで、24時間絶え間なく監視係を雇ったほうが安いかもしれない。でも賄賂をもらったら?きっと真似する人がでるのでは?そんなことも考えてしまう今回の終わっていない事件である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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