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斎藤くんの残留農薬分析|斎藤 勲

新型インフルワクチンのだぶつきに何をみるか

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2010年2月18日

 新型インフルエンザが11月頃をピークに流行が終息し始めている。季節性インフルも駆逐されたのかまだ姿を見せず、全体としては一時休憩の様子だ。学級閉鎖も1月末で昨年同期の3分の1ぐらい。昨年はあれほど騒いだ新型インフルも、喉元過ぎれば何とかで、今ではほとんど話題にのぼらない。だが、話題にならないだけならまだしも、世界からかき集めたワクチンを活用しきれずに余らせているという事態について問題となっている。先月末から健康な成人を対象にワクチン接種が始められているが、供給量は整ってきているにもかかわらず、世間では新型インフルの不安が遠のいているため、人々が足を運ばない。このだぶつくワクチン問題から、私達は何を教訓として学べばいいのだろう。

 政府が国産ワクチンメーカーの尻を叩き、なんとか新型インフル用に5400万回分を用意。だが、最初に鳥インフルの致死率を基に最悪のパンデミックが来るというシナリオを描いたために、急きょ欧州の2メーカーから1126億円で9900万回分のワクチン輸入を契約してしまった。しかも、当初は全員2回接種という考え方だったが、13歳未満とリスクのある人以外は1回接種良いという方向になり、余計にだぶつき感が出ている。1月12日時点で1400万回分の国産ワクチンがまだ出荷されていない状態でも、世の中では既に737万回分は余っていると言う。今後供給される輸入ワクチンには現在3都県くらいしか希望していないという状態で、今のままでは大半が使用されずに廃棄される可能性がある。

 実は欧州でもワクチンが余っていて、ワクチンの一部キャンセルやWHOや途上国への提供を申し出ているという。そうなると、なかなか日本にある輸入ワクチンのはけ口を見つけることは難しいし、もし受け入れてくれても副作用被害が起きた時の保障は誰がするのかという問題が生じるだろう。どうせ廃棄する事態になるのなら、いっそのこと輸入ワクチンについては集団接種を条件に無料で摂取を行い、摂取したグループとそうでないグループの感染状況などを調べる大々的な疫学調査で比較検討する計画でも立てると今後の感染対策に貴重な情報を提供してくれるかもしれない。

 そもそも、ワクチンを接種すればインフルにかからないわけではない。米国の「予防接種の実施に関する諮問委員会」の見解では、ワクチン株と流行株が一致した場合、65歳以下の健常成人での発症予防効果は70〜90%という。つまり、10〜30%くらいの人はワクチンがあっても感染するということだ。とはいえ、感染してもワクチンを摂取している人の方が重症化、死亡が少ないので、当然予防効果はあるのだろう。

 新型インフルでも大切なのは、かかってしまった時の対処、薬剤投与である。現在、商品名でタミフル(オセタミビル)とリレンザ(ザナミビル)という薬がある。タミフルはスイスのロシュ社の製品だが、国内では中外製薬が販売しており、同社の今期売り上げは前年の9.1倍の762億円に上った。全体の純利益も566億円と今年度は豊かな会社である。リレンザ(グラクソ・スミスクライン)はまだタミフルほど販売されていないが、粉薬を吸い込んで投与する方式は、ウィルスが付着しやすい喉や気管支などに直接到達するので、薬剤輸送上望ましい投与方法である。さらに最近では、塩野義製薬が国内初の治療薬で、点滴を使って投与される薬剤を発売した。消化器を経由せずに投与できるので乳幼児や老人にも良いかもしれない。薬剤は投与方法が多様になってくれると、より使いやすいものになっていくだろう。

 病気の対処法と言えば、当然のことだが、まずかからないようにすることだ。そのためにはワクチンなどの投与で自己バリアを作っておき、健康な状態を維持する。そして、もしもかかってしまったら早めにタミフルなどの治療薬を処方してもらうという手順が適切であろう。既往症がある場合は、観察しながら適切に対処するしかないのであり、大切なのはこうした対処の流れ、全体のバランスがきちんと保たれているかどうかが大切である。

 ワクチン接種については、乳幼児、高齢者、呼吸器系疾患を持った方などは、副作用情報をきちんと皆で理解した上で、優先的かつ定期的に摂取することが望ましい。それが実現するためには無料化が前提となるだろう。だが、もう一つ忘れてはいけないのは、いわゆる経済活動の担い手である大人が仕事に支障をきたさないために企業をあげて計画的にワクチン接種に取り組むという課題である。低年齢での脳症など問題はあるが、子供は極端な話、感染者が多くなれば学級閉鎖をして家で寝ていればいいのである。大人の感染さえコントロールされていれば世の中の動きはそれなりに進んでいくし、インフルはピークが過ぎればおさまる。

 そう考えていくと、今回のワクチン備蓄は余りにもパンデックを想定した数集めに走り過ぎきらいがある。その原因として、ワクチンを手にしたときに、どのように広く摂取させていけばよいのかという戦略・戦術を日本がまだ持っていないからだ。多くの人に摂取できることを考慮して、10ml入りの大きめのバイアルを優先して供給すると、小さな医院(通常はこの医師たちがワクチン接種の主な担い手)では、接種を受ける人がそろわずに一部余り、捨ててしまうという事態も発生した。中には、余ったワクチンを自分の孫に摂取して怒られた医師も出る始末。ハードはソフトがなければ動かないという典型である。

 よく食品の分野でも「フードディフェンス」という言葉が使われる。日常管理のフードセーフティーだけでは事件には対応できないから駄目だよという意味でもあるが、要するに決まったことだけやっていると、必ず予想からはみ出す事態が起こる。処理できない問題点は日常的に発生するのだ。それをみんなで知恵を絞り、柔軟な発想でどう前例主義から脱却して対応できるかにかかっていると思う。そういった意味で今回のワクチンに関するだぶつき問題は、日本が抱える共通基盤のもろさを私たちに垣間見させてくれる格好の機会であった。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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