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私が見て、感じて、考えた不二家問題(1)

森田 満樹

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 不二家の信頼回復対策会議の委員となった1月末から約2カ月間、外部の目でこの問題の原因究明を行い、信頼回復のための再発防止方策を講じてきた。振り返ると「不二家に一体、何が起こったのか?」という問いかけに直面する日々だったように思う。「洋菓子工場で何が起こったのか?」という品質管理上の素朴な疑問に始まり、経営体制はどうだったか?メディアは一体何を伝えたのか?そしてここまで信頼を失墜してしまった原因は、一体何だったのだろうか?次々と疑問は膨らんでいく。これらの疑問に答えるべく、同会議では社内外のヒアリングや調査といった作業を行い、3月30日に最終報告書を発表した。詳細は不二家のホームページに譲るが、ここでは一委員として感じた個人的な見解を、今日から3回連続でお届けする。

 不二家が、期限切れ原料の使用などの問題から、自ら製造中止を発表した1月11日。初期対応のまずさもあって、激しいメディアバッシングを受けていた真っ只中の1月22日、新社長就任とともに「外部から不二家を変える」改革委員会が発足した。同委員会は7名の専門家からなり、約2カ月の間に11回開催され、不二家の経営革新を中心に、企業理念や事業戦略など多岐にわたって提言が行われた。

 また、この委員会とは別組織で、問題の原因究明と再発防止策を講じる外部検討会の役割を担ったのが信頼回復対策会議だ。こちらは弁護士を中心とした5名のチームで、6回の会議を経て報告書をまとめた。

 私は「外部から不二家を変える」改革委員会に2回まで参加し、その後、信頼回復対策会議に移って活動を続けた。というのも、改革委員会は経営革新といった観点から主に提言を行うものであり、食の安全や消費者とのコミュニケーションといった私の関心分野からすれば、信頼回復対策会議の方が適しているだろうという自他ともの判断からであった。誤解がないように言っておくと、改革委員会でも食の安全・安心の観点からの議論はされたのだが、経営の透明性の向上や会社の意識改革といった問題解決がとにかく先決だったのである。

 この改革委員会だが、メンバーは、田中一昭委員長(拓殖大学政経学部教授)、久保利英明副委員長(弁護士、日比谷パーク法律事務所)、上原征彦氏(明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授)、兼本俊徳氏(弁護士)、西藤久三氏(財団法人食品産業センター理事長)、濱田邦夫氏(弁護士)、吉永みち子氏(ノンフィクション作家)からなり、週に1回から2回という開催頻度が物語るように(スケジュールも事務局主導でなく委員がその都度調整をして決めた)、熱意をもった委員から厳しい意見が出された。

 改革委員会は、これまでの創業家出身が中心の取締役会を実質的に機能停止させ、新社長を中心とした執行役員会が改革を進める形を後押しした。回を重ねるにつれ社員の意識改革、風土刷新が進んでいったように思う。また、委員会が行われる毎に、田中一昭委員長、久保利英明副委員長が必ず記者会見を開き、積極的に情報開示を行った。会見に出席した記者に聞いたところ、「委員会が行われる度に会の様子を丁寧に説明されたことで、記者たちの心象も変わった。そんなこともあってバッシング報道が少なくなっていったのではないか」という感想であった。

 もう1つ余談であるが、記者会見を開始した当初「毎回記者会見するたびに電話が殺到して、体調を崩すものが続出しています。このままでは死人がでます…」と直訴した社員に対して、田中委員長は一喝、「ここで頑張らないでどうする。会見は必ずやる」と机を叩いたそうである。企業におけるクライシスマネジメント対策として、メディアとの適切なコミュニケーションがいかに大切かは、よく言われることである。その役割を外部の委員が担うことで、第三者としての中立性や客観性が加わり、結果的には企業とメディアのコミュニケーションがうまく回り始めた好事例だったように思う。

 熱意といえば、信頼回復対策会議の郷原信朗議長(桐蔭横浜大学法科大学院教授コンプライアンス研究センター長)もすごかった—-というのが、ご一緒させていただいた一委員としての感想である。議長は「不二家の問題は、1人の健康被害も出していない。それがここまで大きな問題になった原因、信頼を失墜させてしまった原因は何なんだ」という視点で、社内体制の問題、メディア報道のあり方に斬り込んだのである。ほかメンバーは、赤松幸夫氏(弁護士)、森山大輔氏(弁護士)、大久保和孝氏(後任会計士)で、私は外部委員の中で自ずと食品衛生や消費者からの視点を担うことになった。

 3月30日の最終報告書はA4で30ページを超す長いものであるが、この報告書の提言の最後に、マスコミ報道の中でも特に悪質であったTBSの「朝ズバッ」報道に対する厳正な対処も求めている。最終報告書発表時の記者会見も、この件に関する質問が数多く出た。郷原議長はその後もTBSに謝罪を求め、去る4月18日、TBS「朝ズバッ」放映時に謝罪が行われた。

 ところで、1月中旬より実質的な販売ができなくなるまでに追い込まれた不二家だが、再開までの道のりは、決して平坦ではなかった。1月下旬から2月にかけて工場における原因究明を行い、問題となった衛生管理マニュアルなどのすべてのマニュアルを刷新するなどの改善措置を講じて、2月初旬に管轄保健所と農林水産省に報告を行った。

 2月5日には、山崎製パンからの食品安全衛生管理体制の整備の支援を受けることを決め、製造現場ではAIB食品安全システムを導入し、この日を境に飛躍的に改善が進んだ。工場がどのように生まれ変わっていったかは、また別稿でお伝えしたいが、各工場では山崎製パンの青い制服を着た社員が、不二家の白い制服を着た従業員に対し、熱意を持って指導する場があちこちで見られた。埼玉工場だけで設備など約1100件を改善し、虫などの侵入を防ぐため隙間など1万個所をふさいだ。こうしてハード面だけでなく従業員の意識改革も急ピッチで進められ、約1カ月でAIB監査にこぎつけたのである。

 3月に入って不二家は再生を宣言、管轄保健所の報告を行い、立ち入り調査と確認が行われ工場の製造を順次再開させた。製造再開の工場の様子はマスコミに公開され、3月20日には消費者団体による工場見学会と説明会も行われた。1月の第1回改革委員会時に、私は「まず工場を見せて欲しい、そして早く外部に、消費者に見せられる工場になって欲しい」と発言した記憶があるが、約2カ月でそれが実現したわけである。

 その後、3月23日に洋菓子製品の販売再開が開始し、4月に入って供給体制も整って菓子主力製品の販売も徐々に拡大、4月中旬以降には流通業界の理解を得られ、菓子主要3ブランドの販売が本格的に再開した。この間の経緯を振り返ると、不二家社員の方々の努力はもちろんだが、「外部」からの熱意によって様々な提言や支援が行われ、改革が一気に進んだ感がある。

 それでは、そもそも今回の問題はなぜ起きたのだろうか。コトの発端となった現場の実態について、明日お伝えする。(消費生活コンサルタント 森田満樹)

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