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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

基準超過で0.02ppmと1.0ppmを見たらどちらに不安を覚えますか?

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2009年10月1日

 当たり前の話だが、「ある農産物の残留農薬検査を行った結果、違反はなくすべて適合でした」といった新聞報道は少ない。適合データはむしろ報道価値があまりないのである。1件でも基準違反が見つかったデータのほうが、決めた基準を守っているという意味では価値があるのだろう。それでも、ある農薬が基準を違反したという報道はあっても、どれくらい残留していたかを書いてない場合が多い。基準の何倍だけでなく数値があればもっと実態をつかむことができるはずなのに。

 例えば、0.02ppmという数字と1.0ppmという二つの数字があったとき、何を感じるだろうか。単純に言えば、50倍もの差がある。そしてそれだけ違うと、1.0ppmは何かしら悪いことが起きるのではないかという不安がよぎる。だが、この数字に意味をつけて見てみよう。例えば、「0.02ppmは一律基準0.01ppmの2倍超過した数字であり、1.0ppmは基準値10ppmの10分の1の適合データだ」とする。こう説明されると、数字は小さいが急に0.02ppmが悪者のように見えてくる。この場合、当然ながら新聞で報道されるのは0.02ppmであり、悪い印象は余計に強くなる。安全性を基本に組み立てられている残留基準の仕組みは、客観的、科学的でありそれなりの妥当性を持っている。だが、説明いかんによっては、基準超過が本当にどれだけの影響を及ぼすのか誤解が起こりやすいことには留意すべきだろう。

 ここで重要なのは、通常は報道されない適合データの1.0ppmについては、先の事例では基準値10ppmがあるということだ。この場合の基準値が設定されるには、まず種々の安全性試験を経てADIが設定され、その農薬を使う予定の作物について実際に使用し、残留濃度の経時的減少を見る圃場試験が行われる。そして、その値を参考にした残留基準値案は、値にそれぞれの作物の摂取量を掛け合わせた合計量がADIの80%以内であるかを確認した上で採用される。

 農薬を適切に使用した場合でも環境要因によってかなりぶれる可能性があるので、残留基準値は高めに設定してある。だが日常的な検査データを眺めていると、多くの作物の農薬残留データは、毒性データなどで評価した残留基準にかかわらず残留濃度レベルの数値として検出されるのは0.01ppmから0.1ppmの範囲にあるものが多いようだ。0.1ppmから1.0pmの残留濃度も当然あるが少ない。結果として、基準値の高い作物での検出濃度は10分の1どころか、50分の1、100分の1のものも多いが、通常の使用方法に関しては、基準値に対して10分の1程度の残留もしくはそれ以下のものが多いのが実情だろう。

 これに対して一律基準とは何か。使用が認められている作物や海外で残留基準が設定されている作物以外は農薬使用が想定されないので、原則使用禁止の基準の人の健康を損なわない量として一律基準0.01ppmが適用されている。最近になって定着してきた、いわゆるポジティブリスト制度である。厚生労働省ホームページで輸入食品の違反事例の報告を見ると、この一律基準を違反したことで、回収や廃棄、差し戻しになっている商品が結構ある。農薬の名前を見ると、一律基準ゆえに、まあ仕方ないなあと思うものから、かわいそうだなあと思うものまでいろいろだ。先ほど述べた基準値が設定されているような作物ならば、その基準値の範囲内であれば0.02ppmよりはるかに高くても適合とみなされる。実際はそうした作物のほうが圧倒的に多く、報告もされない。

 基準超過の商品が廃棄されてしまうというのは、残留基準の運用面によるところも大きい。先ほどの0.02ppmが基準超過で、1.0ppmを適合とみなした作物を廃棄する場合、同じ農薬だとしても、法令順守という意味では全く問題はない。だが、そうした対応が続くことは本当に基準超過をなくすことにつながるのか、甚だ疑問に感じる。よく言われることだが、他の作物などでは十分に安全性も証明されており問題はないが、使用実態がない作物には一律基準が適用される。ゆえに、一律基準運用で法令順守を追求するほど真綿で首を縛られるように効いてくるのが、食品衛生法11条2項の規格基準のある農薬の運用と同様に、11条3項の一律基準違反の食品は「販売の用に供してはならない」という文章だ。この文言がある限り、欧州などのように急性指針値ARfDを参考に評価運用を決め、基準超過があっても急性毒性が心配される商品以外は即座に回収、廃棄しないという対応はできないのが現状である。

 本来、検出されないはずの農薬が検出されるということは、生産現場、製造現場、流通現場で何かイレギュラーな状態が発生している可能性がある。検査データは、どうしてそんなことが起こったのか調べて改善するための貴重な情報を知らせてくれる。Food Defense(食品防御)のための有益な情報が潜んでいる場合だってある。そんな貴重な情報を、違反廃棄というくくり文句で葬ってしまっては、その原因がほかに伝わらないということでもある。食糧資源の無駄使いをしながら実にもったいない話だと思う。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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