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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

「鶏肉2割にサルモネラ菌。国産汚染欧州の倍」この新聞報道何か足りない?

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2009年2月19日

 米国でピーナッツバターのサルモネラ属菌の汚染が話題になり、国内にも一部輸入され問題となっている。そんな中、2月3日朝日新聞1面に上記タイトルの記事が掲載された。天使大学大学院の平井克哉教授が、2007年〜08年に各地の衛生研究所の協力で全国規模で調べた初の調査であるという。同じ内容の記事が週刊ポスト(2/20号)にもトピックとして掲載されていた。いわゆる「こんなに汚染されているよ」という感じで。しかし、食品の食中毒菌汚染実態調査では、従来から鶏肉がサルモネラ属菌に汚染されていることは良く知られており、2割ならむしろ少ない感じだ。何を急にという感じが否めないというか、何かが足りない。それは報道の正確さだ。

 08年4月9日、厚生労働省の「平成19年度食品の食中毒菌汚染実態調査結果」(16自治体で実施)が発表されているので、ぜひ見てほしい。毎年、モヤシ、カイワレ、カット野菜などの野菜、ミンチ肉やカットステーキなど食肉、魚介(生食用かき)、加工品(漬物)総計約2000件の検査結果が報告されている。05年〜07年の経年変化も載せてある。食品を扱う仕事にかかわるものとしては助かる情報である。

 この中で、鶏肉のミンチ肉は毎年100件程度検査されており、ほかの食材と比べて際立ってサルモネラ属菌の汚染が高い。ここ3年の結果では35〜38%である。E.coli(食品衛生法で言う大腸菌)も05、06年は80%近くと高い。カンピロバクターも17%ほどの汚染である。

 食品全体で見るとサルモネラ属菌による食中毒は1990年代以降増加し、その原因菌は主として欧州から伝播したサルモネラ・エンテリティデス(SE)である。しかし、鶏肉から検出されるサルモネラ属菌はSEではなく主にサルモネラ・インファンティス(SI)であり、その検出率はここ3年間くらい同じレベルである。

 兵庫県や福井県の衛生研究所の調査によると、食品から検出されるサルモネラ属菌の多くが抗生剤ストレプトマイシン、テトラサイクリンなどの多剤耐性を獲得していると報告されており、サルモネラ感染症を拡大させる新たな要因とも考えられている。

 以上が今まで分かっている科学的な情報であり、広く消費者にも理解ほしい情報である。この結果に対して疑問なり新しい知見が得られたなら、それは報道としての価値が出てくる。

 今回の報道は、この結果を2月末の日本食品微生物学会セミナーで発表する前だったので、詳細が不明であるが、記事の内容だけで検証すると、以下の問題がある。
(1)2割検出されたサルモネラ属菌は、通常検出されるSIなのか、食中毒の主たるSEなのか。
(2)国内データがあるのに、どうして汚染率を英国など欧州のデータ(4〜9%)と比較する必要があるのか。
(3)今までも国で調査しているのに、初めての全国規模の調査というのはどういう意味か?
(4)食中毒患者から採れたサルモネラ属菌の一部は、鶏肉から分離された菌の遺伝子が酷似しており、鶏肉が原因の可能性がある、とあるがそれはSEかSIか。
(5)記事外の補足でサルモネラ菌の説明があるが、まるで今回見つかった2割が最近の食中毒の原因菌のようなイメージを与えている。
(6)「家庭や飲食店では、鶏肉も十分に加熱して、調理前には冷蔵庫で保存してほしい。」と、生肉の細菌汚染への適切な対応を述べているようだが、それまでの報道内容が説明不十分で、あたら不安を増長するような文面となっている。
要するに肝心の説明のための数値、菌の種類が抜けているのである。

 今回の新聞報道に関しては、先に説明した国の毎年の調査発表の内容の方が数段上である。一部の食材を取り上げるのではなく、いろいろな食品群の中で細菌汚染の実態を経年的に公表し、全体像を消費者が把握できる材料になっている。大腸菌E.coliは野菜ではミツバ、モヤシから3割位検出されるが、腸管出血性大腸菌O-157 は検出されない(牛レバーや豚ミンチから1例ずつ検出)。食肉のミンチ肉などからは大腸菌E.coliが5割から8割くらい検出されるので、十分加熱調理する必要があることが理解できる。カンピロバクターは鶏肉ミンチ、牛レバーから検出されるが、他からは出ていないことが分かるのでこの食材がカンピロバクターの食中毒原因物質として挙がる理由として納得できる。

 細菌汚染はなかなか0には出来ないものであり、うまく共生していく必要がある。そういった面では、経年変化の数字の推移がとても大切である。横ばいならば注意しつつ今やっていることを少しずつ強化すればよい。増加していくならば、皆でより強力な手立てを考える必要がある。このように経年変化の数字の推移に見合った力の入れ方、ポイントが分かってくる。それが検査をする目的であり、検査結果の有効利用である。

 こういったことこそ、新聞の1面で丁寧に伝えてほしい情報であり、消費者に本当に知ってもらいたい事柄である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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