科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

斎藤くんの残留農薬分析

人工物の安全性は信用がならず、天然物はまあ安心という誤解はなくしたい

斎藤 勲

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 最近ふと思うことがある。どうすれば食に関する安全の問題を消費者に理解してもらえるのだろうかと。というのも、人工物はいくら安全性の評価がなされても、どうも消費者の不安感をぬぐえない。それなのに、天然物は「前からあるし、食べていてもそれなりに大丈夫だからいい」という雰囲気さえある。安全性について説明が悪いからだという指摘もあるだろう。だがそもそも、食の安全とは、そういったイメージなどの分け隔てなく科学的な調査や評価に基づいて確保されていくべきものなのだ。

 消費者にとって、天然物と人工物に対するイメージに大きな差があると如実に感じたのは、ジャガイモの中毒事例だった。小学校などの教育の一環として栽培されたジャガイモを食べることで、含有していたソラニンによる食中毒が発生している。健康影響上問題ではあるが、食の安全とは何かを考えるきっかけを与えたかもしれない出来事だ。畝山さんの最近の著書「本当の食の安全を考える:化学同人」によれば、「ジャガイモのソラニンに農薬と同じような残留基準を設定すると、皮つきジャガイモはほとんど食べられなくなる」と書いてある。私たちはかなりリスキーな食材を、結構気にしないで食べているのである。

 本来、食育の観点からすれば、身近な食材の天然成分の方が健康を害する可能性があることをもっと積極的に教えてもよいと思う。学校の教育現場は、素人栽培のジャガイモでリスクを冒すよりも、おいしい食材を購入して来て、そのおいしさを実感してから自分たちで出来ることは何かと話を進める方法だってあるはずだ。そして、食べ物の安全とおいしさが理解できたら、「しかしね、身近なものでもたまには体をこわすこともあるんだよ。」とジャガイモの中毒などを教えてほしい。ほかにも身近な物の中毒では、アジサイの葉の摂食で嘔吐、めまいを発生させる事例もある。原因は青酸配糖体かと言われていたがどうもそうではないらしい。原因不明だが、花祭りで出された甘茶を園児が飲み、軽い嘔吐症状を訴えた事例も報告されている。身近な食材でも中毒事故が起こる例は枚挙に暇がない。

 日常的に微量に摂取している有害物としてカドミウムがあることも知っておいてもらいたい。3月5日付の朝日新聞の記事によると、環境省が畑作物のカドミウム調査を実施したところ、小麦やホウレンソウなど10品目で国際基準を上回っていたが薬事食品衛生審議会に伝えていなかったことが問題となった。今後、再度部会が開かれコメ以外の畑作物にも安全基準が必要かどうか検討するという。

 この報道で感ずるのは、イタイイタイ病以来問題としているカドミウムの基準を検討することよりも、分かりやすい汚染地域の個別対策をきちんとやってあげることと、日常食品からのカドミウムの摂取状況をよく見て比較検討することだろう。2001年の厚生労働省による日常食の汚染物質の摂取量調査では、1日摂取量は29.3μgでこの10年間ほとんど変化がないという結果が出ていた。暫定耐用許容量PTWI7μg/kg/週と比較すると58.6%、2004年の調査では同数値が42.8%となっている。そもそも非意図的に自然界に偏在するものだから約半分の摂取量でも許容される範囲なのだろうか。

 カドミウムの摂取量の約半分はコメから摂取しているし、歴史的な事例からコメに基準が設定されているのは当然の結果と言えるだろう。しかし、コメ以外の物へも基準を設けるとなると、野菜や豆類だけでなく、魚介類や海藻類なども対象として、食品全体の中でカドミウム摂取をどう減らしていくのかという議論が本来必要なのだと思う。濃度だけで言えば、1ppmを超えるイカの塩辛など食べられなくなってしまうのではないか。そんなつまらない食生活など、誰も望んでいないだろう。

 野菜についても、硝酸塩の問題がある。ADI3.7mg/kg/日と比較すると、成人で133%、1〜6歳では218%になるという。要するに、私たちは基準に対して1.3倍、2倍といった量を日常的に採っているのである。ホウレンソウ、サラダ菜、シュンギクなどには硝酸塩が0.3〜0.5%ぐらい含まれるものもあるから、硝酸塩の摂取量を低減させるには土壌管理がポイントとなるはず。自然界に存在するものだとADIをこれほど超えていても鷹揚でいられるのが不思議だ。ちなみにこの硝酸塩のADIは食品添加物としての安全性評価によって作られた基準で、それを自然界から摂取するものに当てはめるのはおかしいという意見も一方であることも考慮に入れなくてはならない。

 私たちの周りにはいろいろな物質が存在し、それをうまく利用したり、時には健康影響を受けたりもする。しかし、そうした様々な物質で被害も受けたことで、勉強しながらより良い環境を作ってきたのも事実である。大切なのは、食品を介して摂取する化学物質は天然物であれ、合成物であれ、トータルダイエットスタディなどの日常摂取量調査を継続的に行い、その減少傾向などを見ながら、ADIやTDIと比較して現状の評価を適切に行うことだと思う。詳しくは05年10月6日に書いた「顔が見える“トータルスタディセンター”の設立を」も参照してもらいたい。

 この世の中、リスクがある所にそれなりの対処をしていくことは、古くから分かっていることだ。それでも、なかなか統一的に行動できていないのが日本という国である。消費庁などどこかが、リスクに関する適切な情報を基に、消費者目線で語り合える場を設け、多くの人に提供できないものだろうか。たとえ現状では問題もなく、大筋で大丈夫という結果であっても、皆で共有できれば、安心して基本原則に立って行動できるようになる。これだけは何とかして実現化してもらいたいと思う。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

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