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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

基準違反のあっさりし過ぎた農業新聞の記事の伝え方

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2008年8月28日

 8月9日の日本農業新聞に小さな記事「ミディトマトに基準超す殺菌剤—秋田」が載っていた。秋田県はJAかづのが出荷したミディトマト(トマトとミニトマトの間)から食品衛生法の基準がない(ということは一律基準0.01ppm適用)殺菌剤ジクロシメット0.03ppmが検出され、秋田県大館保健所が同JAに回収を命じた。1農家の生産で64kg出荷されたのだ。ただし、このミディトマトを食べても健康への影響はない。流通状況や原因は県やJAが調査中という報道であった。一般紙ならいざ知らず、専門の新聞なら単純な違反報道ではなく、もう少し踏み込んで実情と矛盾を伝えてほしかった。

 ジクロシメット(商品名デラウス)は住友化学が開発し、2000年に登録された比較的新しいイネいもち病の国産農薬である。メラニン合成を阻害することにより、イネいもち病菌の感染に必須の付着器のメラニン化を阻害して、主たる防除効果を発揮する薬剤という。効果が長期間持続することから、育苗箱処理にも使用される。育苗期防除をジクロシメットできちんと行い、水田での葉イモチ防除を1回行うことにより、穂イモチ防除に有効との報告もある。急性傾向毒性LD50はラットで5g/kgと毒性は弱い薬剤で、1日摂取許容量(ADI)は0.005mg/kg/日である。残留基準はコメに設定されているが、魚介類での残留基準も検討されている。

 コメにしか使用されない農薬は、当然米にしか残留基準0.5ppmが設定されていないので、ドリフト(周りの畑で栽培している作物に風で流されて付着)が心配される。安全性が高い農薬であろうとなかろうと、一律基準0.01ppmを超えて検出された場合、当然ながら違反となる。しかし、実際のジクロシメットの違反事例は、どうもその場面ではないらしい。

 07年11月にも秋田県でコマツナからジクロメットが0.05ppm検出されている。08年1月には、新潟県長岡市で学校給食に使用されたアスパラ菜からジクロシメットが0.09ppm検出されている。両方の一律基準違反事例も、同じハウス内でイネの育苗に使用した農薬が土壌に残留していて、そこで野菜を栽培したためらしい。今回のトマトも、他の報道(さきがけ on The Web8月8日)では、県水田総合利用課によると前に水稲の苗をハウスで育て、その際に農薬が土にしみ込んだのが原因とみられている。同じような事例が起きているのである。

 秋田県生活衛生課のプレスリリースには、「健康への影響として、ミディトマトを食べたとしても健康を害するものではありません。このトマトを体重50kgの人なら、毎日8.3kg食べても健康に影響がないとされる濃度です」と書かれている。最近の行政報道には必ず付いてくる部分だ。トマトを毎日8.3kg食べろと言うよりも、本来は「この基準を超えたからといって健康に影響を与えるようなレベルで基準設定はしておりません」と残留基準設定(特に一律基準は)の基本を述べた言ったほうがいいのではないかと思う。

 話を元に戻そう。こういった背景を持った薬剤の一律基準違反を小さなスペースで淡々と「基準違反の殺菌剤が検出され回収されました。」というあっさりした報道では寂しい感じがする。どうせ記事にするなら、次のような内容は確認したい。

1.今回の報道ではないが、一律基準超過の場合は、基準値の何倍という表現を使わない。数値ではなく、“何倍”という部分だけが一人歩きすることのないようにする。

2.一律基準の場合は、基準を超えたことが問題というよりも、どうしてそういった事態が発生したかを突き止めて改善し、次の生産に活かすことが本来の目的であるべきであり、回収廃棄する対応はフードロスの問題からも国民的問題として論議すべき課題ではないだろうか。

3.農業現場でのイネの育苗と別の作物の栽培を行う場合の土壌を介した汚染をきちんと農業生産者の常識として啓蒙していく必要がある。コンプライアンスの観点からも無駄をさせないために。

4.現実の生産現場で起こる可能性のあることは、普通に作業していても発生するような事例ならば、それを安全性評価の観点から見直して許容できる範囲を模索するような論陣を張るのも、専門メディアの役目ではないだろうか。

 とにもかくにも、あまりにもあっさりした記事に少々落胆し、こんなだらだらとした文章をしたためた次第である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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