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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

食品安全委員会・吉川氏不同意について、新聞はもっと議論を

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2009年7月2日

 7月1日、食品安全委員会で国会の同意が得られた小泉直子さんが新委員長として選出された。食品安全委員会はこれで6周年を迎えたことになるが、傍聴した編集部によれば、出席者の誰もが険しい表情を崩さず、重い空気が流れていたという。委員達は、吉川泰弘・東京大学教授を同じ食品安全委員会の委員として迎えられなかったことと、さらにそれが一部の誤った認識によるものだったことへの悔しさを口にし、今後はよりコミュニケーションを図ることを課題として挙げたそうだ。

 FoodScienceで6月15日掲載の小島正美の記者の眼「政治の前に沈黙する科学」をはじめ、同じくFoodScienceで「23日掲載の傍聴友の会「食安委委員長、次期食安委人事の国会不同意に『断腸の思い』」や、松永和紀さんのブログなど、いろいろな方が食品安全委員会委員への起用が否決されたことについて述べている。

 したがって、担当外の私が書くことではないかもしれないが、この件に対する見上彪・前委員長の「断腸の思い」発言や、この委員への不同意人事を受けて吉川教授がプリオン専門調査会座長も辞任されるとの報道がなされていることを考えると、食の安全問題のリスク評価とリスク管理の問題整理を含め、今一度マスコミの中心である新聞がきちんと取り上げて論議すべきテーマではないだろうか。

 今回の衆院、参院での国会同意が必要な食品安全委員会委員人事案の中で、6人の委員は同意、吉川教授は参院では野党多数の反対で否決不同意となった。衆参両院の同意が必要なため、吉川教授の就任は否決され、後任が決まるまで見上前委員長が引き続き委員として職務を行うこととなった。

 吉川教授が否決された理由とは、2005年同委員会のプリオン専門調査会座長としてBSE問題を扱った際に、米国・カナダ産牛肉の輸入再開を条件付きで容認したが、食品などの安全性の科学的評価をする食品安全委員会の委員としてリスク評価の姿勢が問題とされたのだ。

 読売新聞は国会同意人事の在り方そのもの(職務継続規定の不備)を問題とする立場でもあることから、吉川教授の食品安全委員会委員人事案否決をやや大きく報道していたが、ほかの新聞報道は割と淡々とした事実報道が多く、社説などで論じたところはないと思う。あまりにも素っ気ない。

 しかし、毎週食品安全委員会が発信している「食品安全委員会メールマガジン」の第148号では、見上前委員長が委員会第289回で吉川教授の不同意人事に対して、「委員会自体が否定されたことを意味し断腸の思いです」とコメントしており、委員長としてこの怒りをどう表現すればいいのかという思いが言葉から伝わってくる。松永さんは6月21日付けのブログで 、不同意する理由の根拠の1つに中西準子さんの論文を曲解(専門調査会のリスク評価の在り方を問題としているのであって、輸入牛肉のリスクが高いのに間違った結論を出した)していることなどに触れ、事実関係を深めている。松永さんは最後に、「ただ同時に私は不思議に思う。なぜほかの科学者たちは怒らない?動かない?そうした姿勢のままでは、科学の政治的な利用が加速してしまう。なぜ?」と問いかけている。

 05年12月の食品安全委員会の米国・カナダの輸入牛肉・内臓の国産牛と比較したリスク評価の結論の部分を読んでみると、情報が少ないので科学的評価は困難といわざるをえないが、全頭から危険部位の除去、20カ月齢以下の牛などという約束が順守され、リスク管理機関がその前提が守れる仕組みを作れば国内とのリスクの差は非常に小さいと考えると判断した。分かりにくいが厚生労働省・農林水産省がきちんとやれば大丈夫ということなのか。

 この点は、中西準子さんのブログにある雑感323-2005.11.8「米国輸入牛肉のリスク:プリオン専門調査会は解散した方がいい」の中で述べているようにリスク評価は結論を示したほうが消費者は分かりやすい。

 長いがその一部を抜粋して紹介すると、「では、リスクはどのくらいか? それを簡単に実感できる事実がある。30カ月齢以下については、日本への輸入肉のような危険部位除去を行わず、また20カ月齢以下という条件のない牛肉を食べている米国の状況を見ることである。米国からの輸入牛肉で、日本に100年に1人の変異型クロイツフェルトヤコブ病の患者が出るリスクがあったとしよう。とすれば、牛肉の消費が日本よりはるかに多い米国では小さく見ても、2000年代初頭から始まる100年間に1000人強の患者が出るはずである。もちろん、こんなこと起きてはいない。申し訳ないような気もするが、米国人が食べていることは、1000倍以上の検出力で試験してもらっているようなものなのである」

 国際的にはBSEのリスク評価は国際獣疫事務局(OIE)が認定するBSEステータスがある。農水省は昨年12月に申請に必要な資料(課題となっていたピッシング<ワイヤーを挿入し、脳・脊髄を破壊する解体前の食肉処理工程>も本年3月ですべて中止も含む)を作成し申請、本年5月に日本も「管理されたリスク」の国として認定された。これで海外への輸出拡大も可能となる。ちなみに「無視できるリスク」の国には、豪州、ニュージーランド、アルゼンチン、スウェーデン、チリなど、「管理されたリスク」の国としては、米国、カナダ、ブラジル、スペイン、英国、メキシコ、日本、コロンビアなどだ。

 改めて聞くと驚かれるかもしれないが、やっと日本が認定してもらった「管理されたリスク」の国には、BSE本家本元の英国はすでに入っており、輸入牛肉で問題となった米国、カナダは以前からの認定である。評価の詳細については異論のある方もあろうが、残念ながらこういったものが世界標準としたてあるならば、それをうまく利用していくしかない。

 科学的な評価を基に、消費者が安心して牛肉を食べていける環境を作っていくことは重要だ。そのためにも、新聞は今回の不同意人事の評価について、世界的な背景も踏まえて、もう一度紙上で多くの人を巻き込んだ議論をしていただきたい。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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