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タイFDAが一元化するタイの食品表示はいたってシンプル

森田 満樹

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 偽装表示で昨年1年が総括されてしまった日本。遠く離れたタイの食品表示は、いたってシンプルだ。法律で定められている最低限の表示品目といえば「品名」「日付表示」「製造者」「重量」、そしてタイ独特の「オーヨーマーク」と呼ばれる「登録番号」だけ。これに加えて、品目ごとの特性に応じて、原材料等の詳細情報が義務付けられる。日本に比べると物足りないように思えるが、自由度は高く、任意表示も多くて、この地にあっているような気もしている。

 タイにおける食品表示は、当然のことながらタイ語である。消費者に直接販売される食品の表示は、タイFDA(保健省食品医薬品局)が規定しており、タイ語による表記が義務付けられている。所轄官庁はタイFDAに統一されており、誤認表示の禁止などもこの中に盛り込まれている。日本のようにたくさんの省庁にまたがって、表示が規定されていることを考えると(福田総理大臣が年頭挨拶でこの点に触れて、一元化を目指す方向であるらしいので今後は整理されていくことを期待するが)、タイの法律はいたってシンプルといえるだろう。

 ところで、タイ文字をご覧になったことがあるだろうか?独特の文字に母音や声調記号が組み合わさった実に複雑な形で、外国人にとってはまるで呪文のようである。食品によっては、表示全てがタイ文字、数字までタイ文字なので、この食べ物は一体何なのか、いつまで食べられるものなのか、想像もつかない。(もっとも日本の表示だって、あまりにも詳細で細かく表示してあると読む気がしなくなり、そうなると呪文のようではあるが…)。

 タイ文字で何が書いてあるのか知りたいと思ってタイ語の勉強を始め、ようやく最近、ちょっと分かるようになってきた。たとえば写真のおにぎりの表示は、上から製造年月日、賞味期限、保存方法(ここまで英語)、品名、オーヨーマーク、重量表示、製造者となっている。この場合は日付表示が西暦でわかりやすいのだが、西暦ではなくタイ歴(西暦+543年)で、月もタイ文字だったりするケースも多い。また、本来、タイ語による表記が義務付けてあるのに、この表示はなぜ英語も混ざっているのかわからないのだが、私にとっては、分かりやすい表示である。タイではコンビニやスーパーでこうやっておにぎりを販売しているのだが、タイ人もおにぎり好きで、売れ筋商品である。

 この中のオーヨーマークとは、食品医薬品局の規定により認可された食品登録番号を、船の錨に似たマークの中に表記するものだが、これがなければ、タイ国内で食品として販売することができないとされている。国産品も輸入品も一律にこのマークが表示されており、タイ独自の義務表示項目だ。表示の大きさも決まっているようで、わりと大きな目立つ表示である。日本では、食品衛生法に違反するものは販売してはならないのが当然なので、国の認可番号を表記するという発想は無いのだろうが、タイでは路上などでわけの分からないような食品が販売されるということが背景にあって、それを排除するという目的があるのだろう。私はとりあえずこれを確認することにしている。

 次に日付表示。日付表示のルールは、製造年月日、製造年月、賞味期限のどれかを表示することとされており、(1)保存期間が90日以内の食品の賞味期限年月日(2)保存期間が90日を超える食品の製造年月と賞味期限年月日の2つに分けて、定められている。実際は、おにぎりの事例のように(1)のものでも製造年月日を自主的に表記しているものが多く、日本にいた時よりも、製造年月日+賞味期間という併記の表示を見る機会が増えているようだ。不思議だなあ。

 不思議なことがもう1つ、日本では製造年月日と期限表示がもし併記されていたとしても、期限のごく短いものに限られるが、タイでは、それが逆の場合も起こりうる。たとえばタイでは牛乳は賞味期限のみの表示がされており、食卓塩に製造年月日とそれから5年後の賞味期限が併記してあったりする。塩の賞味期限というのもどうかと思うが、あまりに賞味期限が先なので、一体いつ製造したの分わからないから、製造年月日を併記するのか。5年間のシェルフライフは科学的な根拠はさておき、商品としてそんなに回転しないのはどうかとも思うが、資源を大切にする今の潮流に合致しているかもしれない。

 日付表示はいろいろと調べると面白い事例が出てくる。魚肉練り製品の竹輪の表示では、製造年月日と賞味期限が併記されており、賞味期限が冷凍保存下で1年後の日付になっている。保存方法がマイナス18度下で冷凍保存となっており、冷凍するとそんなに長く食べられるとは新たな発見である。可食期間に安全係数をかけて、賞味期限をどんどん短くしていく日本の食品とは違う発想だと思う。
 この竹輪、主要原材料表示について重量割合の表示もされており、原材料欄に魚肉が51%、でんぷんが30%……と続いて表示されている。タイでは、牛乳、乳製品、肉製品など特別な管理が必要とされる50品目以上の食品について、全体重量に占める主要成分の割合が義務付けられており、この事例のように品目によっては日本では知ることができなかったような情報が公開されているものもある。一方で、原産地表示については、タイでは全く義務付けられておらず、なかなか知ることができないが、こだわる場合は限定されたお店の任意表示に頼ることになる。

 日本では、表示規則は各項目が厳しく定められており、たとえば原材料は重量順にすべて表示を義務付けて、ものによっては原産地表示まで義務付けて、それを徹底させるよう監視していく。昨年の偽装表示問題を受けて、今年はさらに指導監視が厳しくなるのだろう。それに対して、タイは最低限の表示を絞って、品目によってフレキシブルに対応する。日本のように高品質で表示基準を厳しく遵守することを求められない分、コストがかからず安価に供給できて、商品が回収されることもない。それぞれの国民性の違いといえばそれまでだが、新年早々、いろいろと考えさせられるタイの食品表示なのである。(消費生活コンサルタント 森田満樹)