ホーム >  FoodScience過去記事 > 斎藤くんの残留農薬分析 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

食品安全委員会が「自ら評価」について意見募集!

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2009年2月5日

 食品安全委員会事務局勧告広報課が、自らが健康影響評価を行う案件に関する審議結果についての意見・情報を2月13日まで募集している。自分自身の評価ではなく、自分たちで案件を決めて評価するということだが、 案件候補は、オクラトキシン 、デオキシニバレノールおよびニバレノール、食品中のヒ素(有機ヒ素、無機ヒ素)とある。懐かしい、気になる案件なので少し触れてみたい。

 通常、食品安全委員会はリスクアセスメントの業務を行う委員会なので、リスクマネジメントの実務を行っている農水省や厚労省からの健康影響評価依頼案件が多い。しかし、中国冷凍ギョーザ事件や事故米事件が発生すると、いろいろな質問や意見具申が求められる。しかも消費者にとって分かりやすく、お役所らしくなく。まるで、消費者庁の先取りのようなものともいえる。

 特に、事故米では農水省そのものの責任もあり、余計に食品安全委員会の健康影響評価や安全性評価の情報発信が求められた。以前はというか、要請された項目の健康影響評価は粛々とやらざるを得ないし、表現もいわゆる「お役所的」になるが、事件性のある事柄によってはそれでは消費者・国民を納得させられないということは委員会自らが感じておられるだろう。

 そういう面では、「自ら食品健康影響評価を行う案件」という、「自ら」を付けた内容は面白いし、食品安全委員会の機能アップになるだろう。意見募集のポイントも、(1)3つの案件候補について、「自ら評価」として実施する必要性 (2)「自ら評価」として実施する際、手法や考慮すべき点などについての意見や情報に絞っている。

 案件の候補としては、ほかにカビ毒のゼアラレノン、フモニシン、サプリメントの複合影響なども拳がっていた。デオキシニバレノールの兄弟分であるニバレノール(側鎖の水素が1つ水酸基になったもの)はフザリウム属(赤カビ)のカビが産生するカビ毒であり、日本ではムギ、オオムギなどで共汚染している場合もあり、一括評価となっている。サプリメントの複数種類摂取による健康影響は魅力的なテーマではあるが、そもそも論として「サプリメント」の定義がされていないことや、あまりにも組み合わせが多過ぎて漠然とし過ぎている、具体的な健康影響の知見が認められない、すでに健康影響がある健康食品まがいのものには注意喚起や対応をしているなどの理由で今回は採用されなかった。

 カビ毒の研究は、残留農薬ほど世間の脚光を浴びないが、戦後の黄変米事件以来研究・調査は日本でもよく行われている部門であり、学会・研究会も地道に継続的になされている。そのため、結構研究者たちの交わりは強いが、アフラトキシンという毒性的には超大物がいたせいもあり、ほかの化合物がかすんでしまう面も否めない。

 昔は、「アフラ(アフラトキシンのこと)をとったら何が残るのか」、「アフラで食べさせてもらっているのだから、その間に次の研究課題(飯の種)を」と会話していた時代もある。71年にピーナッツバターからアフラトキシンB1が検出されたことにより、検出してはならないという規制がスタートしたが、それ以降02年のデオキシニバレノール、03年のパツリンの(暫定)基準が設定されるまで、規制がかかることはなかった。しかし、01年よりカビ毒汚染の実態調査などが地方衛生研究所を中心に行われ、汚染実態を反映した評価がなされ成果を挙げた。こういった地道な研究・調査のおかげで、海外での規制の状況等もあり2種類のカビ毒の規制がやっと追加されたのだ。

 今回案件からは落ちたがデオキシニバレノールと同じフザリウム属のカビ毒フモニシンは、20年位前になるが米国FDA・CFSAN(食品安全・応用栄養センター:直訳過ぎてあまり良い訳ではない)を訪問した際、トウモロコシ中のフモニシンの分析研究をする部門があり、薄層クロマトグラフィーによる分析を経験した記憶がある。トウモロコシは主力農産物であり、米国はカビ毒等汚染物質にはとても熱心であった。

 もう1つの案件、食品中のヒ素に関する食品健康影響評価であるが、戦後日本でも粉ミルクに純度の悪い添加物の不純物として混入した亜ヒ酸(今では考えられないが)で多くの赤ちゃんが亡くなったり、世界各地で飲用水の汚染などによる健康被害が発生している金属である。昔から毒薬としても使用され、和歌山カレー事件のような信じられない事件も発生している。日本でも古くから鉱山などでの健康障害は多く、労働衛生関係の学会で27年国の社会局技師、鯉沼茆吾氏(後の名大医衛生学初代教授)がヒ素工業における中毒を報告している。最近では茨城県で井戸水から有機ヒ素による中毒も発生した。

 日本では食品中のヒ素で最近問題になったことはあまりなかったが、04年の英国食品基準庁(FSA)の「ヒジキは発ガンリスクがある無機ヒ素を多量に含むので食べないように」という勧告を出したのが発端だろう。(松永和紀のアグリ話●英国発ヒジキの発がんリスク、どこまでホント?、松永和紀のアグリ話●ヒジキその後–日本の調理法がヒ素除去にやはり有効を参照)

 ヒ素は「ヒ素」という1固有名詞でくくれないほど化学形態により毒性に差がある。一番毒性が強い亜ヒ酸LD50(マウス経口)34.5mg/kg体重から有機ヒ素のジメチルアルシン酸52倍分の1、アルセノベタイン300倍分の1と、良く化学形を見ないと評価できない化合物でもある。通常の食品では、海藻類とそれを食べる魚を除けば問題がある食品はない。ヒ素をたっぷり含んだ土壌で栽培されたものは別だが。さらに毒性の強い無機ヒ素に限ると、海藻の中でもヒジキ(亜ヒ酸ではなく、毒性が少し弱いヒ酸が問題)だけが突出して問題となるというか、ほかは対象にする必要がないくらいである。ヒジキに関しても、松永さんも書いているが、英国と違い日本でのヒジキの食べ方(水戻し、ゆでる)が毒性のある無機ヒ素を選択的に除いてくれるということが分析法の進歩(化学形態による分別定量法)もあり、明らかになってきている。(参考資料または 長岡等、食品衛生学雑誌49巻88p、2008)

 このように毒性のあるものと身近な調理法との間の絶妙なコンビネーションを見ると、化学って面白いなあと思う。こういうことこそ今回の自らの案件検討で論議していただき、難しそうな計数的評価だけではなく、生活者の身近な話題につながるような情報発信をしていただけたらと期待している。皆さんも是非こんなことを議論してほしい等要望を食品安全委員会に発信してほしい。

 PS:食の不安が払拭されない中、いろいろなシンポジウムが開催されますが、実態を踏まえて落ち着いて今後を議論する場として、来週ですが次のシンポジウムが開催され、多方面の方が講演されます。時間のある方はぜひご参加ください。

「安全な食生活のために—自給力、農薬、遺伝子組み換え食品を考える」
主催:日本農薬学会・農薬レギュラとリーサイエンス研究会(2008年度)
場所:立川市女性総合センターホール(東京都立川市)
参加費:3000円(資料代含む)
日本農薬学会ホームページを参照ください。
(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

⇒ 斎藤くんの残留農薬分析記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】