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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

問題の起きないボーダレス農法はないものか?

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2009年1月22日

 1月10日の日本農業新聞に「ニームオイル無登録農薬検出—中国製剤、佐賀のメーカーが販売」との記事があった。減農薬農法や有機栽培農法で使用されるニームオイルから無登録で毒性の高い殺虫剤アバメクチンが0.2%弱含まれていることが東京農大・本山直樹客員教授らの調査で明らかになった。ほかにも登録のない殺虫剤の効力を高めるピペロニルブトキキシドが0.8%位含まれていた。ニームオイル自体はインドで古くから薬として使用されてきた植物抽出物で、有機農業や家庭園芸で使用されている。昆虫に成長阻害作用などを持つアザジラクチンという成分を含み、これらは「人の健康を損なう恐れのない物質」として、食品衛生法第11条3項のポジティブリスト対象から除外されている物質でもある。しかし、こういったものからアバメクチンのような国内登録のない殺虫剤が検出されるのは明らかに農薬としての効果を狙ったものであり、販売するのは詐欺行為に等しいと本山先生は使用注意を呼びかけている。

 実は、07年11月にも植物保護液と売られていたアグリクール(商品名)からアバメクチンが0.2%検出され問題となり、返品・回収されている。この事例も主原料のマメ科の植物(中国製)本来植物が持っている抵抗力を引き出し、強く元気にするという宣伝で売られている農薬代替品の実態を調べた本山先生たちの調査の結果である。

 ニームオイルとアグリクールは別の商品なのだが、ほぼ同等の濃度のアバメクチンが検出されているのが面白い。そのあたりの濃度が、あたかも天然物のような(?)微妙な殺虫効果を示して良かったのだろうか。

 リスクの高さから言えばぜんぜん異なるが、まるで中国製の漢方薬もどきを標榜した健康食品のようだ。ダイエット効果の場合は医薬品の甲状腺末、フェンフルアミン、それが駄目ならニトロソ化したニトロソフェンフルアミン(ここまで来ると見つからなければなんでもやるという感じ)が入っていたり、強壮剤の場合はシルデナフィル(いわゆるバイアグラの成分)が入っている事例がよく報道されるが、それとよく似ている。作る側も作る側で厳しく取り締まる必要はあるが、だまされる側ももう少し賢くならなければならない。うまい話というものはそんなにあるわけではなく、市場があれば悪いことをする人は必ず出てくるのが世の常である。

 今回問題となった殺虫剤アバメクチンは、放線菌の一種が作る殺虫殺ダニ効果を持つ天然物(16員環マクロライド、主成分はアベルメクチンB1a)で海外では南ア共和国、米国、カナダ、欧州など多くの国で農薬として登録されている。しかし、急性毒性値(LD50、経口)をみると、ラットや犬で10mg/kg体重とかなり毒性は強い(良く効くということか?)。ADIは0.002mg/kg体重/日である。アバメクチンの構造の一部OH基がNHCH3に変換されたものがエマメクチンとして国内で農薬として使用されている。

 アバメクチンは国内登録はないが、海外での使用も多いため、国際基準を参考に残留基準が設定されている。しかし、ネギ0.01ppm、ピーマン0.02ppmなどほとんど一律基準と変わらない厳しい基準である。日本では農薬登録申請中ということであり、登録されれば農薬として適切に使用されている限り問題はないだろう。しかし、化学合成農薬も最初は天然物を基本構造として改良されてきたものも多い。アバメクチンの毒性はLD50 10mg/kg体重とギョーザ事件で問題となったメタミドホス(作用機序異なるが)よりも強い物質を自然界はよく作るものだなあと感心する。後は使いようである。

 今回、土壌活性剤という名目で販売されていたニームオイルだが、いろんな情報を見ているとなかなか興味深い物質である。ニームオイルは海外でも天然原料の薬剤として農薬登録され有機農法などで使用されているという。主成分のアザジラクチンは複雑な構造を持つリモノイド化合物の1つで、多数の病害虫に対して摂食阻害や羽化の抑制による昆虫の成長を抑制したりする。その構造ゆえ、合成屋さんには興味ある化合物であるが、古くから知られた化合物の割には、07年にイギリスの研究者によりやっと全合成がなされている。

 天然成分であるニーム製剤はいろいろ販売されているが、中には「アザディラクチン10000ppm(1%)配合バラ専用ニーム」などという宣伝のものもある。有効成分や濃度まで数字で表した商品が出てくると本当にこれは農薬ではないのかなあと思ってしまう。アザディラクチンの農薬としての効果(成長阻害効果)は緩やかである。しかし、既に農薬として登録されているジフルベンズロン、メトプレンなどは明らかにアザディラクチンに比較して低濃度で高い羽化抑制効果(殺虫効果)が見られるので、それを使えばよいのでは、という話になる。ニーム製剤は農薬の効果としては明らかに劣るが、有機栽培用の害虫防除薬としては認定され、環境や人畜に対する安全性は高いという。こだわりか実利かどちらを選択するか評価の分かれるところだろう。

 今回の問題で、農業生産や家庭園芸の現場ではいろいろな農法が用いられて、それぞれの方が思いをこめて野菜や果物を作っているのだと強く感じた。人と環境に優しい農業を目指して有機農法や無農薬にこだわる人、少しでも農薬を減らした農業をする人、適切に作物を育てるために上手に農薬を使う人、何も気にせず普通に栽培する人、商品としての外見を良く見せるためにこまめに農薬を使わざるを得ない人、いい加減に農薬を使う人などいろいろな場面があるだろう。

 最後の方は論外だが、農薬という農業資材の目的を明確に適材適所で使用することを基本にして、変な枠組み、縛りをやめて、もう一度ボーダレスな農法を考えてもいい時代ではないだろうか。名前先行の変な縛りが世のため人のためにまったくなっていない事例が最近は多すぎる感じがする。必要だから適切に使ったということがきちんと情報として伝わることと、変なこだわりを持たないでおいしくて栄養価がある農産物をみんなでどう作っていくかを、同じテーブルの上でわいわい話し合えるようにはならないものかと思ってしまう。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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