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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

東大! 農場で禁止農薬米! 一般に販売!

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2008年10月9日

 新聞タイトルをもっと強調して書くと、「!(エクスクラメーションマーク)」が付いたこんな表現になるのだろうか。内部通報により発覚した事件のようだが、1973年には登録が抹消された有機水銀系の殺菌剤を最近まで大学の付属農場でリンゴおよび柿の苗木の消毒と種モミの消毒に使用したというものである。報道の中で気になったのは、「03年に農林水産省令で使用自体も禁止されたが、農場の米栽培に使われたのは97−99年だったため、法的には使用できる状態だった」という部分である。確かに03年の農薬取締法の改正は、無登録農薬問題を受けて法的な不備(販売禁止農薬に加え使用禁止農薬の設定)を整備したものであって03年以降の使用は違反だが、それ以前も水銀汚染などの環境汚染の問題もあって登録が失効となった農薬を使い続けるのは、やはり問題であろう。しかし、「今どきこんなことが……」と言うのが、正直な実感である。

【訂正】当初本記事中、「登録抹消された農薬を使い続けるのはやはり違反であろう」と記述しましたが、安全性などに問題があり登録が失効した農薬の使用継続は、03年の農薬取締法改正以前は違法とはならず、筆者の「違反であろう」の記述は法的解釈においては間違いでした。筆者が伝えたいことは「安全性に問題がある農薬を使い続けてきたのは問題ではないか」という意見でしたので、「違反であろう」を「問題であろう」という意見を表す表現にしました。お詫びして訂正いたします。(2008-10-27、編集部)

 以前は色々な有機水銀系農薬が稲のいもち病や野菜果樹の病気予防などに有効な薬剤として使用されたが、コメ粒への残留や水銀剤の毒性が問題となり73年には登録失効した。メチル水銀剤なども使用されたが、外国では事件が発生しており、71〜72年にイラクでメチル水銀で消毒した輸入種子用コムギを誰かが横流ししてパンを作り459名の死者と6500名余の中毒者を出した事件が発生している。同じイラクでエチル水銀を含む小麦粉で作ったパンで集団食中毒が発生し死者も多数出ている。

 今回問題となっている酢酸フェニル水銀は体内で分解され無機水銀になるため、メチル水銀等低級アルキル水銀のような神経毒性は示さないと言われている。今回の使用では、種モミ、苗木の消毒に限定されており、最終製品のコメや果物への残留は問題ないと思われるので、禁止農薬を使用したコメなどによる健康影響は気にすることはないが、使用場所付近での環境汚染はチェックしておく必要があるだろう。

 今回は東大だから余計大きく取り上げられているのだろうが、大学内部での管理のもろさと言うか、各研究室が研究内容については責任を持って運営している面も多いので、細かい部分まで手が回らない、回らなかったと言うのが実態であろう。しかし、最低限の社会的な規範の遵守は自発的にしていかないと、末端まで厳しく管理し始めると、大学の活力がなくなってしまう。毒劇物管理、放射線取り扱い管理などは大学が弱い部分であり、教室の住人が変わったときなどの備品や薬品の廃棄などは特に気をつけていただきたい。

 使用したベテランの技術職員の人は、「いけないとは分かっていたがカビの病気などに効くので使った」を話しているようだが、現場でのその安易な考え方と言うか、実務優先した考え方が非難されている。しかし、こういった事例はさかのぼって調査すれば、まだまだたくさん埋もれているだろう。しかし、昔のアラ捜しに奔走するよりも、今回の事例を教訓にして身近な管理をレベルアップするほうが余程有意義なことだ。

 農薬取締法の研究目的での使用とは、使用禁止農薬は今回のような通常の栽培には使用出来ず、農薬登録のための試験などに限定されている。更に農林水産省は今回の事例をふまえ、法令に基づく管理の徹底と試験研究で農薬を使用した場合の収穫物および農薬などについては、適切に保管・処理することを徹底するようにアナウンスしている。適切に保管・処理することというのがなかなか難しいところだが、「自主的に管理を行い社会から誤解されないような運用をしてください」ということだろうか。

 それにしてもまだまだ事故米の実態調査は続いている。島田化学工業関連のでんぷんを使用した学校給食などでの卵焼きやオムレツなどが広く調査され報告されている。カビや汚染が主の事故米236tを工業用糊原料としてでんぷん製造業を生業とする島田化学工業に販売すること自身がやはり事件を生む無理な仕組みと思われるが、工業用のりとしては1.3%位しか使用せず、ほとんどを生業としているでんぷん原料などに使用したというのも、ご立派と言うか唖然とする。ペナルティーは当然であろう。

 先ほどの東大の禁止農薬騒動と同じだが、アラ捜し的にここまで配っていて子供たちに食べさせてしまったというよりも、食材への使用量からいっても問題のない健康影響的な視点ではなく、今後の危機管理のための原料段階での汚染に対するリスク対応、今後防止するための貴重なトレースバックデータの収集であると言う冷静な目で調査結果を見ていかないとだめだろう。ごく微量でも入っていたら事故米で汚染したと言うセンセーショナルな感覚では今回の事件が一過性で終わってしまう感じがしてならない。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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