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目指せ!リスコミ道|森田 満樹

中国ギョーザ事件、政府の取り組みがやけに早いが的を射ている?

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2008年2月6日

 誰が?なぜ?どうやって?中国製ギョーザ事件の真相は未だ闇の中だ。それにしても今回、政府の再発防止策の動きがやけに早い。原因が究明されていないうちから、水際検査体制の強化や加工食品の原産地表示の検討が始まり、消費者行政新組織も前倒しされることになり、今後輸入食品にますます高いハードルが課せられることになりそうだ。これだけの事件だから、規制強化は当たり前、と言われそうだが、そうだろうか。この問題はどこの国でも起こりうる、嫌がらせ目的の限定的な毒物混入かもしれない。そうだとすれば、これからも起こるだろう同様のリスクにどう対応するのか、情報一元化やリコール対策を強化して、官民挙げて対策を講じることが先決だと思うのだが。

 この報道に触れた1週間前、加工品にそんなに大量の農薬が残留するはずはないと最初は耳を疑った。誰かが故意に混入させたことは容易に推測できたが、その時とっさに思い出したのが、和歌山カレー砒素混入事件だ。この事件は、犯人が町内会のカレーに砒素を混入させて、無差別に隣人らを攻撃したものだった。どんな時代にもどこの国でも、自分が所属する社会に不満を抱き、報復してやろうと思っている輩がいる。その報復手段として、食品に毒物を混入する手段は、古典的で手っ取り早い方法だ。

 今回の事件が厄介なのは、製造工場が中国にあること、そして毒物が農薬であることだろう。以前から「中国食品=農薬が危ない」という図式があったので、それが決定的になってしまった。問題の本質は嫌がらせ目的の毒物混入かもしれず、そうなると中国の残留農薬問題とは別問題なのに、話がごちゃまぜになってしまった。加えて反日感情が嫌がらせの動機ではないかという憶測まで飛び交い、日本の消費者に報復するために毒物を混入したのではないか、と言い出すメディアまで現れ始めて、情報は混乱する一方だ。

 さらに今回の事件について、食品テロということばも聞かれる。テロということばそのものが消費者の大きな不安を改めて引き起こすことにもなりかねないので、原因究明が終了するまでは安易に使うべきではないが、しかしその種の対策が国も企業もかなり遅れていることは確かだろう。同じ製品について散発の苦情が数カ月前からあったにもかかわらず、JTも日生協もリスク対応が不十分でリコールも遅れ、問題を大きくした感は否めない。地方の保健所対応や国の情報一元化対応についても今回、不手際が目立った。マニュアルどおりの対応はしても、想定外のリスクに想像力も働かず、思考停止に陥ってしまったのだろうか。

 確かに、従来のISOやHACCP、事故対応のマニュアル参考書などをみても、この種の対策についてはあまり具体的には触れていない。日本の食品企業のリスク管理は、危害分析が極めて精緻に行われその対策は細かく講じられているが、その一方で、食品テロやバイオテロ、嫌がらせ目的の異物混入といった危害分析や対策は、あまり明文化されていない。結局ケースバイケースで対応せざるを得ないのだろうが、そうなると個人や企業、団体の資質に拠るところとなり、危害が拡大することにもなりかねない。20年以上前に起こったグリコ森永事件では、企業は今のように精緻なリスク分析の手法は持っていなかっただろうが、とにかく個人や企業が考え抜いて対応策を講じたのだろう。

 そういえば今回の問題の対策について、2、3日前のNHK報道で、中国経営コンサルタントの識者が「中国に委託工場を置く場合は、必ず品質保証担当者を駐在させないと、食の安全は守れない」とコメントしていた。もちろんその方がよいに決まっているが、しかし担当者を駐在させたところで500人以上の工場の1人ひとりを見張っていられるのか、悪意を持った故意の行動が防げたかどうか。また、ある識者は「消費者の安全にかかるコストは惜しむべきではない」とコメントしていたが、この種の問題にどれだけのコストが必要なのだろうか。

 さて、それにしても、政府は原因究明が終わらないうちから、次々と対応策を発表している。消費者重視政策を打ち出していた福田総理は、今回の問題を受けて消費者行政新組織を前倒しで立ち上げるという。食品表示法(仮称)という新しい法律も加速的に検討されることになり、賞味期限と消費期限の統一、さらに今回のギョーザ問題を受けて加工食品の原産地表示の明記も議論される。年金問題やそのほか山積している問題に比べると、やけに対応が早いではないか。

 でも、これって、何年もかけて食品表示共同会議で有識者がたっぷり議論してきたことではなかっただろうか?加工食品の原産地表示を義務付けることが、この種の問題の対応策になるのだろうか?そんなことになったら、また偽装表示が増えて、規制が厳しくなってというスパイラルに陥りそうな気がするのだけど。

 それから、枡添厚生労働大臣がこの問題について、食品衛生法第8条の「包括的輸入禁止措置」を発動するようなことを参院予算委員会で答えていたが、今回の問題で包括的輸入禁止措置を使うのか?どっちみち天洋食品の輸入はストップしているし、そもそもこの措置の目的は「特定の国や地域で製造・加工された食品や添加物について、必要な場合、輸入・販売の禁止措置をとることができる」とされるもので、本来の目的にそぐわないような気もするのだが。そういえば、昨日は「こんなに加工食品が大量に輸入されていたとは考えていなかったことなので、新たに措置を講じたい」というコメントも出していた。これまた今回の中国製ギョーザ問題とは論点が異なるような気もするのだが。

 さて、この問題が起きた翌日から、業界の中国離れの動きが加速しているようで、タイの食品業界が、今後は忙しくなりそうである。もともと、中国リスクが高まれば、タイに市場が移るという綱引きの状態だったが、知り合いのタイ資本の食品商社から聞いた話によると、報道の翌日から日本から冷凍加工食品の新たな発注が殺到しているという。そんなに急に工場の生産量が増やせるはずもなく、対応に苦慮していると苦笑いをしていたが。少なくともタイは反日感情はないので、食品テロといった可能性は低いのだが、それでも従業員のクーデターなど全く無いわけではない。政治的不安というリスクも抱えている。

 それでもタイに期待できるのは、タイの食品行政はタイFDAによって一元化されており、すべての情報も一元化して集中するシステムになっている点だろう。先日、タイFDAのfood control divisionの責任者Tipvon氏にお話を聞く機会があったのだが、EUや日本のリスク分析手法をいち早く取り入れようと日々努力しており、farm to tableにおけるリスク管理が拡充できるよう、教育や指導に力を入れているということであった。タイ国内はもちろん、海外における事故情報も集中して管理しており、モニタリングも次第に拡充してきている。詳細は次号でお伝えしたいが、食品安全確保システムの姿勢はかなり整っている印象を受けた。

 ところで話は脱線するが、今回の問題について、在留邦人の消費者としての私は、実はほとんど影響を受けていない。日本にいる時には、あれだけ冷凍食品に世話になっていたのに、ここでは冷凍食品には頼れない。タイでは、日本の冷凍食品は販売されているのだが、日本の3倍の値段で(たとえば、冷凍ギョーザ1パック200バーツ=700円)、屋台のラーメンが20バーツの物価感覚では、高くてとても手が出ないのである。子供たちの学校は毎日弁当なので、使いたいのは山々なのだが。ほかのお母さんの話を聞いても同様で冷凍食品利用率はかなり低い。ちなみにタイの冷凍食品は、お弁当向けの商品はほとんどない。さて、日本の消費者が今後、冷凍食品の値段が上がるとすれば、どこまで許容できるのだろうか。

 現在、いち早く原因究明が求められるが、その一方でこの種のリスクにどう対応したらよいのだろうか、もっと冷静になって考えられないものか。これまでの流れを外国からみていると、国も製造者もメディアも、消費者(国民)という実体の無い「化け物」に過剰に反応しているように思えてならない。冷静になって考えれば嫌がらせの類の異物混入は何もこれが初めてではない。これまでもあったし、模倣犯もいたし、これからもあるだろう。そのたびに、スピーディに被害を最小に食い止めるべく、適切なリコールを行うこと、その情報を公開するシステムを作ることが求められるのではないか。(消費生活コンサルタント 森田満樹)

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