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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

ペット飲料から除草剤!農薬受難の時代続く

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2008年4月10日

 3月31日、東京の男性が近くのスーパーで買ったペット飲料を1本飲んで、薬品のようなにおいがしたため吐き出したが、一時下痢をしたという事件が起こった。そのペット飲料からは、広く使われている除草剤のグリホサートが検出された。4月7日には兵庫県の女性がスーパーで買ったペット飲料を飲んで、味がおかしかったので吐き出したが、気分が悪くなり病院へ。この飲料からも除草剤グリホサートを検出。共に大手のスーパーで大手企業の飲料である。程度は違うが、1977年の青酸コーラ無差別殺人事件を思い出してしまった。普通の人が普通の生活の中で普通に行っている行為の中に、こういった悪意が入ってくるとお手上げである。悪質な愉快犯が闊歩する不気味なゆがんだ社会となってしまったのだろうか。

 4月1日、大阪府は24t輸入された台湾産ニンジンから基準の2倍に当る0.02ppmの有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出されたことで、輸入元の青果卸会社に回収を命じた。当然のことながら食べても「健康被害の心配はない」とのコメント付きであるが……。知らない人が見れば、あのギョーザで問題となった恐ろしい「メタミドホス」が「今度はニンジンから出たのか!」となる。しかも、「基準の2倍も!」である。「中国は(台湾を中国とするかは別問題として)もう駄目!」といった感覚を持つ人が多いのではないだろうか。

 重篤な中毒を引き起こしたメタミドホスの名前はあまねく広まった。ニンジンのメタミドホス0.02ppmは、食品衛生法第11条3項違反である。しかし、以前のコラムにも書いたが、毒性の強さもさることながら、私たちが問題とするのはその量である。毒性が多少強くても存在量が少なければ心配することはない。

 読者はご存知のようにメタミドホスは国内では登録がない、即ち使えない農薬である。急性毒性LD50(半数致死濃度:ラット経口)は、13mg/kg体重から23mg/kg体重と、毒性は強く、結果として虫にも良く効く上、安価であるので使用は減らない。中国でも07年1月中国国内での使用・生産を禁止し、08年1月には有機リン系殺虫剤の生産・流通・使用を全面禁止したが、今年3月、違法に生産した工場を閉鎖しメタミドホスなど5種類の有機リン剤3300tあまりを没収といった記事があった。また、道路を走っていたトラックが横転して積荷のメタミドホスが破袋散乱し一時避難したりするなど、中国の表と裏を如実に見せてくれる記事には事欠かない。

 外国産を食べなければメタミドホスには巡り合わないかというと、世の中そうは甘くない。家庭園芸などでも広く使われるアセフェート(商品名:オルトラン、ジェイエース等)は、毒性はメタミドホスの40分の1ほどと弱いが、植物体内、土壌中でアセフェートが脱アセチル化して毒性の強いメタミドホスとなる。その成分が殺虫効果を示すのか。

 アセフェートとメタミドホスの関係を調べてみた。日本農薬学会農薬残留分析研究会(自慢ではないが残留分析の老舗である)が30年の歩みとして、77年から07年までの講演要旨集をCD-ROM化した(興味ある方は日本農薬学会ホームページを参照)中から、拾ってみた。

 ネギの生育中に根元にオルトラン粒剤を撒いて、水遣りをした。茎や葉は1日目くらいから濃度が1ppm位まで上昇し、10日目くらいから減少していく。代謝物のメタミドホスは3日目くらいからアセフェートよりも高い値となり、同様に減少していく。根部は3ppmくらいの濃度で4日目からは減少し、メタミドホスは1日ほど遅れて同様の消長を示す。モデル実験とはいえニンジンが問題となった0.02ppmとはかけ離れて高い数値である。

 実際の分析では、アセフェートとメタミドホスの残留量の比率は一概には言えないが、4分の1くらいの値が多いかなという感覚がある。ガスクロマトグラフ上(今はLC/MS/MSでの測定も多い)メタミドホスとアセフェートの2本のピークが存在すると、アセフェートがその作物に残留していたなという証拠にもなり、残留分析での判定上このペアは重要な要素である。

 残留量としては、ブドウなどでアセフェートが0.03ppmから0.5ppmの時、メタミドホスは0.01ppmから0.1ppm程度の濃度であり、先の違反となったニンジンよりは高い値であるが違反ではない。そもそもメタミドホスの残留基準がトマト、ピーマンでは2.0ppm、キャベツ、レタス、モモなどでは1.0ppmと、一律基準から見れば高い値が設定してある。

 基本的には1日摂取許容量ADIがあり、それに基づいて作物残留試験のデータを参考にして残留基準が設定され、それぞれの数値とその作物の摂取量を掛け合わせた量の合算がADIの80%に収まっていれば、その基準値は採用されることになっている。今回のギョーザ事件を踏まえて、メタミドホスのADIが従来使用されていた0.004mg/kg体重/日から10倍近く厳しい0.0006 mg/kg体重/日に変更、同様に急性中毒等の参考になる急性参照値ARfDは0.01mg/kg体重/日から0.003 mg/kg体重/日とする案が出されている。

 毒性データや安全係数の考え方が変われば、当然数値は変わってくる。数値が小さければ消費者感覚では歓迎される。それに基づいて厳しいほうにそれぞれの作物のメタミドホスの基準値を見直した場合、アセフェートは適正に使用され基準値内の残留濃度であるが、メタミドホスが基準値を超過した違反事例が生じる可能性がないか十分吟味しておく必要がある。

 数値は高過ぎても意味を成さないし、低過ぎても日常業務に支障が出る恐れもあり、適切・妥当な残留範囲を見つけるのは至難の業である。農業現場の実情を出来るだけ反映し、適切な使用を奨励するような基準設定がほしいものである。ただただ名前に振り回されるのではなく。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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