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目指せ!リスコミ道|森田 満樹

流通量1%日本有機JASも揃うタイの食、多様性が失われる日本の食

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2008年7月30日

 海外に住んでいると、日本の野菜や果物を懐かしく感じるもの—-。そういう在留邦人のニーズに応えて、日本の農家から生鮮青果物を宅配便で個別配送するサービスが、ここバンコクで始まった。有機栽培や特別栽培によってつくられた青果物が、航空便によって収穫の2日後には海外在住消費者の手元に届けられる。こうしたサービスによって選択肢が広がることはありがたいことだが、バンコクでは実は食品の選択の幅が実はけっこう広くて、多様な食品にあふれている。

 海外向け生鮮青果宅配便のサービスを展開するのは、千葉県成田市近郊の農家が集まってつくった生産者連合デコポン。1994年から海外宅配事業を開始して、シンガポール、香港に新鮮な野菜や果物、卵を14年間配送してきたという実績を持っている。この2都市で既に数百件の顧客を持っており、このほどバンコクでも事業をスタートすることになって、先週、市内のホテルでお披露目会が開催された。

 お披露目会では70人近いバンコク在住消費者が集まり、その関心の高さをうかがわせた。私も友人と参加したのだが、「タイの野菜の安全性が心配」「日本の新鮮な野菜を食べたい」「子供の野菜嫌いを治したい」「おいしい卵かけご飯が食べたい」と参加の動機はさまざまであった。バンコクの在留邦人数は3万〜4万人ともいわれており、たいていのものは手に入るのだが、それでも入手困難な日本の野菜はいくつかある。例えば春菊、ミョウガ、ピーマン・・・。ピーマンは、肉厚のパプリカやシシトウは手に入るのだが、日本のあの皮が薄くて軟らかいピーマンは販売されていない。ナスやトウモロコシもパリッとした食感のものはなかなかお目にかかれない。

 そんな声に応えて配送される青果物は、野菜12〜15品、果物1〜2品、卵1パックのセットで、これを「お野菜箱」として2週間に1度、自宅に届けられる。価格は4800バーツ(1バーツ3.3円)で、航空便のためオイルサーチャージも含めてコストがかかるだけでなく、タイの関税の高さもネックとなっているそうだ。ただし数カ月間は、キャンペーン価格として3800バーツで販売されるという。

 当日の会場にはサンプルが展示されていたが、野菜には有機農産物の証明である有機JASマークや、特別栽培農産物の表示が貼付されていた。有機JASマークの生鮮品を、この地で定期的に目にすることができるようになるとは、感慨ひとしおである。何しろ、日本でも有機JAS生鮮品の流通量は1%にも及ばないのだから。在住年数の長い友人は「このマーク、初めて見た」そうである。

 こうした特殊な栽培方法や、特別な品種の青果物を輸出することで「日本ブランド」が確立されれば、日本農業の競争力を高める好機となる。ここ数年、「おいしく安全な日本産品を世界へ」として取り組んでいる農林水産物の輸出促進政策では、さまざまなビジネスモデルが紹介されているが、海外において高品質をどのように認知してもらうのかが課題となるのだろう。

 ところで話が変わるが、バンコクで生鮮野菜を買おうとすると、その選択の幅が実に広いことに驚く。ローカル市場で一袋数バーツの野菜から、ヨーロッパから空輸されたオーガニック野菜や今回スタートする日本の空輸宅配野菜まで、値段の差は数十倍近くになるだろう。日本では、慣行栽培と有機栽培の差はそこまでの開きはないのではないか。もちろん特別な生鮮品「お取り寄せ」や贈答品はこの限りではないのだろうが、普段の買い物で、ここまで価格の差を感じることは少なかった。

 スーパーの卵売り場もしかり。日本の量販店を思い出すと販売品目は常時数品目だったように思う。ところがバンコクのスーパーマーケットでは、販売されている卵の種類が圧倒的に多くて、給餌方法や飼育方法、オーガニックかインポートによって十数品目近くに及ぶ。値段も10倍近い開きがあって、来タイ当初は何を買ったらいいのかずいぶん迷ったものだ。もっとも最近は穀物価格高騰の影響で、卵の値段がこの1年で4割増しになったため(不思議なことに高い卵の値段は据え置きのまま)、迷うこともなくなったが。

 当然のことながら高価な生鮮品になるほど、たくさんの情報が付加されている。タイでは生鮮食品も加工食品も原産地表示は義務付けられていないが、高級スーパーやデパートで販売されている高価な食品は、おおむね原産地表示や栽培方法、栄養成分に関する情報が詰まっている。欧米や日本からのインポート品やオーガニック品は、特にその旨がしっかり表示されているので、安全性に特に敏感な消費者は、しかるべき店で表示を確認すればたいていのものは手に入る。

 また、タイの国産農産物では、農業協同組合によって安全に生産、製造されたものに付与されるQラベルというシールがあって、これがあればタイで慣行栽培されたものであることがわかるので、選択の目安となる。さらにタイの有機農産物認定マークもあり、これも農産物に直接貼付されているので、参考になる。ちなみにQラベルも有機農産物認定マークも、タイ文字でなく英語である。

 一方、タイの消費者の多くが利用するタラートと呼ばれる市場や、屋台で売られているものは、原産地はおろか栽培方法もわからない。タイは中国からも野菜が多く輸入されているので、タラートに積まれている空き箱などから推察できるが、心配であれば避けたほうが無難だろう。それでもタラートでは時々、びっくりするくらい新鮮でおいしくて安い野菜や果物に巡り会えることもある。そうやって選択の幅をじりじりと広げていくのも、自己責任のもとで、また冒険である。

 これだけ選択の幅が広いのは、タイが東南アジアの中でも豊かな国であるということもあるだろうが、安全性や表示について規制が緩やかなことも理由の1つだろう。安全性が心配な消費者は、事業者が自主的に安全情報を表示したものを選べばよい。気にしなければ、安いもので済ませることもできる。多様性という意味においては、日本よりもはるかに豊かな一面を持つ。

 そうはいっても、安全性を脅かすような食品が販売されていたら、これは消費者としてはたまらない。そのリスクの程度がどうにも正確に把握できていないので、何ともわからないが、タイFDAや日本の保健所に当たる部署の専門家の話によると、残留農薬の被害事例はあるという。このため、タイFDAでは消費者向けの情報として、残留農薬除去方法(洗浄、加熱、除去剤の使用など)を解説して、消費者がリスクから身を守る方法を紹介している。安全性と多様性、そのバランスはなかなか難しい。

 ところで、日本では7月28日に「第35回食品の表示に関する共同会議」が開催されて、議題として「最近の食品表示を巡る情勢」が話し合われ、加工食品の原産地表示に関して現在の義務付け品目に加えて、義務付け対象品目のさらなる拡大を検討していくという。この先、一体どこまで表示を義務付けていくのだろうか。表示の信憑性を担保するためにどれだけのコストがかかるのか、食品企業の99%を占める中小事業者にとっては大きな負担となるだろう。こうした規制と引き換えに、多様性が失われることにならないか。そのバランスもなかなか難しい。(消費生活コンサルタント 森田満樹)

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