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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

失効農薬だったナフタレン酢酸ナトリウムが再び復活

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2009年6月18日

 植物成長調整剤ナフタレン酢酸ナトリウムが、2006年に登録申請され、6月4日農薬登録された。名前を聞いて覚えている方も多いと思うが、02年日本の農薬取締りの仕組みを大きく揺るがしたいわゆる「無登録農薬事件」の際に、マイナーではあったが渦中にあった薬剤の1つである。20年以上前に登録が失効した農薬だったが、輸入品が通称「ナフサク」として、メロンの網目を立派にする薬剤として使用されていた。

 2002年という年は中国産冷凍ホウレンソウから有機リン剤クロルピリホスなどが基準(0.01ppm)以上に検出され、中国との貿易問題にまで発展した事件もあった。当時は簡易な加工食材である冷凍食品には農産物の基準を適用していなかったが、民間の検査機関の火付け役もあって話題となり、この事件を契機に基準が準用され大きな事件となった。さらにそれに加えて無登録農薬事件もあったため、農薬関係者には厄年であった。

 そうしたおかげで農薬取締法は厳しくなり、従来の業者は登録のない農薬を製造・輸入・販売してはいけなくなり、個人を含めて無登録農薬の使用が禁止、罰則が強化された。従来は5万円以下の罰金、1年以下の懲役であったのが、100万円以下の罰金、3年以下の懲役、法人は1億円以下の罰金と誰もやりたがらないレベルにまで罰則が厳しくなったことで、大きな改善につながった。

 無登録農薬事件は主に殺菌剤ダイホルタン(カプタホール:登録1964〜89年)と殺虫・殺ダニ剤プリクトラン(シヘキサチン:登録1972〜87年)をリンゴやナシ、イチゴに使用したことであった。ダイホルタンは発がん性、プリクトランは催奇形性の問題で食品衛生法では不検出農薬となっている。無登録農薬で10種類の農薬が問題とされたが、すべて無登録輸入品の使用で、名前以外は成分、使用方法など何も書いてない商品であった。

 これらの農薬を5000戸近くの農家が購入し、廃棄・出荷停止となった果物、野菜は7000トンを超えた。中には、ナシの生産グループの一人が使用し、共選であったためグループ全部のナシを廃棄する生産地もあった。使用した本人がその責任や仲間への補償などで悩んで自殺するという悲劇も生んだ事件でもあった。

 ナフタレン酢酸ナトリウムは、商品名「ナフサク」または「ヒオモン」として販売されていた。今回再登録されたのは「ヒオモン(アグロカネショウ)」の商品である。当時の主な適用は、リンゴ(落下防止)、ナシ(落下防止)、ミカン(間引き摘果)、茶・クワ・バラなどの挿し木の活着促進であり、メロンの網目を良くするなどという効能は書いてない。網目はメロンのひび割れだから、「ナフサク」がついた軍手でごしごしこすって傷をつけるとそれが良い網目に成長する場合があることを、知恵のある農家が偶然かどうかわからないが発見したのかもしれない。今回の再登録では、ミカンの間引き摘果、リンゴ・ナシの落下防止、メロンのネット形成促進が適用となっている。メロン産地では「以前の悪いイメージを持つ農家もあり慎重」という記事が、4日の日本農業新聞に掲載されていた。

 ナフタレン酢酸ナトリウムは年間30t近く出荷されたこともあった。多くの失効農薬は、再登録で追加データが必要となった際に、売った利益と追加データ作成にかかる費用などを考慮すると、登録を止めたほうが良いという判断で再申請されなかったのだろう。毒性問題で引っ掛かる農薬は失効して当然だが、失効農薬の中には経済的理由のものが多く、今回のような例は、リクエストが多ければ復活する農薬もある事例として注目される。

 失効農薬という言葉はあまり印象が良くないが、農林水産省のホームページに「無登録農薬と失効農薬の関係」という説明文がある。無登録農薬とは、日本で登録されたことのない農薬で、登録番号など決められた表示がない農薬は使用が禁止されている。そういう面では、02年の無登録農薬事件ではアバメクチンを除いてほかの農薬は国内で一度は登録されていたが、農産物から検出されてはいけないものや、何が入っているか分からない輸入品を用いたことが問題とされた。

 一方、失効農薬は何らかの理由で登録が失効した農薬であり、登録された約4分の3の農薬が販売減少、新規農薬開発、企業合併での整理、追加試験の費用負担などの理由で失効している。説明文には、安全性に問題があるものは別として、登録が失効したとしても危険なものに変わるわけではないので使用禁止になるわけではない。

 しかし、いつまでも古くなった農薬が使用されるのは好ましくなく、「有効期限(おおむね3年)を超えた農薬の使用は行わないよう努めるとこととなりました」と記されている。極端な言い方をすれば、20年前の農薬でも大事に納屋に保管しておいて少しずつ使用したとしても、食品衛生法の基準を超過しなければ、農薬取締法上、指導はされるかもしれないが、罰せられることはないと解釈できる。

 賞味期限違反で多くの食品が捨てられるご時世に、期限問題に対して行き過ぎな面があるとは思うが、農薬問題も時と場合により努力義務は守られてこそ相互信頼は保たれるのではないだろうか。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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