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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

食の不安が漠然と渦巻く日本のスタート

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2009年1月8日

 今年も1年が始まった。昨年の1月は中国製冷凍ギョーザ事件というかつて想像もしなかった事件が発生し、その後のいろいろな食中毒様事件や産地など表示を偽る事件が頻発した。うんざりするほどの数であり、偽装表示については今年も発生するだろう。「残留分析」というタイトルを掲げたこのコーナーで今年心掛けるべきことは、食の安全・安心に関わる問題と産地偽装、事故米などルールに違反した問題を出来るだけ区別してそれぞれの程度に応じて述べるべきだと思っている。残留データの数値だけが一人歩きして消費者の不安を増大する悪弊はやめる方向にしたい。

 まず、食の安全に対する共通認識としたいのは、日本での食による健康影響への状況である。図に日本における食中毒の患者数と死者数の推移(食中毒統計より図化)を示した。患者数はこの50年の間に3万人から4万人の間を推移している。原因菌として従来の腸炎ビブリオやサルモネラに代わってノロウィルスが中心となっている(以前は原因不明として処理)。飲食店、旅館、仕出し屋などの食事が原因の大半であり、大量調理、保管状態の悪さ、作業者の衛生管理の悪さが原因だろう。

 食中毒患者数は、環境の改善が進んではいるが、ほぼ横ばいのこうした状況に対して、死者数は200人を超えていたが、高度成長期を経た経済発展や、国内衛生インフラの整備と相まって見違えるほど減少し、最近ではフグやキノコの素人料理による年間数名の死者を除けば、食中毒で亡くなる人はほとんどいないという世界でも稀有な国となった。

 先進国の米国を見てみると(FoodNet2004 、10カ所の州と地域の集計)、4447万人の母集団でサルモネラ、カンピロバクター、赤痢などで患者数、1万5000人、死者(サルモネラ、リステリア、カンピロバクターなど)84人となっている。全米2億8000万人に換算すると500人以上が亡くなっているということか。

 隣国中国では、母集団がよく分からないが、07年の集計では食中毒による患者数1万3280人、死者は258人とのこと(そんな数ではないだろう)。東南アジアのタイ(タイ保健省集計)では、食中毒患者は14万人くらいで死者は10人弱。しかし、急性下痢症の患者数約120万人、死者は約90人となっている。

 肺炎で約900人、結核で約200人、マラリアで約50人が亡くなる国でもある。食中毒集計は評価の基準も母集団も異なるため、統計データを単純に比較できないが、それにしても日本はすごく衛生的な国であり、そんな国に私たちは今生活しているのである。ただし、統計データに出てこない家庭での食中毒などはもっと多いだろうが。

 余談になるが、食中毒とは医師が診断して保健所に届け出たものが数値として集計される。医師が食中毒と判断しなければ単なる腹痛や胃腸風邪として処理されることになる。厚生労働省が毎年食中毒事例をまとめて、食中毒発生状況を報告している。07年の集計では病因物質としては、事件数では1番がカンピロバクターで416件、次いでノロウィルス344件、サルモネラ属菌126件、植物性自然毒74件となっている。

 面白いのは患者総数以外に患者数1人の事例と2人以上の事例も併記してある点だ。それを見るとカンピロバクターによる食中毒が1人の場合が総数の半分以上を占めており、ほかの細菌による中毒とは異なる挙動を示している。しかもその大部分が広島市に局在している。広島市だけがカンピロバクターの流行地とは思いはしないが・・・・・・。

 広島市保健部の調査データを拝見すると、広島市の食中毒の事件数の85%がカンピロバクターであり、患者の8割が30歳以下の若い患者で、原因食として鶏肉、牛肉を食べており、牛レバーなど生食も多かったと報告している。これらの事実は、カンピロバクターによる食中毒対策として有効な予防対策を立てる情報となっている。このように、集計数字の多い少ないだけで物事を単純に理解してはいけないし、またすることもできない事例として参考になる。

 本題に戻るが、私たちの生活している日本の食の安全の状況はかなり衛生的であることをまず関係者で確認して、それから次の議論に入る必要がある。

 最近、牛海綿状脳症(BSE)発症の地、英国(感染牛の累計は18万4451頭、日本は35頭)で、英国食品基準庁理事会が08年12月BSE検査を義務付けられる牛の最低月齢を、効果的なサーベイランスを維持するという条件で、現在の30カ月から48カ月に引き上げことに合意したと発表し、英国を含む一定のEU加盟国は、09年1月から新たな検査体制に移行することになるとの報道があった。 

 日本では、08年7月に食品安全委員会委員長談話で、委員会の健康影響評価を経た結果大丈夫と判断し、牛海綿状脳症対策特別措置法で規定されていると畜場でのBSE検査対象月齢を21カ月齢以上に変更してから3年になる。しかしまだ全頭検査は続いている。リスクがあるといわれているピッシングは今年度ですべて終了する予定なので、09年は日本だけが作り上げた食品安全委員会が作成した貴重な図を含む科学的データをベースに、今一度BSE問題を落ち着いて協議すべきだろう。

 08年1月5日の畝山智香子さんの食品安全情報ブログに英国保健省からのメッセージ「Change4Life−よく食べ良く動き長生きしよう」の内容が紹介してある。そこで英国の子どもたちの10人中9人(!)が体内に脂肪が多過ぎる、子どもの肥満予防のためには親だけではなく社会全体が対応すべきだと主張している。そのための対策として(1)子どもが摂る砂糖の量を減らす(2)3度の食事時間をきちんと取る(3)不健康なスナック菓子を減らす(4)脂肪を減らす(5)野菜や果物を1日5単位取る(6)毎日60分運動(7)子どもの大きさに合った量の食事(8)ソファから起き上がる——の8項目を挙げている。子供をだしに、大人に言っているような気もするが、大人はもう遅いということかな。

 以上、ウダウダと新年早々書いてきたが、要はこういった大きなテーマに対して社会全体がきちんと取り組まないと、所詮私の担当する「農薬残留分析」などは、いつまでたっても重箱の隅の米粒の数の3粒と4粒の違いを数えることにもならないくらいの問題なのだ。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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