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斎藤くんの残留農薬分析

輸入加工食品の緊急検査を再考の時期

斎藤 勲

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 昨年のギョーザ事件を受けて急きょ、加工食品中の有機リン系農薬に関係する簡易迅速試験法(以下、迅速分析法)が設定され、現在57項目の有機リン系農薬の検査が行われている。通常の食品を検査する場合は、0.01ppmを定量限界として検査を実施しているが、この迅速分析法では精製などを省略するため、定量限界を0.2ppmとしている。2008年12月8日に厚生労働省が発表した中間報告では、1173件検査をして違反はゼロであった。同様に食の安全にかかわる情報発信を積極的に行っている群馬県でも、08年下半期で50件の農薬検査で、すべて不検出だ。この結果を見ると、検査のあり方を再考する時期に来ているのではないだろうか。

 厚労省が発表した中間報告によれば、検疫所が08年4月〜9月の間に輸入加工食品を検査したところ、畜産加工品(とんかつ、ソーセージなど)291件、水産加工食品(エビピラフ、鰻蒲焼きなど)375件、農産加工食品(パン、フライドポテト)274件、そのほかの食品(ギョーザ、たこ焼き、飲料など)233件、合計1173件のうち、有機リン系農薬などの検査で違反に該当した件数はゼロであった。

 同様に、食の安全にかかわる情報発信を積極的に行っている群馬県でも、08年下半期で50件の農薬検査(定量限界0.2ppm)をして、違反はすべて不検出となっている。 群馬県の場合は、輸入加工食品農薬残留実態調査に、野菜などを主原料とした冷凍食品24件、惣菜・惣菜半製品5件、漬物14件、野菜水煮5件、そのほかこんにゃく、あんこを対象とした。そして、検査対象項目には国が示した有機リン系農薬試験法を使って、分析可能な農薬、中国国内で使用されている農薬、07年度生鮮農産物について検疫所から違反の報告のあった農薬などをから108農薬を選んだ(定量限界0.2ppm)。
 検査食品を見ると、チジミ、春巻き、たこ焼き、シュウマイ、キムチ、肉まん、ギョーザ、煮豆、福神漬け、しば漬け、たけのこ水煮、つぶあん、ぜんまい水煮、ロールキャベツなどなど、身近な食品が結構輸入されているのだということを実感させてくれる。

 このように、検疫所の結果も違反なし、群馬県の結果もすべて不検出。定量限界が0.2ppmなので、それよりも低い濃度で残留しても不検出となる。同じ群馬県のホームページに県内生産農産品の残留農薬検査結果があるが、イチゴのエンドスルファン0.12ppmが最大で、多くが0.05ppm以下で残留している。 
 日本生活共同組合連合会(日生協)では、昨年のギョーザ事件以降、第3者検証委員会を作り、その原因を追求してきた。ホームページには、中間報告第2版が掲載されており、事件の概要を知るには貴重な資料だ。

 その中に、「図1 製造年月日別の農薬の検査結果と濃度の分布」という図がある。不検出から0.1ppmまでを意図的ではなく原料由来が考えられる濃度として区別しているが、07年6月3日製造のギョーザからジクロルボスが、10月20日製造からメタミドホスが高濃度で検出されている。約1年間の製造で2例だけが、加工食品の検査法で検出されたこととなる。0.1ppm以下だが7月22日、9月18日製造日にもメタミドホスの検出があることも示されている。

 検出限界を0.2ppmとして、高濃度に残留する農薬検査というのは、緊急時の対応には良いが、後々役に立つような情報を得ようとすれば、定量限界0.01ppmの通常のモニタリングの中で、できる範囲での検査をすることが良いのではないだろうか。

 ここで、そもそも食品中残留農薬検査をなぜ行うのか、再考してみよう。
 まず、検査は野菜等作物を育てる過程で病害虫防除の目的で使用される農薬が、残留基準(基準のない場合に適用される一律基準を含む)を超えて残留していないかどうかをチェックするためにある。使用が許可された農薬を適切の濃度で適切な量を散布し、決められた日時を経て収穫された作物ならばその基準値を超えることはまずない。そういった面では、最終出口で検査サンプルを集めて検査を行い、その結果が満足のいくものであれば、入り口の生産現場の適正管理が保障されることになる。

 そういった原材料を混合して作られている加工食品ならば、当然、残留濃度はさらに低いものと考え、通常は検査対象としてリスクの低い商品と位置付けてきた。このため、加工程度が低い食品(植物油、小麦粉、乾燥果実・野菜など)以外には取り立てて基準が設定されてこなかった。だが、02年の中国産冷凍ホウレンソウ事件以来、ブランチングなど簡易な調理をしたものにも元の材料の基準が水分含量を考慮して適用するようになり、ポジティブリスト制度施行以後は、加工食品の原材料は基準(一律基準を含む)に適合したものであることとして運用されている。

 現在、迅速分析法は簡易な精製操作も加え、有機リン系農薬だけでなく、カーバメート系農薬、毒性の強い農薬、検出頻度の高い農薬、急性参照値ARfDが設定されている農薬のなども対象となるように改良中だ。小さなARfDをもつ農薬の摂取も考慮して定量限界を0.1ppmにする方向で検討されている。
 並行して、輸入が多い加工食品も、国の通知一斉試験法の脱脂操作を含む試験法を用いて、どこまで種々の農薬の検査が可能かといった検討も進んでいる。この場合、定量限界は0.01ppmを基本としており、加工食品という、いろんな原材料が混じっている物の多いサンプルで、どのような検討結果が出るかが注目だ。 ギョーザ事件は今もなお、色々な場面に影響を及ぼしている。検査の現場では、取引先から「とりあえずメタミドホスとジクロルボスを迅速法での検査結果を」というような、正直なところあまり意味のない要請もあるという。

 今でも検疫所や群馬県などでは、不検出を承知で行う、検査のための検査にならざるを得ない、加工食品の残留農薬検査を実施しているのかもしれない。 まずは、今ある検査結果を皆が持ち寄り、現状はどうなのかを話し合って、今後どのような検査が必要かを検討する場を、リスクコミュニケーションの1つとして、厚労省などが予算をつけて開催した方が、よほど有効なお金の使い方になるような気がするのだが。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)