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目指せ!リスコミ道|森田 満樹

事故米事件をきっかけにJAS法が消費者庁に移管されるとしたら…

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2008年10月1日

 長年、消費者問題に携わってきたものとして、事故米の不正流通問題は大きな驚きだった。今どき、日本で、こんなことが長年行われていたなんて。しかも消費者庁設置前夜で政治が混乱しているこのタイミングで……。これで、農林水産省がこれまで頑なに拒んできたJAS法などの消費者庁への移管が、現実のものとなるだろう。事故米報道はそろそろ終るかもしれないが、食の安全行政、特に食品表示に関する規制は大きな転換期の始まりを迎えつつある。ほんの一握りの悪徳事業者のせいで、食品業界全体が影響を受けることになりそうだ。

 食の安全を揺るがす事件が次々と起こる中で、先月、明らかになった事故米の不正流通問題は、ほかの事件とは明らかに異質で、消費者の信頼を根っこから覆すような大きな社会問題だ。消費者団体に所属する私の友人は「これだけ食の安全について、私たち口酸っぱく言ってきて、行政も業界も大きく変わったと思っていた。でも今度の事故米はひどい。何を信じたらいいの?」と嘆くことしきりである。

 彼女は食品安全基本法もポジティブリスト制度も十分に勉強しており、また、今回の問題は健康に影響なしということは十分、分かっているという。安全性で騒いでいるのではなく、不正を見抜けなかった事故米流通の仕組みとそれを管理できていなかった国に腹を立てているのだそうだ。それなのに、「消費者は客観的な残留農薬やカビ毒のリスクが分からずに、不安になっているのではないか」と言われると、余計に腹が立つそうだ(私が言ったのだが)。

 たまたまばれてしまった事業者の背景には、あとどのくらい不正を働いている輩がいるのか、この事業者は長年不正をしたというが、どれだけ汚れたコメを扱っていたのか、流通した残留農薬やカビ毒の濃度を発表されても、それはほんのピンポイントに過ぎないではないか、そう思うと不安になると彼女は言う。今回の問題は、それほどまでに、消費者の信頼を根底から失ってしまったのだ。

 私はこれまで「輸入食品の安全性」というタイトルで、消費生活センターなどで講演をさせて頂いてきたが、輸入食品の検査手続きを説明する中で「違反が確認されれば、シップバックといってお国に帰ってもらうか、廃棄処分されて、私たち消費者の口に入ることはありません。消費者としても仕組みをきちんと理解して、いたずらに輸入食品は危ないという情報に踊らされないようにしましょう」などと、偉そうに言っていた。

 実際に港に行って輸入食品監視の様子を見学したり、分析の苦労を伺ったり、自分なりに確認してリスクコミュニケーションを行ってきたつもりだ。でもコメは違ったのだ。仕組みにおいても取り締りにおいても、例外だったのである。いや、待てよ。コメだけが例外だろうか。今回の主因は、偽装書類の不正を見抜けなかった農政事務所の仕事の怠慢だが、ほかの食品は絶対違うと言い切れるだろうか。廃棄処分となった輸入食品の書類を偽装するケースは、これまでなかったと言い切れるのか。疑心暗鬼に陥っている。

 講演した際には「検査をする人員が少なすぎるのでは?」「基準値が甘いのでは」という質問はよく受けたが、「廃棄処分のものをかき集めて、儲ける人がいるのでは?」という質問は受けたことはない。これからは、そういう質問も出るのだろうか。どんなに科学を説明してリスク分析やリスク管理の理解を求めようとしても、仕組みが守られてなければ何の意味もない。多くの消費者にとっては、行政や事業者に対する信頼感が先にあって、それから科学なのだ。そうでなければ、何を言っても耳をふさがれてしまう。

 それにしても、絶妙なタイミングでこの問題が起こったものだ。先月19日に閣議決定された消費者庁設置案の中には、農林水産省の業務の本格移管は盛り込まれていなかった。食品行政に関する農林水産省以外の省庁は、消費者庁の移管に協力的だったのに、さすがは農林水産省、これだけ偽装表示問題が相次いでいても、JAS法は絶対に移管させず消費者庁にはわたさないと、これまで頑として動かなかったのである。

 それが、太田農林水産大臣の「ジタバタしない」発言(行政の不始末を科学の問題にすり替える発言?として食品安全史に残るだろう)があって辞職、その後の石破大臣は、就任の記者会見でいきなり「食の安全に関する業務は消費者庁へ移管を検討している」と述べた。この勢いでいけば、来年度発足予定の消費者庁に、JAS法は移管されることになるかもしれない。もっとも次の選挙で民主党が勝って、消費者庁ではなく「消費者権利院」が設立されればもっと話は複雑になるが、とにかく政治が混乱している中で、先は読めない。今回の話だって、何だかどさくさにまぎれて、ほんの1〜2週間で情勢が変わってしまったのである。

 そもそも、農林水産省がミニマムアクセス米のリスク管理をするのは、無理があった。輸入者と検査機関と監視機関が同じだったら、どこかで甘さがでてしまうだろう。今後はほかの輸入食品と同様、食品衛生法違反のコメは国内に入らないよう制度を変えて、監視機関の在り方も見直すそうだが果たしてうまくいくだろうか。

 それはコメだけに限らない話かもしれない。農林水産省は、農家や食に関わる事業者を指導、育成する役割も担っている省庁だから、当然大きな利権がつきまとう。何せ、「性善説」で事業者を見守ってきたそうだから、食品安全におけるリスク管理を担うのには、限界がある。いくら消費者に軸足を置くと言っても、もう片方の足はしっかりと業界に置かれているのだから。

 石破農林水産大臣も食の安全を担うに農林水産省は限界があると考えたのだろう、今のところ、食品表示の部分を含めて、食の安全に関する業務を消費者庁への移管を検討する考えを示している。しかし、本格的にぽんと移管することになれば、すでに閣議決定されている消費者庁の設置関連法案の見直しも必要となり、小規模体制でスタートする予定だった消費者庁も大所帯になってしまう。本当に移管できるのかどうかは、まだ疑問だ。

 もしJAS法が移管されることになるとしたら、どうなるのだろうか。おそらく消費者庁の新しい看板として、まず食品表示の一元化と規制強化に着手することになるだろう。もちろん、これまでも一元化については「食品の表示に関する共同会議」で、長年議論してきた問題なのだが、さらに大ナタを振るった改編が行われるのか。おそらく消費者庁は食品表示に対して、分かりやすさと読みやすさ、さらなる情報公開を要求するだろう。消費者問題の専門家で食品をあまり知らない人たちも議論に加わることになれば、例えば、賞味期限と消費期限の一元化などというおかしな議論がくりかえされるかもしれない。消費者団体から長年問題視されてきた遺伝子組み換え食品の表示だって、一気に議論が進むかもしれない。これらはすべて私の想像だが。

 今の食品表示行政はあまりに複雑なので、表示の一元化自体は喜ばしいことだが、規制や監視があまりに強化されれば、食品企業を疲弊させ、中小企業をつぶし、食の多様化を失うことにもなりかねない。それが消費者の本当に望むところだろうか。たとえば、加工食品の原料原産地表示を大幅に増やすとして作業が現在進められているが、もしこれを消費者庁でやるのであれば、当然のことながらできるだけ多くの情報公開を求められることになるだろう。どれだけの食品企業が、的確に対応していけるのだろうか。

 JAS法を審議する場では、事業者は業界団体などを通して消費者委員や専門家などさまざまな立場の人と同じ席に座り、JAS法のJAS規格と品質表示基準について話し合いを行い、そのうえで内容を精査してきた。私も消費者代表として、4年間委員を務めたが、議論の中には「われわれ事業者もしっかりとルールを守りますから、消費者の皆さんもご理解を頂きたい」として、事業者の主張を取り入れた内容になったものもある。喧々諤々の場面もあったが、行政、事業者への信頼が多かれ少なかれあったので、対話は可能だったのである。事務局であった農林水産省の消費・安全局の関係者の方々は、消費者に軸足を置いて議論が行われるよう常に努力してくれていたと思う。

 それが消費者庁に移ったら議論の形が変わるのではないだろうか。何せ悪徳事業者から消費者の権利を守るための省庁だから、事業者は「性悪説」で議論が進められるのではないだろうか。

 今回のコメ問題を受けて、コメとは直接関係のないJAS法が本当に移管されることになったとしたら、大多数の善良な食品関連事業者はいい迷惑である。それでも、今後も消費者重視の流れは止められない。それぞれの事業者が、さらなる消費者対応の拡充を求められることになるだろう。

 政治家や官僚がその責務をうまく果たさない国で、迷惑を被るのはいつも国民である。そんなわけで、最後にタイの政治情勢について。先月号ではデモ隊に首相府を占拠されても辞めそうになかったサマック首相、一時は国民投票をすると開き直っていたが、憲法裁判所でテレビ出演料受領をめぐって(彼は毎週日曜日、人気の料理番組に出ていた)、いきなり首相資格停止が命じられた。

 新首相には同じ党のソムチャイ氏が選ばれたが、この新首相は2年前のクーデターで追放されたタクシンの義弟。早くも株取引関連の不正を指摘されて、この先も危うい状況だ。非常事態宣言はとうに解除されたが、政局は不安定のまま、タイ経済への不安も拡大して庶民の生活に影響を及ぼしつつある。

 このように政局は不安定だが、食品安全の現場はちゃんと機能しているようだ。タイFDAではこのほど、メラミンに汚染された乳製品が原料に使われている可能性があるとして、OREOビスケット、M&M、SNIICKERSチョコレート菓子などの6製品について、先週、回収命令を出した。先週末にかけて、本当にスーパーなどの店頭からこれらの製品が一斉に消えたのである。タイではこのような大規模な食品の回収は初めてのはずだ。

 ほかにもっと回収すべき製品があるだろうとは思うが、とにかく中国製乳製品のメラミン汚染には敏感に反応している。回収後に製品を分析して、その結果によって販売を再開するかどうか対応を協議するということだが(何だか順番が逆のような気もする)、いずれにしてもタイでも大きな問題となっている。今後の情勢を注視していきたい。(消費生活コンサルタント 森田満樹)

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