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目指せ!リスコミ道|森田 満樹

本当に消費者のためになるのか「消費者庁」

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2008年6月4日

 福田康夫首相が掲げる「消費者庁」創設に向け、消費者問題に関連する法律をどう移管するのか、現在、閣僚間で折衝が行われている。食品表示関連の法律としてはJAS法、食品衛生法、景品表示法などを移管して一元化することが検討されており、食品安全基本法までもが検討の対象となっている。消費者庁創設は消費者問題に携わる人々にとって長年の悲願であり、大きな前進であることには違いない。しかし食品分野に限っていえば、本当に消費者のためになるのだろうか。

 福田首相は就任以来「消費者重視の行政への転換」を重要課題として掲げてきたが、年初の中国ギョーザ問題を受けてこの問題の検討を早め、2月には消費者行政推進会議を発足させている。同会議は、これまでに7回開催されており、来年度「消費者庁」創設に向けて、現在急ピッチで具体案がとりまとめられている。5月21日には最終報告書の素案がまとめられ、これをもとに、6月上旬には最終報告書が提出される予定である。素案では、消費者庁(仮称)が担う行政分野は、商品・金融などの「取引」、製品・食品などの「安全」「表示」など3つの分野において、消費者に身近な問題を取り扱う法律を幅広く所管するものとしている。

 これまで消費者から見た食品事故に関する問題点として、行政の窓口に苦情がきても受付対応が不適切だったり、窓口間の情報共有ができず、被害の拡大を食い止められない点が指摘されていた。たとえば、中国産冷凍ギョーザ事件では、医師から保健所への届出が適切に行われず、保健所から地方公共団体、地方公共団体から厚生労働省の連絡が適切に行われなかったことから、迅速に被害が食い止められなかった。また、こんにゃく入りゼリー事件では、物理的に問題のある製品であったことから食品衛生法が適応されず、法律のすき間で適切な規制が行わなかったために、死亡事故が続発した。

 これらの点に対応して、素案では一元的な情報集約、危険情報の早期発信のシステムづくりを急ぎ、消費者が頼れる分かりやすい相談窓口を消費者庁に設置することを提案している。また、法律のすき間をなくすため、新たな法整備などの対応も盛り込まれ、併せて身近な問題を取り扱う法律を幅広く所管することも求められている。素案によれば消費者庁が満たすべき6原則は、(1)消費者にとって便利で分かりやすい(2)消費者がメリットを十分実感できる(3)迅速な対応(4)専門性の確保(5)透明性の確保(6)効率性の確保、となっている。

 さて、問題は食品の「表示」「安全」分野において、どの法律をどう移管するのかという点だ。まず「表示」については、農林水産省の日本農林規格(JAS)法、厚生労働省の食品衛生法、公正取引委員会の景品表示法、さらに厚生労働省の健康増進法が該当するが、これらの法律を移管して新たに「食品表示法」という大きな枠組みをつくるという案もあるようだ。しかし、それが果たして可能だろうか。それぞれの法律は「消費者の選択の目安」「食品の安全性の確保」「不当な表示の規制」と、そもそも目的が異なる。食品は種類によって生産、流通、消費、加工方法が異なるため、表示方法は目的に応じて個別に丁寧に議論して何度も見直して、時間をかけて今の形になったはずである。

 その結果「消費者に分かりにくい」という点は否めないところであるが、その点については法律の垣根を越えて、食品表示共同会議で長く議論してきた経緯がある。ここで、さらに消費者庁に移管して、法律を一元化することになれば、混乱を招くだけではないだろうか。消費者に対する「分かりやすさ」に配慮するあまり、たとえば賞味期限と消費期限を統一するといった奇抜な案が検討されるような懸念も出てくるだろう。既に厚生労働大臣が食品衛生法の一部移管に前向きと報道されているが、これまでの経緯も踏まえてよく検討していただきたいものである。

 次に「安全」に関する法律の移管である。「安全」については、食品安全委員会の食品安全基本法の移管が検討されている。今回の消費者庁の創設に当たっては、日本弁護士連合会が支援しているというが、同会が先月まとめた「消費者庁が所管すべき法律等についての意見書」においては、「食品安全基本法は、食品の安全性の確保に関し、基本理念を定め・・・食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的としている。安全の問題については、総理の基本方針でも重視されている。食の安全に関する基本法である本法を移管することは不可欠である。その上で現状の問題点を整理し、消費者のために機能する制度に再構築する必要がある」とまとめている。

 さて、食品安全基本法を消費者のために機能する制度に再構築するとは、どういうことだろうか?食品安全基本法のベースには、リスク分析手法に基づいて「科学の目で守る食品安全」が基本のはずだ。食の安全について国際的な手法を取り入れて食品安全を評価するシステムができて、まだ5年しかたっていない。消費者庁に移管云々の前に、食品安全委員会が十分に機能することのほうが、食品安全行政上大切ではなかろうか。

 何か起こると、その度に新しく規制監督官庁をつくる、しかも中国ギョーザのような特殊な事件に対応して、法律を見直す。こうした対応は、食品事故の再発防止に果たしてつながるのだろうか?表示に関する法律や食品安全基本法がたとえ1つも移管されなくても、消費者庁が勧告、是正権限をもつような法律のすき間を埋める別の枠組みをつくれば、それだけで事故の未然防止につながるのではないだろうか。

 さらに、消費者庁に設置される相談窓口のあり方も問題だと思う。素案をみると、消費者から「何でも相談できる一元的相談窓口」を設置するとして、「都道府県等の消費生活センター」が最初の窓口となっている。そこから矢印が出て、「関係機関の窓口(保健所等)」「国民生活センター」などに情報が入り、それぞれが消費者庁に緊急連絡することで、消費者庁が司令塔となって一元的に対応するという。この図だけみれば、相談窓口の一元化が可能なようだが、いざ、食品の事故が起こったときに、果たしてどのくらいの人が消費生活センターに相談するだろうか?

 消費生活センターは、このところ財政事情の悪化で職員数は減少傾向にある。相談窓口は消費生活コンサルタントなどの資格を持った人が担当する場合が多いのだが、私の友人もここ数年人員削減で仕事が減ったと嘆いている。今回の消費者庁創設は、こうした地方の消費者行政のてこ入れもあるが、そんな現状で、来年度の消費者庁創設に向けて窓口業務が急速に拡充できるのだろうか。

 しかも、消費生活センターの相談窓口は、これまで悪徳商法や生活用品の事故が中心であり、食品に関する相談はあまり受け付けていない。食品関連の事故、相談であれば、製造業者、流通業者、保健所、地方自治体の食品衛生監視課、地方農政局、国民生活センターなど、ほかにもたくさんある。複雑な表示の問題や食品安全の問題は、それぞれの法律の所轄担当者でなければ分からないこともあり、結局は直接問い合わせをしたほうが早いのではないだろうか。

 むしろ、いかにさまざまな窓口から寄せられる事故などの情報をいかに一元化できるかという点にかかっているように思う。現在でも関心の高い地方自治体においては、食品安全や表示関連担当者が横の連携を強めて、日頃から情報共有のための新しい枠組みを整備する等対応してきており、そうした動きを地方中心に活性化させるのも1つの方法ではないだろうか。

 ここで誤解があっては困るが、何も消費者庁創設に関して反対しているわけではない。詐欺まがい商法はいつまでたっても横行しているし、商品の欠陥によって生命にかかわる被害も後を絶たない。悪徳商法は年々巧妙になり、商品事故は多様化している中で、消費者庁を創設し、強力な権限を持たせることは画期的なことである。しかし各論で食品表示や食品安全問題を考えると、本当に消費者のためになるのだろうかと思えてならないのだ。

 来年度の創設に向けて議論が進む中、法律が移管されて人や予算も移されて、屋上屋を架す組織ができるだけならば税金の無駄遣いにもなりかねない。近く発表される消費者行政推進会議最終報告書の詳細に注目したい。(消費生活コンサルタント 森田満樹)

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