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斎藤くんの残留農薬分析

ギョーザのメタミドホス報道で迅速な濃度評価がほしかった

斎藤 勲

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 1月30日に新聞、テレビで報道されてから4カ月近くになる。最近ギョーザ関連の報道は四川大地震もあり減ってきているが、思い出したように5月15日、千葉県警の調べで千葉市の事件の調理済みギョーザから最高3万1130ppmのメタミドホスが検出されたと報じられた。当初1月30日の報道はメタミドホスという殺虫剤の名前だけ、2月2日の生協の検査結果で130ppm、1カ月以上たった3月13日に千葉県警が市川市の家族が吐き出した餃子から3000ppmを超えるメタミドホスを検出。3月31日は千葉県警が千葉市の家族の未調理のギョーザから1万9290ppm検出、吐き出したギョーザの皮から1470ppm、具から1240ppm、皮の方が高いので成形から袋詰めの間に混入が疑われた。そして、5月15日千葉県警の発表ではついに3万ppmを超えるメタミドホス検出と、「まだ出るの?」という感じであったが、これですべて鑑定終了とのこと。分析精度もさることながら、概要をつかめる大まかの濃度評価が早めにほしいものだ。2月2日の130ppmがなかったらどうなっていたことか。危機管理のためのトリアージが出来る迅速な検査結果が求められている。

 はじめの報道は1月30日、千葉県警が千葉市で家族5人が食中毒を起こしたギョーザからメタミドホスが検出との発表、2月2日兵庫県警も兵庫高砂市の事件で冷凍ギョーザのトレイから(全部食べてしまったため。嘔吐物あるのでは?)メタミドホス検出、しかし異常事態が発生し濃度がどの程度かフォローがないと対応が難しい。通常の野菜などでの検出濃度は0.01ppmから0.1ppm位の残留濃度、1987年の香港でのハクサイを食べて食中毒になったときはメタミドホスは100ppmから200ppm位であったが…。

 2月2日、コープネット事業連合が外部機関に検査を依頼した結果、千葉市の事件のギョーザからメタミドホス130ppmが検出されたと報じられた。これで明らかに農薬として使用されたものが残留したものではないだろうという判断ができた。意図的かどうかは別にして、次はどこで、どの段階で混入してきたのかいう問題になる。

 ギョーザはいろいろな具材から成り立っている。このため1つの原料が汚染されていても製品の加工食品としては希釈される場合が多く、残留濃度で健康影響がある場合は少ないので、従来は加工食品の農薬検査の優先度は低かった。実際のところ、加工度の高い食品を検査しても大部分の商品で農薬は検出されず、検出されたとしても微量であり、分析屋としては少々張り合いがない。やはり、農薬が検出されその結果を農薬使用履歴と照合して評価できる生鮮野菜や果物のほうが、お金のかけ甲斐がある。

 しかし、今回の事件に際し、いろいろなところで原産国中国関連商品の検査が行われた結果、改善点も見つかった。1つは、魚から微量のジクロルボスが検出されたこと。施設管理で使用された殺虫剤が付着した可能性もあり、製造工程だけでなく施設管理へのさらなる目配りの必要性が指摘された。もう1つは、肉まんなど加工食品から通常の残留濃度より一桁高い濃度のメタミドホスやホレートが検出され、食品衛生法違反の疑いと判断された事例で、ニラなど作物生産現場での農薬管理、入荷点検など衛生管理のさらなるレベルアップが求められるものだった。

 1月30日の発表以降、警察からの発表は、包材の表側、中側、トレイのメタミドホスの残留、袋の穴、キズの点検、外側に付着した農薬の内部への浸透(この問題では日中で意見が分かれている)、外部から意図的に入れた可能性、包材に付着していた油状物質から検出されたトルエン、キシレン、ベンゼンについて、ベンゼンを溶剤として含んだ薬剤は日本では使用されていないこと、昨年製造されたギョーザから微量のパラチオンが検出されたことなど、犯行を裏付ける情報に集中していた。「食べたギョーザのメタミドホスの濃度はどうなの?」という素朴な疑問には、報道を見る限り発表されていない。

 最初の報道から1カ月以上たった3月13日、千葉県市川市の事件の吐き出したギョーザ(当然調理済み)の皮から3580ppm、具から3160ppmという高濃度のメタミドホスが検出されたとの報道があった。千葉市の事件での吐き出したギョーザの皮から1470ppmのメタミドホスが検出されている。この濃度になってくると、量をそれほど食べなくても有機リン中毒になるかというイメージがわいてくる。

 さらに3月31日、千葉市の事件の未調理のギョーザから皮で最高1万7680ppm(1.7%)、具で最高1万9290ppm(1.9%)だったと発表。5月15日のまとめでは、残りの調理済み17個と未調理2個を検査した結果、皮は最高3.1%、具は1.6%(31日は1.9%?)であったと発表された。ギョーザの袋の内側からも千葉の両事件ともメタミドホスが検出されている。

 ここまで時間をかけて検査をしたのならば、一部皮に多かったので成形から袋詰めの間に混入かとの報道もあるが、ギョーザのどの部位が多かったとか、具は均一に残留していたのか、皮に近い部分が多いのか、図解しながら何か参考になるデータがほしいのである。発表されていないだけかもしれないが。

 今回の事例でメタミドホスの濃度を知り対処するのに、2月2日の生協のメタミドホス130ppmの報道が一番有益な情報であった。「出た出た」というよりも、何がどれくらい出たのかを出来る限り早めに知らせてほしい。「ハザードよりもリスクを」である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)